さよなら

星光かける

さよなら







 死にたい。







 そう思うようになったのはいつだっただろうか。いつも何かがある事ごとにお母さんから罵声を浴びせられたり、殴られたりした。



「飯がうまく作れないのはお前のせいだ」

「天気が悪いのはお前のせいだ」

「仕事を首になったのもお前のせいだ」

「離婚したのもお前のせいだ」



 何もかも、僕が悪いことになった。


 三年前までは普通の日常を過ごせていたんだ。父親がいて、母親がいて、兄弟がいて。みんなで仲良くご飯を食べたり、テレビを見たり、ゲームをしたり、愚痴をこぼしあったり。笑顔の溢れる自慢の家族だったんだ。


 あの日から変わった。急に家に警察が来たんだ。父さんが人を殺したって。アリバイもあったし、証拠も不十分だった。


 でも、有罪が決まった。父さんが捕まった瞬間からいろんなことが起こった。父さんの秘書をしていた母さんは会社をクビになった。兄さんと僕は学校に行くといじめられたし、家を出るだけでも近所の人から嫌悪の視線を向けられた。


 家には石やゴミが投げ込まれたし、落書きもされた。警察に相談に行っても『犯罪者の家族が何を言っているんだ』と相手にされなかったし、むしろ馬鹿にされた。


 母さんはその時から徐々に変わっていった。最初は泣き叫んだりしていただけだったけど、次第に僕たち兄弟に暴力を振るうようになった。兄さんはいつも僕が殴られそうになると守ってくれた。


 でも、耐えきれなくなった兄さんは僕に『ごめん』と言って目の前で学校の屋上から飛び降りた。


 警察が来て、いろいろなことを調べた。その時に父さんの冤罪が分かった。


 でも、もう遅かった。兄さんは死んだし、父さんは変わり果てた母さんを見て僕と母さんを捨てた。何も間違ったことをしてないはずなのに、の家族は壊された。どこの誰とも知らない人に。


 母さんと二人暮らしになってからも暴力は続いた。いっそ殺してしまおうかと考えたこともあった。


 でも、あの楽しかった日々が思い出されてできなかった。もうこんな願いは叶うことなんてないはずなのに。


 他人には相談できなかった。さげすみの目を向けてきた人たちだ。相談なんてできるはずがない。


 我慢して、ボロボロになって、ここまで来た。一歩踏み出せば死ねる。たった一歩でもう辛い思いをしなくていいようになる。


 兄さんはこんな気持ちだったのかな。






「ごめんね母さん。先に行くよ」





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さよなら 星光かける @kakeru_0512

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