10/02
ざざああん、と夜でも優しく波音を立ててくれる瀬戸内の私の海を眺めながら、私はその波の泡に足先をつけた。
ひんやり、冷たい。でもそれのお陰でとっても呼吸が出来て今まで呑んでいたアルコールを呼吸と共に吐き出して暗闇を見上げた。
「……嗚呼、いてくれたのね。そこに」
暗闇だと思っていた空は星がぽつぽつといて。
私は一人ではなかったんだと思い知らされまたアルコールの吐息を吐いた。
酒を呑むといつもこうだ。
だが、違うのは都会で生きた時よりもこうして瀬戸内海の側にいれる事。
あなたの側にいると風も、吸い込む空気も、夜の暗闇も、まばたきも、悲しみも、涙が伝う温度も違うのです。
「ありがとう。また、あなたに慰められているのね」
都会で生きていた時には夢や想像の中でしか感じられなかった潮風が、今戻ってきてこうして直に感じられている。
――嗚呼、わたしは幸せ者で御座います。
そう心の奥底で囁いて優しい白泡に誘われるがままあなたの奥底へ歩もうとすれば。
ザザーーン
大きくあなたは波音を立てて、こちらへはくるなとまた優しく私を地上へ戻すのです。
「いじわるな人。でもそんなところが好きよ」
そっと愛する私の海へ向かってウィンクして、帰路へ着きました。
ようやく涼しい風がきましたね。
それでもあなたの潮風の匂いはつきませんけれども。
明日も呑む酒と場と時間はある。
あなたの波音が私の中で生きる続ける限り、安心して今宵も明日も呑んで寝ましょう。
おやすみなさい私の愛しい潮風。そして乾杯!
海の色気 みずまち @mizumachi
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