《思い出》
僕はまた、電車に乗っている。当てもなく、縋るように通りすぎる景色を横目で眺める。
彼女と通った高校。学校帰り、度々寄り道したショッピングセンター。長期休みに遊びに行った、プラネタリウムと屋内プール――――思い出が通り過ぎていく。
そして、小学校の遠足で訪れたフラワーパーク。
――――――そこで、彼女を見つけた。
◆
ペンキの剥がれたベンチに、力なく腰を下ろしていた。見ているだけで凍えそうな病院服を纏い、虚ろな目が地面を見つめている。
「こんなところに………………いや、ここにいていれたんだね」
やっと、会えた。彼女は生きている。
それが何よりも嬉しくて、涙が出た。考えるより先に身体が動いて、気がついたときには彼女を抱きしめていた。彼女の身体はうんと冷たくて、僕は慌てて着ていたコートを脱いで、彼女に掛ける。
やがて、彼女の目が閉ざされていく。
待って。ダメだよ。いかないで。やっと会えたのに、どうして僕を置いていこうとするの?
救急車が着くより先に、彼女の息が止まってしまいそうだった。
握り返してくれない、彼女の手を、僕は必死になって握るしかない。
君がもう一度目を覚ましたら、話を聴かせて。何度でも、何時間でも聴くから、どうか僕の元を離れないで。朝日を浴びて、今日はいい日だね、ってまた笑い合おうよ。大好きなケーキを食べて、美味しいね、って笑い合おう。少しでも、元気になったら二人で一緒に喜んで、元気がない日には二人で支え合おう。
僕は君がいないと、生きていけないんだよ。
「僕はずっと、側にいるから」
だから、お願い。
「目を覚まして」
◆
その願いは虚しく、それから彼女は植物状態となった。彼女は幾つものチューブに繋がれて、ただ細い呼吸を繰り返すばかりだった。
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