第2話・粘液の変身で大騒ぎ、誰が誰やら?〈一部BL夢の描写あり〉

  ◇◇◇◇◇◇


 学校を出てしばらく歩くと、公園の車止めの所に座っている『六花ろっか』に出会った。

「待っていたよ、ちょっと話しがあるんだけれど」

 少しヤンデレが入った六花が、鋭い目で言った。

「あんた、いろいろな女から好意を持たれているそうじゃない……節操がなさすぎ、そろそろ本命の水樹に決めたら」

 少しイラッとしていたオレは、六花を観察する。


(こいつ、ゲルじゃないのか? ゲルなら溶けた粘液を軽く指先で拭き取って誤魔化すはずだけど)

 六花が額の生え際を指先で軽く拭いたのを見たオレは、六花に向かって怒鳴った。

「いい加減にしろ! 今度は六花か!」


 驚いた表情の六花の目に、涙が浮かんだのをオレは見た……しまった、本物の六花だったのか?

「ひどい、別にあんたなんか、好きでもなんでもないからな」

 そう言い残して、走り去っていく六花の後ろ姿をオレは茫然と眺めた。


  ◇◇◇◇◇◇


 六花との誤解を残したまま、気落ちして帰路を歩いていたオレは、とんでもない場面に遭遇した。

 狭い路地道──制服姿の女子高校生が一人、立ったまま粘液ゲルに頭部を包まれて襲われていた。

「うぐぐぐぐッ」

 透き通ったゲルの中で、苦しそうにもがく女子生徒の顔には見覚えがあった。


(クラス委員長の『如月きさらぎ』じゃないか……少しツンデレの)

 ゲルから解放された如月は膝立ちして、放心状態だった。

 オレは見た、如月の頭を包んでいたゲルが、立った如月の姿に変わるのを。

 如月に変身したゲルは、軽く本物の如月の額に指先で触れて言った。

「ここで起こったコトは忘れる……意識がもどったら、普通の日常生活をしている」

 膝立ちした如月が倒れて意識を失うと、ゲルが変身した如月がオレに向かって言った。


「見られちゃったな……勇魚のコト、この子も好きみたい……素直じゃないツンデレ娘だから、本音は言わないけれど……変身した、あたしが如月の本音を言ってあげる、勇魚大好き世界の誰よりも大好き……ふぅ、スッキリした」


 オレはゲルに聞いてみた。

「おまえ、いったい何人に変身できるんだ? その変身能力でオレの周辺の人間関係が、ややこしいコトになっているんだぞ」

「う~ん、わかんない何人も変身できるようにしたから……この女の子にも、さっき変身できるようにしたよ」


 ゲル如月の姿が変わり、六花の姿になった。

「うわぁ、六花!」

 なぜか、顔を赤らめながらゲル六花が言った。

「勘違いするなよな、別にオレは勇魚いさなのコトなんて、好きでもなんでもないんだからな……スマホで隠し撮りした勇魚の姿を眺めて、タメ息なんて誰がつくか」

 それだけ言うとゲルは粘液化して、排水口の中に入っていった。


  ◇◇◇◇◇◇


 自分の部屋に帰ってきたオレは、制服姿のままベットに仰向けで横たわり眠ってしまった。

 オレは少しエッチな夢を見た。

 夢の中でオレは横臥おうがしていた。

 オレの両側にも、裸の男たちがいた。

 担任教師の『清輝せいき』がオレに言った。

「勇魚くんのコトは前から好きだった……ホワイトデーには告白するよ」


 同級生で童顔の

煌星きらぼし

「ボクも、ずっと前から勇魚のコトが好きだったんだ……友だち以上の関係になろう」


 バスケ部の駿馬しゅんめ

「勇魚の心に、オレのダンクシュートを決めてやる」


 オレは悲鳴を発して飛び起きる。

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

 飛び起きた拍子に、オレの頭を膝枕して、オレの顔を覗き込んでいたゲルが変身した。  

 水樹の顔面にオレの顔がめり込む……グニャ


 めり込んだオレの顔から、頭を離してゲル水樹が言った。

「驚いたぁ、急に起きるんだもん」

「今のエッチな夢はお前が見せたのか?」

「うん、勇魚のコトをもっと知りたくて。勇魚の潜在意識に忍び込んで、変身できる殿方の潜在意識とシェイクしてシンクロさせてみた……たぶん、今夜あたり夢の中に登場した女性たちは、同じエッチな夢を見るよ」


 ゲル水樹が、微笑みながらオレの頭を撫でて言った。

「本当に、そろそろ決めてよ……他の分裂した仲間たちも、勇魚が誰を選ぶのかドキドキしているんだから」

「分裂した仲間?」


 オレが訊ねる前に、押し入れの中から四つ這いでゾロゾロと女たちが出てきた。

 東雲。

「勇魚が選ぶのは活動的な、スポーツ女子だよね」

 穂波。

「お兄ちゃんが好きなのは穂波みたいな、妹系だよね」

 夕虹先生。

「勇魚くんに、大人の魅力を補習授業です」

 六花。

「勇魚がオレのコトを好きだと言ってくれたら、オレも勇魚のコトを好きだと告白してやる」

 如月。

「べ、別に勇魚くんのコトなんかなんとも思っていないんだから……あたしだけを見ていてくれれはいいんだから……好き」

 女たちが、同時にオレに返答を求めて迫る。

「勇魚は誰が、本当に好きなのかハッキリさせて!」

「そ、そんなコト……いきなり、全員から返答を聞かれても」


 困り果てていたオレは、背後からの視線を感じて振り返る。

 そこに、架け橋を通って部屋に侵入した、本物の水樹が冷めた目で立っていた。

「み、水樹! こ、これは」

 本物の水樹が、オレに抱きついてきて言った。

「好き! 勇魚のコトが小さい頃から大好き! だから、あたしを……水樹を選んでぇ」


 オレは、ゲルが完成させた女の子ハーレムの中で、もみくちゃにされながら本物の水樹を抱き締めて、多幸感に浸っていた。


  ~おわり~

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誰にでも変身できる粘液スライム生物【ゲルちゃん】と恋人デイズ~粘液スライム生物大量発生~ 楠本恵士 @67853-_-

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