第27話 スフェンのダンジョン無双配信
●REC――――新宿C級攻略済みダンジョン19階層
ダンジョンに潜り始めてからしばらくして。
スフェン率いるダンジョン探索隊は中層を突破しようとしていた。
ここで問題です。
Q今の俺の感情を一言でまとめるなら?
「(スフェンつええぇぇぇえええ!!!)」
▼コメント
:つっよ
:ミノタウロスさんが一瞬で輪切りに……
:ゴブリン界の超新星
:【悲報】B級探索者ワイ、ゴブリンに勝てなさそう
スフェン、強すぎ。いやまぁ、A級探索者レベルの実力があるとは聞いていた。
だが、ゴブリンがミノタウロスを瞬殺する姿をこの目で見るまで想像できなかった。
万が一に備えてC級攻略済みダンジョンに来たわけだが、これなら更に難易度の高いダンジョンでもやっていけただろう。
「いやぁ、スフェンを鍛えようと思ってたんだけど、既に強いね。ホントにゴブリン? C級ダンジョンは余裕?」
スフェンのダンジョン攻略は順調だ。順調すぎる。
ダンジョン上層は秒で潜り抜けた。変幻自在の遺物すら使わずに、極まったゴブリンの肉体で敵を殲滅していった。
このペースで行けば、C級攻略済みダンジョンの最下層である30層まですぐだろう。
「今日は最下層まで行って一旦終了かな。んー、次はB級攻略済みダンジョンに行こうか」
▼コメント
:この感じなら余裕だろ
:B級でも足りないレベル
:A級行こう!それかゴブリン君による未攻略ダンジョン攻略配信希望!!!
:実際深層で生きてきたゴブリンだからなぁ……C級の中層とかヌルい
コメント欄も盛り上がってはいる。ゴブリン無双配信なんて滅多にない。というか、全くない。ゴブリンを従魔にしている人間なんて、見た事がない。世界中探しても俺くらいだろう。
だから、そういう点ではレアな配信なのだが、『攻略済みダンジョン、C級、無双』という配信は割とある。
攻略済みダンジョンであれば、ボスと戦わなければ死んでもリスポーンできる。
C級で出てくるのは最大でも下層のモンスター。その程度だったらベテラン探索者なら普通に倒せる。
だから、俺の目の前で行われているスフェンの無双配信は、ある意味ありふれたモノなのだ。
「(んー、判断ミスったか? スフェンは喋らないし、シトリンも最近無口だし、会話がもたない。このままじゃ、淡々とした無双配信にしかならない。バズる要素が少ない……ッ)」
考える。
このままじゃスフェンがいる事の利点を発揮できない。
ただの無双配信なんてつまらないし、目立たない。
そして何より、――スフェンの成長につながらない。
現状ではスフェンのダンジョン無双にしかなっていないが、この配信のメイン目的はスフェンを鍛える事にあるのだ。ちなみにサブ目的は神回配信を行なってバズる事にある。
様子見で来たC級攻略済みダンジョン。
ここではスフェンの障害にはならないし、スフェンの実力の底を見る事も叶わない。
どうすれば良い?
どうすればスフェンを鍛えてバズって大成功のダンジョン攻略配信になる?
目の前で中層のモンスター相手に
▼コメント
:ほへえ
:モンスターが次々と塵と化してる……
:S級がゴブリンをS級に鍛え上げる配信かと思ったら、既にゴブリンの実力はS級だった件
:強すぎて草
俺は長考の末に、結論を出した。
「(このダンジョンでスフェンを鍛える必要ある? スフェン既に無双状態じゃん。これに変幻自在の遺物が加わるの?? 最強かよ)」
C級ダンジョンじゃ話にならんわ。
視聴者達がスフェンの無双に飽きない内に、サッサとボス倒して帰ろ。
たぶん、それが一番ベスト。
スフェンを鍛えるのは後日だ。
今度はB級orA級ダンジョン攻略か、リリィ先輩にダンジョンを借りて俺が相手になろう。
「(目的変更。今日はスフェンにC級ダンジョン最下層を攻略してもらって良い感じに終わらそう。言うなれば、――ゴブリンによるC級ダンジョン攻略RTAだ)」
視聴者にはスフェンを鍛える配信と言ってしまっているが、このダンジョンのモンスターじゃスフェンを鍛え上げる事ができないのは自明だ。
「んー、スフェンが強すぎるね。ここのモンスターじゃ相手にならない。……という事で、今日はスフェン君の実力把握回&彼がC級ダンジョンをどれくらいのスピードで最下層まで攻略できるかー、っていう配信内容に変えます。許して?」
▼コメント
:えー
:既にスフェン君強いから仕方なし
:彼の実力を見誤ったシルバーが悪い
:まあ見た目普通のゴブリンだから、外見から実力なんて分からないんだけどね
:ゴブリンによるダンジョン無双配信、はじまるよー!
:スフェンを鍛える配信はどうなる?
:C級ダンジョンゴブリンタイムアタック
:この感じだと、余裕そう
:シルバーとシトリンは攻略に手を貸すの??
「僕達は基本的に何もしないよ。スフェン主体のダンジョン攻略配信だ。今日のダンジョン攻略でスフェンの実力を見る。そして、次回の配信でスフェンを本格的に鍛えていく……ってな感じだね。ぶっちゃけ、C級なら簡単に攻略できると思うよ。スフェン強い強い」
▼コメント
:RTA開始?
:安心して見てられる
:C級ダンジョンソロ攻略が決まったスフェン君、依然無双中
:……やっぱり、スフェン君強すぎん?
:あ、階段発見
「お、中層試練ボス戦だね。スフェン君は勝てるでしょうか!」
スフェンの実力なら余裕だろう。
ボス君の健闘を祈ります。
――俺とシトリンとスフェンは、ボス部屋のある20層へと降りた。
***
●REC――――新宿C級攻略済みダンジョン20階層
『勝てるでしょうか!』なんて言ったが、中層試練ボスじゃスフェンの相手にはならない。
それが俺の考えだ。スフェンと対等に戦える適正モンスターは、下層以下にしか出現しないだろう。
それでも俺はスフェンの中層試練ボス戦を楽しみにしていた。
ボス戦というのはダンジョン攻略配信の山場なのだ。
それが単なる無双でも、激アツな接戦でも、大なり小なり視聴者達は盛り上がる。
いわば、配信の盛り上がりの為に押さえるべき必須ポイントという訳だ。
20層に降りた俺達は、早々にボス部屋の扉を発見した。
扉を開き、始まったのはボスとスフェンの激闘。
最弱種族の代名詞であるゴブリンVSボスモンスターの戦いに湧き立つ俺と視聴者達。
俺達の応援を背に受け、アツい戦いを制したのはスフェン――――
――――なんて事はなく。
「マジか……」
俺の期待も、視聴者の盛り上がりも、全て裏切られた。
ボス部屋の分厚い扉を開き、飛び込んできたその光景は――――
「何もないねぇ……」
だだっ広いボス部屋。
そこには何も無かった。
いや、床も壁も下の階層への階段もあった。
無かったのは、肝心のボスモンスターだ。
つまり、どういう事か?
「リスポーン待ちェ」
▼コメント
:あーね
:しょうがない
:攻略済みダンジョンだし
:上層の試練ボスはいたよね??
:↑いたね
:スフェンの攻略スピードが早すぎて、先行者に倒されたボスのリスポーンが追いついてないんだと思われ
:C級攻略済みダンジョンだし、先客もいるよねっていう
:はやく行かないと最下層も倒されてる可能性アリ
スフェン君のダンジョン攻略速度が凄すぎて、中層試練ボス戦がスキップされました。
マジかよ……。
承認欲求モンスターさんの配信活動記〜S級探索者、承認欲求を満たす為にダンジョン配信を始める。尚、リスナーは当人の事を聖人と思ってる模様〜 七篠樫宮 @kashimiya_maverick
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