第35話 マジックミラーボール号

 俺は、何だかんだと大量のお土産を頂いて、白いスーツを着た人に送ってもらった。すごい、セルシオの後部座席のドアまで開けてもらった。VIP待遇だ。


「ただいま...」


 暗く、肌寒い部屋に帰って来た。数日前までは当たり前なのに、何だか新鮮だな。でもやっぱり寂しいし、肌寂しい...。


 そう思いながらも、一日の疲れがどっと押し寄せて来る。歯を磨き、シャワーを浴びたら、あっという間に金曜日になってしまった。


 今日は絶対にナイメール星に戻らないとな。モリジン達、豚族の奴隷たちが帰って来る日だ。主人である俺と3日以上離れると、モリジン達は死んでしまう。今日の夜がタイムリミットだ。9時には戻ってあげないとな。


 それにしても...久しぶりに、一人でベッドに潜るな。そんなセンチメンタルな気分に浸る間も無く、すぐに意識を失ってしまった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「もう...朝か...」


 なんだか下半身がスースーする。タオルケットを蹴っ飛ばしてしまったかな。自慢じゃないが真冬でも毛布1枚あれば寝れる。本当に自慢じゃないが...。


 すると、見慣れた物体が、息子と戯れている。そ、そんな朝からご褒美を頂けるなんて、うちの息子を甘やかさないでもらいたいのだが...。そんなことを言っている場合じゃない。


「わ、ちょ、ちょっと、クラリス!いきなり、そんな!」


 右に左に三回転、そして月面宙返りの様な、匠な舌の動きを披露されてしまった。


 嬉しいけど。


「主様、昨晩はお疲れさまでした。が終わりましたら回復魔法をおかけいたしますので、昨晩の分を吐き出して下さい」と言ってまた熱心に、息子を過保護にする行為に戻った。


 そんな、甘やかされたら...もうだめ...足がつりそう...。ああ...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あ、ありがとうクラリス。わざわざ来てくれて。爽快な気分で学校に行けるよ」


 ことが済み、汚れてしまったクラリスが身支度を整えた後、お礼の言葉を伝えた。


「いえ、お礼など結構です。主様。私も朝から主様を味わえて本当に幸せな気持ちです♡こんな気持ちは、主様に出会うまでは感じたこともございませんでした。あの頃は朝起きたら、倒れるまで回復魔法をかけまくっていましたから....今がとても幸せです♡」


 そう言って俺に寄り添ってきた。


「主様。まだ学校に行くまでは時間がございます。もう2人、どうしても主様に愛情を頂かないと、コロちゃまが使用していた檻に詰め込まないといけない者が2名おります。お手数ですが、その者たちのお相手をお願いします」と深々と頭を下げてきた。


 ただ...当の本人たちの姿はここにいない。あれ?その2人は何処にいるんだ?


「クラリス...その2人は何処にいるんだ?待っていればいいの?」


 正座をし、俺を見上げているクラリスに向かって尋ねた。


「いえ、麻璃奈様から、この場所ではを控えた方がよろしいと言われました。どうしても私たちの声や、主様の腰が縦横無尽に私どもの中で動くたびに、その...大きな声やギシギシという音が響いてしまうからと助言を頂きました」


 確かに、メルやクラリスでさえも、「静かに」と言っていても、感情の高ぶりにつられ、声がアフれ出てしまう時がある。インリンやサラなんて来た日には、マンションから追い出されるだろうな...。


 堪えきれなくなっているのは、インリンとサラだろうな。


「主様にはナイメール星まで戻ってい頂くことになります。お越しいただけますか?そこでは、すでに2名が待機しております」


「待機しているって、洞窟の中でって事⁉」


 そう恐る恐る聞いてみた。別に悪くわないけど、洞窟内に声が響きわたって凄いことになりそうだな。


「いいえ、違います。麻璃奈様がお勧めする物を、ジャネットとベレッタが急いで作りました」


 麻璃奈がお勧めする物?


 麻璃奈はナイメール星で生まれて、一時期地球に住んでいたからな。地球上の知識も持っている。そんな麻璃奈がお勧めする物って、何なんだ?



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 クラリスに連れられ、ナイメール星にやって来た。


 ナイメール星の早朝は、特に心地がいいな。空気が澄んでいる。


 それに朝日もゆっくりと登って来たようだな。


 そんな清らかな気持ちでふと視線を横に向けると、ワゴン車らしきものが一台停まっていた。中は見えない。でも、どこか見覚えがあるような...。


 これってまさか、かの有名な...。


「はい、マジックミラーボール号です。麻璃奈様、おすすめ一品です」


 麻莉奈...知っていたのね。


 ナイメール星生まれだから、地球人の誰よりも性欲が強くて...と言っていたしな。


 まあでも、洞窟内よりはありがたいな。ベレッタの作る物には外れが無い。防音、空調完全完備だし。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「おじゃまします...」と、恐る恐るマジックミラーボール号の中に入った。


 すげ、一面床がベッドになっている。それに、外が見える!本家さながらだな。どういう構造になっているんだ?帰ったらジャネットに聞いてみよう。


 すると中には、恍惚とした表情のサラとインリンが、俺が来るのを待っていてくれていた様だ。


「ごめんね...昨晩は帰れなくて。苦しい思いをさせちゃったね」と二人に謝った。


「旦那は悪くない。こっちこそ無理やり押しかけて来てもうしわけねえぇ。で、でもどうしても我慢できねえんだ。旦那に抱きしめてもらえねえと。あたいもそうだが、サラのやつは本当にもう...」


 インリンがサラを見つめながら、泣きそうな表情で俺に言ってきた。


「智也様...愛しゅうて、愛しゅうて、堪えきれない私がおります。本当にすみません」とサラは、すすり泣いている。


 俺の責任だもんな。「性欲100万倍」だから、どうしょうがないよな。


 そんなことを考えていると、クラリスから「さあ主様!あと1時間30分しかございません。お急ぎを!3人を満足させて下さい!」と、力強く俺に言ってきた。


 あれインリンと、サラだけじゃなかった?と思っていると、なぜだか奴隷の首輪をしただけの全裸のクラリスが、「もちろん私もですよ主様♡」と言って唇をふさいできた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 1時間半、90分....同じか...。みっちりと戦った。インリンとサラはぐったりとしているが、クラリスはまだ俺の上にまたがり、甘くねっとりと俺の唇を塞いでいる。


 本当に...クラリスは底なしだな。


 美しい黒髪が、汗により部分的に湿ってまとまっている。妙にエロイ。


 長く唇を塞がれていたが、解放と同時に、「本日、モリジン達が帰ってきます。必ずご帰宅を」と言ってきた。


「分かっているよ、クラリス。サラと一緒に買い物をして9時には戻る。それでOKだな?」


「もちろんです。主様からの直接のご指示ですから」


 サラは、満面の笑みで横たわっていたが、今の話を聞いて、びくっと上体を起こした。こちらも奴隷の首輪のみ。そんなサラの姿を見て、息子がさらに成長した。


「主様ったら。サラの姿を見て...今一緒に戯れているのは私ですよ」と、クラリスは強引に、俺の顔を自分の胸に押しあてた。


 あっちにもこっちにも刺激が転がっている。さすがマジックミラーボール号だ。油断ならない...。


「今日も智也様のお迎え、私でいいのですか?」と、驚いた表情をして聞いてきた。


「もちろんですよサラ。主様直属のお願いですから。ただ申し訳ないのですが、しばらくの間、朝と夜の主様の送迎当番をあっ♡飛ばさせ、てもうっ♡ま...す♡」と、クラリスの声が途絶えた。


 ふー。今日も朝から頑張ってしまった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 クラリスから回復魔法受けた後、3人から見送られ、俺は学校に行くことにした。ただなあ。学校までの電車が混むんだよな。丁度電車は、ラッシュ時間にぶち当たる。まあ、贅沢を言っちゃいけないな。20分の辛抱だ。


 こんなに幸せな思いをした後の20分だ。なんの問題もないよな。さあ、今日も集中して授業を受けよう!4コマ目が終わったら、今日こそサラと買い物だ。


 その後、向こうに帰って、モリジン達の無事を確認して、ご飯を一緒に食べて、その後は...昨日の分を求めて来るだろうなぁ。まあ、あまり考えるのはよそう。


 さあ、学校に行こう。でもまだ時間に余裕があるかな?駅ナカにある蕎麦屋で「コロッケそば」の大盛でも食べようかな。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 マンションの階段を下りると、昨晩俺を送り届けてくれたのと、同じ型のセルシオが目に飛び込んできた。


「昨晩のセルシオ?」


 そう不思議そうに眺めていると、運転席から慌てて、昨晩俺を送ってくれた山崎さんが飛び出して来た。


「や、やっぱり。昨晩はお世話になりました。今日は...どうなさったんですか?」と、昨晩マンションまで送ってくれた山崎さんに尋ねた。


「押忍!大学まで送らさせて頂きます!」


 山崎さんが、がばっと背を90度に曲げた。


 やめて下さい...。目立ちますから。とは言えずに「あ、ありがとうございます」と、逃げ込むようにセルシオの後部座席に入った。すると、その後部座席の横には、「智也さん...」と呼ぶ、奈々ちゃんが座っていた。


「佐山...奈々ちゃん?おはよう?どうしたの...ごめんね迎えに来てくれたの?」


「そんなに離れていないし...め、迷惑だったか...なぁ?」


 そう少し視線を下ろし、奈々ちゃんは言ってきた。


「そ、そんな迷惑だなんて、こっちとしては非常に有り難いよ。通学の混む電車に乗らなくても済むし。ありがとう」と感謝の気持ちを伝えた。


 その言葉を聞いた瞬間、奈々ちゃんの心配そうな表情が一変した。そして、「そうか、それなら...良かった」と、ほっとしたように微笑んだ。


 その微笑みに、俺の心は少し高鳴った。


 何でも奈々ちゃんの家から、このマンションまで車で20分ぐらいだから、毎日迎えに来てくれるという。ありがたいけど甘えていいのかな?


「いいんだ、いや、いいの、全然いい!山崎も、2人だけよりも気楽だろうし。距離もそう変わらないから!」


 凄くぐいぐいと来るから、毎日迎えに来てもらうことにした。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 後、大学が終わってからの予定を尋ねられたから、今日はサラと、布を買いに行く予定と伝えると、私たちの道着などを頼んでいる問屋さんを紹介してくれるという。


 何から何まで申し訳ないと言うと、「いいのだ...いや、いいの。迷惑をかけたし、それに...」と言って下を向いてしまった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 たわいもない会話を交わしていたら、あっという間に大学に到着した。山崎さんが運転してくれたから、俺たちは乗っているだけ。


 楽ちんだ。ただ...。


 いつもの駐車スペースに車を停めたところ、待っていたかのように、2人の女性が車に向かって走って来た。


「奈々、もう何で携帯を持たずに帰るのよ...って、ブーちゃんがなぜ奈々の車に乗っているのよ⁉しかも奈々の隣に⁉」


 志保ちゃんが、驚きの表情を浮かべて、俺と奈々ちゃんを見つめた。そりゃそうだよな。昨晩は俺を仕留めようとしたもんな。奈々ちゃん...。


 真美さんも、「どう言う事なの奈々!ブーちゃんを拉致して樹海にでも連れて行ったかと思って...本当に心配したんだから!」と、涙ぐんで言ってきた。


 志保ちゃんといつも一緒にいる真美さんて、確か凄くおっとりとした子じゃなかったっけ?こんなに勢いがある子だった?うーん女性は、分からんなー。


「昨晩は本当に2人にはすまないことをした。いや...ご、ごめんなさい。でも、2人のおかげで私は成長できた..ありがとう」


 そう言って、2人に対し深々と頭を下げた。


「ちょ、ちょっと、菜々⁉どうしたのよ?いつもの男っぽい話し方じゃなくて、その...一生懸命女の子っぽい話し方にして?ブーちゃんと何かあったの?」


 真美さんが心配そうに奈々ちゃんに聞いた。


 すると、「と、智也さんは関係ない!」と、奈々ちゃんが顔を真っ赤にしながら2人に叫んだ。


 奈々ちゃん...そんな真っ赤な顔をして、智也さんなんて言ったら、何かありましたよって言っているのと同じだって...。


 そんな怪しさ全開の奈々ちゃんに向かって...。


「「と、智也さんですって~!」」


 真美ちゃんと、志保ちゃんが、駐車場中に聞こえるほどの絶叫をあげた。


 真美さんは、あっけにとられた表情をし、志保ちゃんは、昨日までの奈々ちゃんを思い出させるような、修羅の形相で奈々ちゃんに詰め寄って来た。


 なんだか分からんが、志保ちゃんが...怖い。


「奈々、何が起こったのかな?どうして突然「智也さん」って言い出したの?私...分かんない」


 にこやかに笑おうとしているが、表情が引きつっている!お願いだから瞬きをして、志保ちゃん!首を傾けて詰め寄ってこないで!


 奈々ちゃんも、志保ちゃんのあまりの迫力に「ち、違うんだ志保、な、何も智也さんとは無かったから。ただ道場で、床に押し倒されて、その...」と余計ややっこしくしている。


 騒ぎを聞きつけ、学生が続々と集まってくる。


 俺たちと同じように、山崎さんも帰るタイミングを完全に失ってしまった。彼はどうすればいいのか分からず、ただその場でハザードランプを点滅させて、事態の終結を静かに見守るしかなかった。


 ヤバイ。とても授業があるからと言って逃げられない。


 一体どうなるのだろう...。

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