第26話 S級ゴブリン計画
身体検査終了。何も無かった。ホントに。
よく分からない椅子に座って秒で終わった。
「うわ〜魔力保有量が前の時の十倍くらいになってるよ。何かした〜?」
何かって……
「リリィ先輩に身体能力を一度リセットされたね」
「ん〜? リセット? 身体能力を? え〜と、なんでシル君は普通に生きてるの???」
あ?
「どういう事?」
「身体能力がリセットされたって事は、体内に染み込んだ魔力を取り除かれたって事でしょ? 普通なら死にかけてるよ?? 一気に力を奪われるって事だからね?」
本当に大丈夫かな〜、と俺の体をペタペタと確かめるカレン。
そんな影響があるなんて、聞いて無いんですが???
もしかしなくてもリリィ先輩の魔法の効果だろうか。いや、そうに違いない。だって、そうじゃ無かったらヤバいだろ。
俺は驚愕の新事実に震えた。
「……それで、私はどうですか?」
俺の体をフニャァとした顔で触っていたカレンに、シトリンが声をかけた。
ナイスだ、シトリン。いつまで触ってるんだって感じだったからな。
「ん、そうだね〜シトちゃんはいつも通りかな。変な所はないよ〜」
「……そうですか」
「ふふん。二人とも、無茶はダメだよ〜? シル君はトラブルばっか首突っ込んでさ〜。シトちゃんも遺物は頑丈だからってバカな事はしないでね〜? それに――――」
カレンの小言が始まった。彼女は俺達のことを弟とか妹みたいな存在だと思ってるらしい。
『鑑定が終わったから戻ってこい』
はいはいとカレンの言葉に適当に頷いていたら、セレンからの呼び出しが来た。放送用のスピーカーを完備してる家なんて、新宮姉妹邸くらいだろう。
セレンの部屋に三人で向かう。
部屋に入ると、ツヤツヤとした肌で機嫌が良さそうなセレンと、グダっとした感じで座り込むスフェンが居た。
こっちはこっちで、何があったの???
「凄いぞシルバー! この遺物、シトリンと同等かそれ以上だ!!」
「えーと、とりあえず効果は? 複数あったんだよね」
シトリンと同じって大袈裟な。シトリンに並ぶ遺物を俺は見た事がない。何でもできる完璧メイドさんだぞ。
「名称は不定型遺物【万象変化ヘラクロス】。効果はただ一つ、『適応変化』だ!!」
めっちゃ機嫌良いじゃん。
そして適応変化?? 俺相手によく分からん言葉を使うな。こちとら大学全落ちだぞ???
「それって〜どういう効果なの?」
「ん、そうだな。その時の状況に応じて武具の形態や効果を変化する能力だ。シルバーの固有魔法に耐えたのも、その状況に適応して、切り抜ける為の効果を持つ武具に変化したんだよ」
な、なるほど??
「こう言えば分かるかな? 理論上、この遺物はあらゆる効果を持つ遺物に変化可能なんだよ。どこまで適応出来るのかは分からないが、固有魔法を無効化する程度までは確実なんだ! 凄いぞ!」
それは……凄いな。うん。
「そして、スフェン君。彼自身も素晴らしい! おそらく、実力はA級探索者に匹敵するね。ゴブリンも鍛えればそこまでイケるなんて思わなかった! そんな彼に変幻自在の遺物。まさに、鬼に金棒ってわけさ!」
スフェンを見る。ゴブリンだ。見た目からはA級クラスなんて全然思えない。ただ魔力による強化は外見には現れないのだ。リリィ先輩がロリっ子なのにS級であるように。
そういえば、深層で彼と初めて会った時、俺の剣戟を受け流していたな。
やっぱり、スフェンって結構強い?
「そしてシルバー。君は面白そうな事を配信中に言っていたね」
……思い出せない。なんか言ったか? 俺は配信中は『おれがかんがえたさいきょうのはいしんしゃ』を演じているので、失言とかはしてないはずなんだが。
「……とぼけるな。S級ゴブリンを生み出したい、と言っていただろう」
呆れた様子で俺を見るセレン。そう言えばそんな事も口にした気がする。
「言った気もするね」
「――S級ゴブリン計画、始動しないか? なんなら配信しても良いぞ。研究者として、それよりも視聴者としてスフェンがどこまで鍛え上げられるのか興味があるんだ」
「え〜私も気になるな〜」
S級ゴブリン育成配信。従魔を鍛える配信なんて、見た事ないな。それはつまり……バズるって事か???
「シトリンはどう思う?」
「全てマスターの御心のままに」
ふむ。
それじゃあ――――――
***
●REC――――新宿C級攻略済みダンジョン1階層
「【配信】スキル、発動」
▼コメント
:きちゃ
:久々の配信
:待ってたぜシルバー
:コラボ動画面白かった!!
「やあ皆んな、シルバーの配信へようこそ。今日は概要欄にもあるように――――」
本日の主役を遺物から呼び出す。
「深層ゴブリン――――スフェン君を鍛えてS級ゴブリンにしちゃおうって配信だよ。あ、シトリンもいるよ」
「どうも」
「それじゃあ、スフェン君を育成するダンジョン攻略配信、始めまーす」
俺とシトリンは全てを諦めたような表情をしているスフェン君を連れてダンジョンの奥地へと旅立った。
あの、ちょっとシトリンさん? その持ち方だとスフェンが捕まった宇宙人みたいになってるんですが??
――――S級ゴブリン計画、ここに始動。
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