エピローグ
第33話
やがて気絶させられていた文明の回復を待ち、桃太達は自動車で山を越え、村を去った。
嵐は強まり続けていた。洪水は村人達のくるぶしまで村を水で埋め、突風は村の木々をしならせ脆弱な順にへし折って行った。雷鳴の音が昼も夜もなく鳴り響き、人々の耳朶を震わせては多大な恐怖を齎した。
「娘っ子はどこや!」
突風を従えて村を訪れたびゅうびゅうが、村人達に恫喝した。
「娘っ子を探しなや!」
洪水を従えて村を訪れたしとしとが、村人達に命令した。
「「娘っ子を差し出すまで嵐が鳴り止むことはない! 貴様らが人魚を見付け出すか、我々がこの村を嵐で沈めるか、どちらかや! 命を賭けて探せ! たかだが五十年や百年、気まぐれで守ってやっていただけで、本当はこんな村どうなろうとどうだっていいんやぞ!」」
声を揃えて海神は咆哮を上げた。恐怖した村人達は必死になって人魚を探した。
村人達はまずは村民会に助けを求めた。その実質の長である輝彦を探し出し、人魚捜索の指揮を取るよう求めた。
しかし輝彦は鬼と思わしき体躯の大きな死骸に抱き着いて泣き叫ぶばかりだった。その慟哭は深く村人達の声など届かないようだった。
ようやく輝彦を見付け出した討魔師の家の地下室で、無数の鬼が倒れ輝彦が泣き続けているという状況に、村人達は混乱するよりどうしようもなかった。その状況を正しく推理し解き明かす能力を村民たちが有しているはずもなく、村人達は使い物にならない輝彦をさっさと捨て置いて、それぞれに捜索活動を開始した。
しかし指導者を失った村人達の捜索活動は闇雲としか言いようのないものだった。ただでさえ嵐で視界が悪く、足元が思付かない中で、村人達は生ける屍のようにただ村中を徘徊するだけだった。そんな中で誰しもが自分以外の誰かが人魚を見付けると心のどこかでは信じ、どこかでは絶望していた。
日を追うごとに嵐は強まって行った。脆弱なものから順に建物が倒壊し始め、弱い者から順に洪水に飲まれて死んで行った。こうなって来てようやく村人達は村がもうダメであることを悟り始めた。
比較的現実的で賢い者から順に、村人達はぬかるんだ山を越える為の行軍を始めた。嵐の中徒歩での脱出はまさに命懸けであり、ここでも何人かの弱者が脱落した。
そんな折、誰かが山の麓まで流されて来た王一郎の死体を発見した。
王一郎の全身は水に浸されてぶよぶよになっており、衣類を見て判断しなければ彼であると判断するのが難しい程だった。その死因が背中の刺し傷であることなどおよそ判別がつかない状況だった。
発見者は王一郎を見て憤怒の表情を浮かべると、その死体を何度も蹴りつけて、濁り切って流れを強くした水路へと蹴落とした。
「姿を見せないと思ったらこんなところでくたばっていたのか! 何をしていたんだ討魔師の癖に! 村が大事な時には、何の役にも立ちはしない! 嵐に飲まれてくたばるばかりか! 情けない!」
発見者は王一郎を水路へ叩き落したことに一先ず満足すると、息を吐き出して誰に聞かせるでもない皮肉を述べた。
「キチガイの親は所詮キチガイか。ああ、もう村は終わりだ。俺もどうするかな? 家族を連れてさっさと逃げるが吉か……」
王一郎の遺骸は埋葬されることもなく、洪水の中に沈み、他のいくつかの死体と共に、闇へと消えた。
やがて、最後の一人が村を脱出するか死ぬかして、村は滅びた。
総合的には十数名の脱落者を出したものの、ほとんどの村人達は脱出に成功し生きながらえた。自らの生を掴む為苦しみ抜いた村民たちを助ける為、村を訪れた者は一人もいなかった。
人々が去った後、事後処理の為に自衛隊がようやく村を訪れた。海神の庇護を失った村では落穂拾いの為鬼や河童などが闊歩していた。それらは訪れた自衛隊を見て警戒したが、一部の無謀な者が彼らに挑みかかっては、このための特殊装備として支給された機関銃により、全身をハチの巣にされ落命していった。
「やれやれ。話には聞いていたが、本当にこの村には妖怪が出るのか」
若い自衛隊員は火器を構えながらそう呟いた。
「今の内に目に焼き付けて置けよ? 妖怪がはびこる時代はとうに終わっている。もう何十年もすれば、こんな田舎村にすら妖怪は住み付けなくなるんだからな。滅びる前の見納めってところだ」
年嵩の自衛隊員が鬼の死骸を蹴りつけながら言った。
そんな様子を山の影で見詰めながら、会話を交わす二つのアタマがあった。
「なあびゅうびゅう。これ、もう逃げた方がええかも分からんで」
海神だった。しとしとが酷く哀しそうな表情でびゅうびゅうにそう問いかけている。
「あかんでしとしと。まだ娘っ子が! ウチらの大事な娘っ子が見付かってない!」
「でも人間の軍隊が来とる。あんなんに出て来られたら、あたしら龍族でも流石にお手上げや」
「なんでや? 人間なんてちょっと賢いだけの虫けらやろ? 歯向かってくるなら八つ裂きにすればええだけやんか!」
「ところがそうはいかんのや。ええか? 人間共はその気になったら山一つ森一つ、国一つ消し飛ばす力を持っとる。ほんの十数年前この国に落ちた二つの大きな爆弾のことは覚えとる? ああいうものを作り出せて、しかも同じ種族の同胞に打ててしまえるような、愚かしくも恐ろしいのが人間なんや。甘く見とったらあかん。ここらで諦めんとどうしようもないよ」
「じゃあウチら、娘っ子とは二度と会えんのか?」
泣きそうな顔をしているびゅうびゅうに、しとしとは近付いて肩を抱きしめた。
「それは違うで。ウチらの寿命は長い。娘っ子の寿命も長い。両方が生き続けてたら、この広い世界のどこかで、必ず会えるよ」
その説得に、びゅうびゅうは涙を拭いながら「分かった……」と呟いて頷いた。
二つの頭を持った龍は、示し合わせることもなく一つの方を向いて天を舞った。そして人間にとって途方もなく長い期間、彼らにとって何てこともない期間を庇護し続けた村から去って行った。
その雄大な姿は自衛隊員達の目に焼き付いた。彼らは思っていない。この強大な生き物は確かに自分達を恐れて逃げ出したのだと。彼らは人間を恐れるあまり人間の前から姿を消し、人間と関りを持たなくなっていくのだと。
そうして人と妖の交わる時代は終わりを告げ、人々は自分達の力で確かな発展を遂げていく。
一つの小さな村の滅びを、些細なことと置き去りにして。
やがて日々が過ぎ、三月も終盤というところまで来た。冬の寒さもほとんど終わりを迎え、微かに涼しさの残るうららかな気候の中、桜の花びらがあちらこちらで舞い落ちる。
元いた都会の小学校に戻った桃太は、その日、卒業式を迎えていた。最優秀生として皆の前で壇上に上がり、賞状を受け取って頭を下げた。
その一連に桃太はやはり緊張を感じた。晴れの舞台であることは確かだったし、自らの努力で勝ち取ったものだという自負もあったが、だからこそここで粗相をして台無しにしたくはなかった。そう言う意味では胸を張り心弾ませるのは程ほどに、ロボットにならない程度に気を張って、桃太はどうにかそれをこなした。
保護者席で涙を流す両親の姿を一瞥した後、桃太は静かに席に着いた。淡々と消化されていく卒業式のプログラムをこなしながら、桃太はこれまでの小学校生活を振り返っていた。
やはり一番強く印象に残っているのは、あの田舎村での日々だった。
あの一年近い月日程、濃密な日々はないと言って良かった。何せ桃太はそこで河童に出会いさとりの怪物と出会いがしゃどくろと出会い鬼と出会った。人生の師と言える人間と出会い心身ともに鍛えられ、最後はその師匠と殺し合い、村を一つ見捨てて、逃げ延びた。
沈みゆく村のことを考える度、桃太は罪悪感に打ちひしがれるようだった。しかし流される家々や人々の様子を思い浮かべても、それを齎したのが自分の選択だと痛感し続けても、罪の意識こそあれ後悔と呼べる感情は何一つ湧いて来なかった。
村を一つ滅ぼし、多くの人を死なせたのだという事実は、生涯に渡って桃太を苛む。だがこの苦しみを予感できていたとしても桃太は同じ選択をしただろう。故に、どれほどの悪夢に苛まれどれほど苦悩しても尚、今この現実こそが桃太の勝ち取った桃太にとっての最善なのだ。
卒業式が終わり、学友たちとしばしの別れの挨拶をする。中等部からも同じ学び舎で過ごすのだから、別れの悲しみはない。しかし、それぞれの子供時代が次のステージへと進むことに対する感慨は、皆が感じていた。
身の丈を同じくして対等に語らうごく普通の友人たちを持てるのは、幸福なことだと理解している。だから、人魚の涙の研究結果を引っ提げて、以前勤めていた病院で以前勤めていた以上のポストに父が返り咲いたことも、桃太は強く歓迎していた。
学友たちからの遊びの誘いを断りつつ校門に向かう。
二度と戻らない、戻れないあの田舎村での日々を瞼に描く。
そしてあの村で出会ったただ一つの宝物……好きになれた女の子の輪郭が頭の中にくっきりと浮かび上がった時、桃太が幻視した通りの姿が現実に現れた。
「桃太」
瓜子が校門の前で桃太を待ち受けていた。
「やあ瓜子。おまたせ」
「ううん。わたし桃太待つの好きだよ。それにこっちの小学校もう春休みに入ってるから、暇だし」
瓜子は満面の笑顔を浮かべて両手を上げる。
「東京って本当にすごいね! あっちこっちに楽しいお店がある! 夜でも建物のネオンが明る! 道は綺麗、人も綺麗、どこに行っても何をしていてもすっごい便利! こんな素敵な場所がこの世あったなんてわたし思わなかった!」
あれから共に都会に逃げ延びた瓜子は、桃太の家の近くに母親と共にアパートを借り、暮らし始めた。
瓜子の鬼化を食い止める為には人魚の涙を日常的に摂取する必要があった。しかし人魚の涙は桃太の父・文明が所有することになっていた為、必然的に近くに住む必要が生じる。
そのことを桃太と瓜子が喜んだのは言うまでもない。瓜子の母は文明が務める病院で受付の仕事を初めた。器量良しではきはきとした性格の彼女の働きぶりは評判で、それに伴い稼ぎの額も増えていく見通しだった。山奥の家から持ち出した王一郎の貯金額も相当なものであったことから、母子二人の暮らしぶりはなかなか良い。学業面も実はそこそこ優秀な瓜子の進学費用も、問題なく工面できそうだった。
「学校は楽しい?」
「楽しい! お友達一杯出来た! こっちだとわたし前の学校と比べて全っ然『変な子』扱いされないの! むしろ人気者なの! すごいでしょ!」
瓜子は拳を振りながら学校での自身の人気ぶりを語る。ずっと田舎暮らしだった瓜子にとって都会での暮らしは新鮮で楽しく、退屈とは無縁でいられ、それが故に生来の過剰な好奇心や冒険意欲も満たされていた。そうしていると瓜子は理想の児童と化した。明るい性格で屈託がなく心優しい、誰よりも優れた容姿と凄まじい胆力を兼ね備えた、そんな少女に見えていることだろう。
それがいつまで続くかは分からない。その類稀な程のトラブルメーカーぶりが露呈すれば、またしても瓜子から人が離れて行く可能性はある。しかし山奥と違ってこの街には人も多くそれだけ多様性もある。そんな瓜子とも上手く付き合ってやれる友人に巡り合える可能性もないとは言えず、またそうなって欲しいと桃太は思っていた。
「もう本当……毎日がなんだか夢みたい! 桃太と同じ学校に行けないのは残念だけど、でもこうして放課後は一緒に遊べるし、都会には楽しい遊び場がたくさんある! 学校では誰からも無視されないし嫌なこと言われないし、こんな素敵な毎日があるなんて、本当に幸せ!」
満面の笑みを浮かべ自らの幸福について謡い続ける瓜子。その満たされた様子に桃太は目を細めつつも、こう尋ねることを自制しなかった。
「瓜子はさ。滅んでしまったあの村について、考えてしまうことってある?」
尋ねられ、瓜子は出会った時よりさらに背の伸びた高い目線を見上げつつ、桃太に向けて小首を傾げて見せる。質問の意図を計りかねるように少しの間、そうしていて……それから答えた。
「あるよ。楽しかったこともたくさんあるもんね」
「そうだね。でも、ぼくが言いたいのは、村の皆が可哀想とか、村の皆に申し訳ないとか、そう言うことを考えてつい泣きたくなったり、夜眠れなかったりしないのかなって?」
「桃太はそういうことあるの?」
「あるよ。それで時々、とてもつらくなる」
桃太がどれほど葛藤しても、思い悩んでも、それが桃太の罪悪を少しでも薄めることはあり得ない。そうと知りながら、いや知るからこそ桃太はのたうち回るのを禁じ得なかった。どれだけ気持ちを整理してもあの日の選択を後悔することだけはなかったが、そのこととこの胸を穿つかのような罪悪感は別の問題だ。
「わたしはないよ。だって、そうしなかったらわたし鬼になってたもん」
言いながら、瓜子は自分の頭皮に手をやった。
「もうほとんどね、引っ込んでるの。こっちでの暮らしが毎日楽しいのが原因だって、先生も……桃太のお父さんもそう言ってる。そうなれたのはやっぱりあの村を捨ててここに来たからで、それを後悔することはあり得ないかな」
「後悔と罪悪感は違うんじゃない?」
「まあね」
罪悪感を覚えながらそれでも後悔しないという態度と、後悔してないから罪悪感もないという態度と、どちらがより邪悪なのかを考えてみる。結論はすぐに出る。どちらも変わらないのだ。
だというのに桃太は日々を苦しみながら生きていて、瓜子はけろりとした様子で笑い続けている。それを羨まないと言えば嘘になる。瓜子のそうしたある種の天衣無縫さは彼女の恐ろしさであると同時に、何よりの強さでもあった。それは繊細潔癖な桃太にはない部分だ。
「……あの村が滅んだって話、こっちではほとんどニュースにもならないよね」
瓜子は言った。
「新聞にも小さくしか乗らなかったって、お母さん、言ってた」
「……あんな山奥の小さな村のこと、村の外の人達はほとんど関心を持たないんだろうな。だからこそ、海神がどれだけ暴れたところで、事後処理の段階になるまでは、自衛隊だって出動しなかった。あの村は、日本と言う国からも、完全に見捨てられていた」
高度経済成長の時代。日本と言う国は当時と比べ遥かな発展を遂げたが、その恩恵の手があの山奥のような辺境にまで伸びるまでには、もうあと何十年かの時間がかかりそうだった。国の隅々にまで救いの手が伸び、忘れられた土地を作らず、全ての人々があらゆる理不尽な悪意や災害から守られる程の良い時代では、今はまだない。
だがそれが叶うような理想の時代が来るよりも前に、妖の住まうような村は全て、滅びゆくのではないだろうか? 桃太達がしたのと同じように、見捨てられ消えていくのではないだろうか?
人々が快適さや便利さを求める限り、不自由で不便な土地は次々と滅び捨てられて行く。それには良い面もあるのだろうと、都会と田舎の両方で生きた桃太は思う。しかし完全に正しいとまで言い切ることは、桃太にとっても難しいことだった。
「……思い悩んでいるんだね」
瓜子が慈しむような表情で言った。
「まあね」
「色々大変だったもんね」
「うん」
「わたしも流石にお父さんを殺した時のことは夢に見るな。でも、目が覚めたら『考えてもしょうがない』って、いつも思える。今ある幸せを考えれば良いし追い求めれば良い。お父さんもきっと、天国でわたしにそう願ってくれていると思うから」
桃太は瓜子のこうした前向きさが大好きだった。しかしそれはきっと余人には理解されないだろうなとも考えていた。自ら手に掛けた父が死後も自らの幸せを祈り続けていると、心の底から信じられてしまうのは、誰よりも真っ直ぐな魂を持つが故だ。しかしそのことを、桃太以外の誰に分かるというのだろう?
人間はたいていどこかしらで歪んだ心を持っていて、だからこそ真っ直ぐな瓜子に違和感を持ち、却って歪みを感じてしまうのだと、桃太はそう理解している。
「浮かない顔の桃太に、それどころじゃなくなるようなこと言っちゃおうかな」
瓜子はそう言って悪戯っぽい表情で桃太を見上げた。
「何? それどころじゃなくなるようなことって?」
「飛び上がってすっころばないでよ? わたしね、わたしの学校の卒業式で男の子から告白されたの」
桃太は飛び上がってすっころびそうになった。というよりほとんど飛び上がっていたしすっころんでいた。尻餅さえつかなかったものの体勢を崩しかけ硬直した桃太を、瓜子は愉快そうに見つめて笑い転げるのだった。
「ど……どういうこと? なんでそんな……」
「高橋って言って、結構良い奴だよ。都会っ子だけあって垢抜けてる感じ。中学に入ったら髪の毛染めるんだって。自分の髪の色変えられるなんて今時は本当すごいよね。わたしもしようかな」
「や、やめてっ。瓜子は絶対そのままでいてっ! そんな軟派な男に染まらないで! 行かないで!」
瓜子はますます声を上げて笑い、愉快でたまらないと言った様子を見せる。
「冗談だよ、冗談! 告白されたのは本当だけど、ちゃんと断った。わたしは桃太が大好きで、桃太は一番だもーん!」
そう言って、動揺する桃太の腕にしがみ付き、身体を押し当てて挑発的な表情を浮かべる。桃太は自分の感情が計算づくで弄ばれたことを悟った。そのことにはまったく不満を覚えないでもなく、よって顔を押し当てながらしてやったり顔をする瓜子に、桃太は唇を尖らせて見せた。
「ね? 嫉妬した? ねぇ、嫉妬した」
「……正直に言うと、したよ。いや、酷いことをするもんだな、瓜子は」
「ごめんってばぁ。でも、これでもう村のことどころじゃなくなったでしょ?」
そう言われ、桃太は自分の心に問いかける。瓜子に自分以外の思い人が出来たかもしれないという衝撃は、種明かしをされた後も桃太の全身を貫いたままだった。これから立ち直るのには一定の時間が必要で、それが経過するまではあの村のことなど考えられそうもなかった。
「そうだね。まだ動揺しているし、この動揺からはそう簡単に逃れられそうもない。うん、気分転換にはなったかな?」
「アハハそれは良かったっ。じゃ、これからどっか遊びに行こう?」
「そうだね。今日はぼく、道場も塾もないから、一緒にたくさん遊べるよ」
「わぁいっ!」
そう言って二人は自然に手を握り合い、桜の雨の中を肩を近付けて歩きはじめる。
幸福な笑顔を浮かべあう若き二人の頭の中からは、滅び終えた山奥の村のことなどは、露一つ残らず消え失せていた。
物の怪の時代の終わり 粘膜王女三世 @nennmakuouzyo
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