「救水」

低迷アクション

第1話

「うぼっ…げぇっ…」


運転助手の同僚が道に設置された井戸から出る水を奇妙な声と共に吐き出し、暑いアスファルトに尻もちをつく。


運転手であるHは、作業を中断し、同僚の元に駆け寄る。


市内ゴミ収集勤務、彼らの担当地区は水源豊かな田園地帯、○水(地名)と呼ばれる地区だ。


今年も暑い夏の日差しの中できらめく水面と青空の下で、腐汁に塗れて、作業中だ。


熱中症にかかる同僚も少なくない中、彼らはツ・イ・て・る・収集コースに当たったと言える。


○水は地下水があちこちから湧き出ており、汲み取る井戸が多くあった。


地区の人間は、勿論の事、道を通る人が自由に水を利用できるようになっている。


少し大きな井戸場では、子供が水遊び、用水路の近くでは、収穫した野菜や、スイカを冷やすと言った夏の風情ある光景が日常だ。


H達も、氷のように冷たい水で、喉を潤したり、タオルを濡らして、体に当てるなどに利用し、1日中炎天下の中で仕事する体を癒やすように、この地区の水はあらゆる意味、文字通り“救いの水”と言えた。


その水を飲んでいた同僚の呻き声である。


「ど、どうした?」


声が上擦るのも、仕方ないと言うモノだ。


「手、手…手が俺の顔を触った。ヌルって撫でた」


片言と震える指で、井戸の筒口を示す同僚…


暑さにやられたか?


正直信じられないが、普段の彼からは想像出来ない狼狽ぶり…容易に否定は出来そうにない。


「あんたら、どうしたね?」


集積場にいつまでも、車を止めている事に不審に思ったのか?近所の老婆が声をかけてきた。


事情を話そうとするHと同僚の様子を見た老婆は、ゆっくりと頷く。


「お、お婆さん?」


「ええ、ええ、そのお兄さんは見たんじゃ、水の中にいた、じゃろ?わかっとる。あれはな、別に悪さをする訳では無い」


首を縦に何度も振る同僚を諭すように、手で制しながら、老婆は言葉を続ける。


「この辺りは、昔、大きな干ばつがあっての。皆、渇きで干乾びて死んだ。死体は腐ると、悪い病を流行らせる。残った者が途方にくれ、そのすぐ後じゃ。


水がたんと湧いての。ぜーんぶ流した。土はよう肥え、みーんな、ようなった。わかるか?


死んだのも、ワシ等も全部、救われた。この水にな。だから…」


喋りながら、老婆が井戸の水を口にする。その口に人の指のようなモノが吸い込まれるのを見た時、


Hの意識は遠のいた。その薄れる意識に、老婆の声が響く。


「ありがたく、飲み干さんといかん…」…(終)

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「救水」 低迷アクション @0516001a

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