魔の対立論争⑫
数日後、休憩時間アシュリーは気分転換で街へと出ていた。
―――エヴァンとは結局あれっきりだけど今はどうしているのか。
アシュリーはあの時以来多数決に参加しなくなった。 魔族たちがそれで構わないなら、あのような無駄な日々へは戻りたくなかったのだ。
―――エヴァンの助言のおかげで魔族たちの議論はまとまりやすくなった。
―――・・・だけど極端な結論が出やすくなってしまったんだよな。
今は人間界へ攻め込むかどうかを議論していて当然そうなれば戦争になる。 攻め込む理由は特にない。 ただ攻められる前に攻めた方がいいのではないかというだけらしい。
―――あれからもう攻め込もうとしているだなんて・・・。
―――エヴァンがと小心者だったからって相手をナメ過ぎていないか?
アシュリーが議論に参加すれば戦争は回避できる。 しかしそうなれば多数決が割れる不毛な日々へ逆戻り。 どちらが最善なのかよく分からなかった。
―――あぁ、エヴァンがいれば相談できるのに。
そんな風に一人考えていたその時だった。
「よッ」
「え・・・?」
声のする方を見てみるとアシュリーの後ろにはエヴァンが立っていた。 前と同様街の人に注目されている。
「エヴァン!? どうしてここに・・・」
「そろそろ頃合いだろうと思ってな」
「頃合い?」
二人は静かな場所へと移動した。
「実は魔界で多数決が上手く決まらず議論がまとまらないということは知っていたんだ」
どうやらエヴァンは全てを知っていながら魔王城へやってきていたらしい。
「だから俺が一人で行っても危険はないと思っていた」
「なるほど、そうだったのか・・・」
確かに勇者が一人で来るのはおかしい。 数が多ければ多い程有利に決まっている。
「そして現状を知ってどうして多数決がまとまらないのか分かった上で策を練ることにしたんだ」
「それは俺を多数決から外すっていう」
「そう! 魔族だって人間だって色んな人がいるだろ? いい奴だっているに決まっている。 ならそんな人たちとは争いたくない」
いい人とは争いたくない。 エヴァンのその温かい気持ちは伝わってきた。
「確かにな。 だけど今の魔王城では好戦的な奴らの意見が採用されるようになってしまっているぞ。 どうするんだ?」
「そこだよ。 多数決で物事を決めるということはそんなにいいことじゃない。 特に今回みたいに綺麗に意見が分かれる状況が続いているなら尚更だ」
話し合いをしても意見がまとまることはなかった。 だから最終的に多数決を取るようにしていたのだ。
「少数派へ回るグループは常に少数派となり自分たちの意見は全て無視されることになる。 つまり不満が募っていく」
「その通りだな。 今の俺がそんな感じかもしれない。 いや、もう参加すらしていないしどうでもよくなっているけど」
「だろ? 今の魔王城は酷く脆い状態になっている。 俺たちが本気で攻めたら魔界は終わるぞ?」
「え・・・」
「まぁ、それは冗談だ。 そんなことはしようともしていないから安心しろ」
「本当か?」
「本当だ。 俺たち人間は平和を望んでいるんだ。 いいように言えば今なら人間界と魔界で平和協定を結ぶのが簡単っていうわけ」
「・・・! そんなことを考えていたのか」
「あぁ。 ただ今のままだとそんなことは夢物語。 アシュリーだって不満が溜まっているって言ったよな? すぐに不満が溜まっている奴らを集めてくれ」
そう言うとエヴァンは片手を差し出してきた。
「俺たち人間側もアシュリーたちに協力して魔界を平穏な国へ変えるよう協力するから」
「協力してくれるのか?」
「あぁ。 言っただろ? 全て作戦だって」
「・・・ありがとう」
こうして人間と不満を募らせていた魔族の半分が協力し、魔界を少数派に権力を握らせることに成功したのだ。 どうやらエヴァンと魔王の間でも話が予めまとまっていたらしい。
魔王自身魔界の状況には不満を抱いていて変えたいとずっと思っていた。 ヒヨコを出して逃げたのは全て作戦で、魔族側が人間の国へ攻め込む理由を作るのに一役買ったのだ。
―――全てはエヴァンと魔王様の作戦通りだった。
―――結局は魔族よりエヴァンの方が最初から上手だったということか。
―――賛否両論が悪いわけではない。
―――だけど今までのように0か100かで物事を決めるのは勿体ないということだ。
―――少数派の意見もちゃんと聞いて誰もが納得するような中立な答えを出せばいい。
―――そうすれば仲間割れもなく平和な日々を過ごすことができるんだ。
-END-
魔の対立論争 ゆーり。 @koigokoro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます