第3話 未来への章 過去を超えて…

 カードショップを飛び出したロロをわたしは急いで追いかけた。走っている訳でないのに、追いつくことが出来ない。


 思えば、いつもそうだったかもしれない。わたしが追いかけた人はいつも追いつかせようとさせず、先を行ってしまう。


 わたしはロロを見失わないよう走った。


 やがてロロの歩みは止まり、わたしも足を止めた。


「ここは……」


「あの日、紫乃宮まゐさん、キミが馬神弾を未来へと誘った場所です」


 思い出す。弾に抱かれ、ゲートに飛び込んだ日のことを。


「紫乃宮まゐさん。ここでわたしとバトルしてください」


「どういうこと?いきなりバトルだなんて……」


「彼が、馬神弾を救うには───、あなたの力が必要なんです」


 


 


 言葉に表せなかった。


 ダンのことと、バトルフィールドでのバトル。


 一年ぶりにこの身を包むバトルフォームは未来でヴィオレ魔ゐを名乗った時のもので、ロロに関しては、わたしの本当の強さを引き出すためと、ダンの姿になっている。


「突然こんなことになって驚きましたか?」


「ええ。もちろんその姿にもだけれど、ゲートを開いたってことは……あなた、グラン・ロロから来たのね」


「黙っていてすみません……ですが、あなたの力を借りなければ成せないことなのです。先攻はわたしが。スタートステップ」


 第1ターン目、ロロはモルゲザウルスを召喚。続く2ターン目、わたしはソードールを召喚し、ロロのライフを削った。


 3ターン目、ロロはブレイドラをレベル2で召喚した。


「マジック、《スターリードロー》を使用します」


 ロロはスターリードローでサジット・アポロドラゴンとシャインブレイザーを手札に。そしてモルゲザウルスをレベル2にアップしてターンエンドした。


 続く4ターン目、デモボーンを召喚、ソードールで再びロロのライフを削る。


 そして五ターン目。


「龍神の弓、天馬の矢。戦いの嵐を鎮めよ。光龍騎神サジット・アポロドラゴンを召喚。不足コストはブレイドラから確保。続けてアタックステップ。サジット・アポロドラゴンでデモボーンに指定アタックします」


 デモボーンは破壊され、ロロはターンエンドした。


 六ターン目、ソウルホースを召喚し、ソードールで攻撃。ロロのライフは残り2。


 バトルは7ターン目に突入した。


 ………どうも変な感じがする。1ターン目からこれまで、この盤面にデジャブを感じる。


「メインステップ。輝竜シャイン・ブレイザーを召喚します。そしてシャイン・ブレイザーをサジットアポロドラゴンにブレイヴ!モルゲザウルスをレベルアップしてアタックステップ!ブレイヴスピリット!アタック時効果により、BP10000以下のソードールを破壊します」


「ライフで受ける」


 ダブルシンボルでライフを2つ削られ、わたしのライフは残り3つ。


 わたしのターン。エクストラドローを使用。


 …………雷皇龍ジークヴルム。


「気づきましたか?」


「これはどういうことなの?」


 見覚えのある展開。もしかするとこれは………


「これは『あの時』の再現です。このバトルはあなたの想いが強ければ強いほど再現度は高くなっていきます。あの時の彼を、そしてあなた自身を──あなたは再現度を超えることができますか?」


 このバトル……やっぱりあの時の再現だったんだ……わたしがダンを止められなかったあのバトルの……。


「……2体目のソウルホースを召喚。ネクサス闇の聖剣を配置。ソウルホースで攻撃」


「フラッシュタイミング、サザンクロスフレイム。コストはアポロドラゴンから確保、レベル1に」


 ロロのモルゲザウルス、そしてわたしのスピリットが全て破壊され、ターン終了。


「サジット・アポロドラゴンをレベル3にアップ。さらに金牛龍神ドラゴニック・タウラスを召喚。ブレイヴスピリットでアタック」


「ライフで受ける」


「続いてドラゴニック・タウラス!」


「マジック、グリーディコアを使用。ブレイヴしていないスピリットのコアを2個リザーブへ」


 ドラゴニック・タウラスは消滅。ロロのターンは終了した。


 ………10ターン目。わたしの敗北に決定的な一打を与えたターン。


「マジック、ビッグバンエナジー。このターンの間、自分の手札にある系統『星竜』をもつスピリットカードすべてのコストを、自分のライフと同じ数にする!」


「……っ‼」


「雷皇龍ジークヴルムを召喚!そして、滅神星龍ダークヴルム・ノヴァを召喚!さらに、雷皇龍ジークヴルムを転召させ、超新星龍ジークヴルム・ノヴァを召喚ッ!!」


 フィールドに降り立つ2体のノヴァ。2体はロロを睨み、咆哮する。


「ジークヴルム・ノヴァの召喚時効果!ジークヴルムで転召したとき、ライフを5にする」


『ダブルノヴァ……まゐさん。あなたは馬神弾を……昔の自分を超えられますか?』


 


「アタックステップ!ダークヴルム・ノヴァでサジット・アポロドラゴンに指定アタック!」


 サジット・アポロドラゴンのBPは18000、ダークヴルム・ノヴァは23000、これなら……!


「フラッシュタイミング!マジック、バーニングサンを使用!手札からトレス・ベルーガを直接合体!!」


 アポロドラゴンBP24000…!!あの時と変わらない……。


 ダンの姿をしたロロも、あの時と同じ……。


 何も変えられないなんて……そんなの……


「そんなの……イヤ!!マジック、ブレイヴデストラクション!」


「っ⁉」


「トレス・ベルーガを破壊!」


 サジット・アポロドラゴンのBPが18000にダウン。ダークヴルム・ノヴァのBPが上回った。


 サジット・アポロドラゴンは破壊され、ダークヴルム・ノヴァの効果でフィールドに残れないシャイン・ブレイザーもトラッシュへ。


「これで最後……ジークヴルム・ノヴァでアタック!!」


 泣いても笑ってもこれがラストアタック!


『ライフで受けます……』


「強くなったな……まゐ───」


「え────」


 


 


 


 ~~~きみが待ってる~~~


 


 


 


『負けちゃったわね』


『そうだね。彼女の想いはバトルが始まったあの時からわたしの力を超えていたよ』


『最後の最後、彼女に応えるように奇跡が起きた。それが負けたくない気持ちからだったのか、あるいは……』


『そんなこと考えるだけ無駄よ。まゐのことだからきっと………』


『ははは、その通りだ。さて、フィクサーも反省しているだろうし、ゲートを閉じて僕らも戻るとしよう。彼らが守ったグラン・ロロへ────』


『ええ』


 


 ~~~


 


 俺が目を覚ますと、まゐもまた、目の前で「すぅすぅ」と寝息を立てて眠っていた。もちろん幻なんかじゃない。彼女から届く匂いが、彼女を撫でたときの感触とぬくもりがそれを証明してくれている。


 起き上がってまゐの頭をまた撫でる。


 俺……帰って来たんだな、この世界に。


 異界王の事件以来、失ってばかりだった俺が得たこの気持ち……。


 まゐと一緒に生きていきたい。


 ずっとまゐの隣で、まゐと笑っていたい。


 


 またそっと髪を撫でると、まゐが目覚め始める。


 俺のことを見たらどんな顔をするだろう?


 散々打ち負かしておいて消えちゃうなんて、とか言いながら怒るのだろうか?


 もしくは笑顔でおかえり、と迎え入れられるのだろうか?


 でも今は、一秒でも長く、彼女の側にいたい───。


 


 ~~~


 


 わたしの意識が目覚め始めた頃、「誰か」がわたしの側にいた。


 その「誰か」が髪を撫でてくるが、不思議と嫌な感じがしない。それどころか、どこか懐かしい感じがするとその手の心地に浸っている自分すらもいる。


 ゆっくりと瞼をあげると目の前には彼が、激突王馬神弾が、わたしの愛する人がいた。


「ダン……ダン、ダン、ダン…ッ!」


「まゐ…」


 わたしはダンの胸に飛び込む。


「夢じゃないよね?本当にダンだよね?」


「ああ。遅くなって悪かった…」


「ううん…いいの……」


 彼が本物なんだと思うと涙が止まらなくなってしまう。


「まゐ……」


 わたしの名前を呼び、頭を撫でてくれるダン。


「顔を見せてくれ」


 わたしは顔をあげてダンの顔を見つめる。ダンもわたしの顔を見て指で涙をぬぐってくれる。


「約束するよ。まゐ、もう絶対お前から離れない。この手も離したりしない」


「本当?」


「ああ」


 そうしてわたしも、彼も目を閉じて、互いの唇を重ね合い、その約束を交わしたのだった。


 


 


 


 ~~~Battle No Limit!~~~


 


 


 バトルスピリッツチャンピオンシップ大会の会場は全国から集まったカードバトラーたちの興奮と熱気で最高潮へと達していた。


 陽昇博士が開発したバトルフィールドに立っている二人の最強のカードバトラーとその仲間たちだ。


『さあ!会場のテンションがマックスになったところで、両者のキーカードが対峙したぁぁぁッ!!!』


 バトスピ界のカリスマ、「ギャラクシー」がそのマイクから観客たちの興奮を煽る。


『睨み合う超新星龍ジークヴルム・ノヴァと!聖皇ジークフリーデン!そして伝説のカードバトラー!馬神弾と馬神トッパ!バトルもいよいよクライマックスへ突入だぁぁぁぁッッッ!!!!』


 周りの人たちに押し潰されないようにわたしもダンを応援している。けんちゃんやすずりんも一緒に。


「今のダンくん、昔みたいにとても生き生きしてますね」


「そうだね。グラン・ロロで旅をしてた時と同じ。ずっと楽しそうにしてる気がする」


 ダンがこちらに戻ってきてから、ギャラクシーをはじめとするカリスマたちのおかげで、ダンの公式大会出場禁止は免除され、こうして公の場でバトルすることができている。もちろん最初は反対する人が多かったけれど、彼のバトスピに対する真っ直ぐで純粋な想いを人々は次第に受け入れていった。


「本当、バトスピにちょっとだけ妬いちゃうわ。……冗談。今のバトスピをしてる彼が、わたしの一番大好きなダンだから……」


 二人は茶化したり、笑ったりしない。二人もそんなダンが好きだからかな?


「そういえばけんちゃん、未来との通信とかは出来るようになったの?」


「そうですねぇ。もう少しで完全に完成するってところでしょうか。陽昇博士たちにも力をお借りしてもらっていますから」


「じゃあ完成したらダンのこと報告しなくちゃね」


「はい!」


 未来との通信が可能になれば、クラッキーやバローネたちにもダンのことを伝えられる。そんなこともわたしたちは思っていた。


「見て二人とも。ダンくんが何か言ってるよ」


 


 


 このフィールドに立つのは最強の座をかけた二人。


 そして互いの相棒が対峙する。


「へへ。やっぱり強いな、激突王!」


「そっちこそ。最強のカードバトラーの名は伊達じゃないな」


 互いに称え合う二人。それに呼応してスピリットたちも咆哮する。


「メガネコ、それにみんなが応援してくれてるんだ!そんな簡単にやられねーよ」


「俺だって、まゐと約束してるんだ。この大会は必ず優勝するって。それにバトルで勝った後のまゐのカレーは格別に美味いからな」


 弾もトッパもここが公衆の前であることを忘れ、のろけてしまう。しかし、そんな二人も、バトルも止める者は誰もいなかった。


 


 


「あ~……あれはダンくん、ここが公衆の面前だってこと忘れちゃってますね~」


「まあそれだけバトルに夢中になっちゃってるってことなんだねー」


 もう………ダンってば……!


 すっかり顔が真っ赤になってしまっているのは、いちいち鏡を見なくても分かる。


 ダンがそう言ってしまうのはとても恥ずかしいが、それと同じくらい……いや、それ以上にうれしくもある。


 だからそう言ってしまわれたら、もうこう言うしかない。


「ダァァァァン!絶対負けないでよねぇぇぇぇ!!!!」


 


 


「いくぞ!アタックステップ!超新星龍ジークヴルム・ノヴァでアタック!!!」


 


 ダンの宣言とジークヴルム・ノヴァの咆哮がフィールドと会場に響き渡った。


 


 


 


 


 

~Fin~

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バトルスピリッツ ブレイヴ ~ REVIVED SCARLET ~ @fdsfds

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