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「あら、スイカね」

 私が隠していた大きなお腹を見てあなたは指差して言った。今、瀬戸内海は笑っている。頬に触れる潮風でわかる。

「お母さまに叱られたのでしょう。いつまでもわたしにつかっていないで家にいなさいと」

「いじわる」

 あなたとどうしても一緒になりたいから、お腹をふくらませてみたのに。

それなのにあなたは笑って白波を優しく泡立たせて、私の親指を砂浜と共に撫でて機嫌を取ろうとする。

「ほら、ほっぺまでふくらませて。大丈夫ですよ、お嬢さん。そのお洋服の下にあるスイカを私にくださいな。きっときっと、とってもおいしいお味に仕上げてみせるわ」

 ここの土地で育ったスイカは瀬戸内海にひたすととても美味しい塩梅になるんだとか。

「大事に育ててね、約束よ」

 瀬戸内海は答えなかった。

スイカは甘じょっぱく、美味しかった。

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