第2話 赤の章   想い達が紡ぐ奇跡

 ここはどこだ……。


 


 何も無い。何も見えない。


 


 ただただ真っ白な空間が広がっている。


 


 体を動かすことも出来ない。


 


 ────そうだ。俺はあの時……。


 


『消滅してしまったわ』


「ッ!?その声…マギサか!?」


 遠くから光が近づいてくる。その光が近づくにつれて、なんだか暖かくなる。


『久しぶりね。ダン』


「マギサ……本当に久しぶりだな」


 目の前に来たマザーコアは、かつて共に旅をした仲間、マギサへ姿を変えた。


 挨拶を交わした彼女の表情は再会を喜ぶと言うより、申し訳なさを感じさせる。


『ごめんなさい!!』


「…マギサ?どうしてマギサが謝るんだよ」


『あなたが引き金になってしまったあの時、本当はあなたを助けてあげたかったの……。でも……マザーコアの力は強大だった。わたしは【マギサ】としてのわたしの意識を失って、マザーコアとしての役目を果たすにとどまってしまった……。そのせいでダン、あなたの体は……』


 マギサは頭を下げ、謝ってくれていた。


「良いんだよマギサ。あれが俺の選んだ未来だったんだ。確かに悔いは無いかと言われたら、うんとは言えない。まだ生きていたかったよ。まゐと一緒に……」


 目頭が熱くなっているのが自分でも分かる。体が消滅した、そう言われたはずなのに。それほどに俺は………。


『聞いてダン。あなたはまだ死んだ訳じゃないの』


「ッ!!?それってどういうことなんだ?」


『それは彼が教えてくれるわ。あなたが今どんな状態なのか。何故そうなったのか……』


 マギサの言葉に続いて、一人の男の子が俺の目の前に現れた。


「キミは……?」


『初めまして…だね、馬神弾くん』


 俺の名を呼ぶ男の子は、どこか大人びた雰囲気で、その見た目からは想像のつかない“存在感”を放っている。


『そんなに構えなくても大丈夫。わたしはキミの味方さ』


 その一言を受けると、俺はロロに対する警戒を自然と解いてしまう。


『さて──、キミの肉体が既に消滅してしまっていること、それは彼女から聞いたね?』


「ああ」


『確かにキミの「肉体」は消滅してしまった。「肉体」は、ね』


 ロロは少し間を置いて、また口を開く。


『本来なら引き金となった時に、肉体はおろか「魂」も消滅し、今のような状態にはならないのさ』


「つまり今の俺みたいな状態は異常だってことか?」


『そういうことになる。肉体とともに消滅するはずの魂、それがこうして消滅を免れたのは、他ならぬ「彼ら」のおかげなんだよ』


「彼ら……?」


 ロロはそう言うと少し上に上がっていく。そしてロロがいた場所に、六色のコアが現れた。やがてそのコアたちは眩い輝きを放つ。


 俺は眩しさから目を瞑り、再び瞼を上げるとそこにはスピリットたちが立っていた。


 ジークヴルムとアポロドラゴンたち。ベルゼビート。ビャク・ガロウ。イグドラシル。イスフィール。アレクサンダー。そしてホウオウガ。


「まゐ…剣蔵…勇貴…クラッキー…硯…華実…」


『光主たちとその友たちの強い想いがキミの魂をこの場所に留まらせた。いつかキミの体を甦らせるために』


「みんな……」


 みんなの想いが俺を守ってくれた。とても嬉しかった。


『ダン、ジークヴルムたちはあなたが眠っている間も、ずっと力を蓄えていた。そしてやっと今日がきたのよ』


「それってつまり……」


『ええ』


「そうか…ありがとなジークヴルム…みんな」


 答えるように咆哮したジークヴルムはジークヴルム・ノヴァに進化する。その隣でもスピリットたちが次々と姿を変えていく。


『彼らは究極の存在へとその身を昇華させた。キミを甦らせるために、あの場所へと帰すために』


 マザーコアを含めた七つのコアは円を描くように並ぶ。そしてその中に黄金に輝くもう一つのコア。現れた八つ目のコアに手を触れる。


「──感じる。俺の体が───」


 浮遊感が消え、確かに俺の体は現実の実体として存在していた。


『馬神弾。キミがある限り、彼らのその存在もまたあり続ける。お互いがあり続けるその世界の中で───』


 ジークヴルム・ノヴァたちとマギサ、ロロの体が輝き始める。


 同時に意識が遠のき始める。


「待ってくれ!ロロ!マギサ!』


『ダン。あなたが呼ぶ名前はわたしたちじゃないわ』


「マギサ……」


『ちゃんとあの子の──、まゐの隣にいてあげて───』


 


 マギサの言葉が最後まで俺の耳に届くと、俺の意識は闇の中に包まれていった───。

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