8/30

「母に反対されました。あなたに逢うことを」

 海のない都の山奥で、私はひっそりと心の中であなたへ呟きました。

最近はお酒を口にしても頭が痛くなるばかり。

夏の終わりの虫の音を、あなたの波音だと思い目を覚ますばかり。

これは、これは恋なのだと思います。

 ――いいえ、これは運命。いいえ、これは宿命。

どんなに運命や身内や周りの環境に反対されたって白い目で見られたって、わたしはあなたのそばに。常にあなたを心に求めております。

 あの日あの夏の日、水着の上に柔らかなタオルを肩にかけながら走った船の上で浴びたあなたの優しい波風と飛沫を。眼差しを。暖かな光の反射を。そして匂いを。忘れはしません。

愛してます。あなたのそばで生きて、共に寄り添い、そして散っていきたい。

ただあなたの海を決して穢したくない。

だからあなたの海の脇へ一度わたしの髪先を一部だけ切り落とさせてもらいました。

親友へわたしの骨をあなたの体内へまいて欲しいと冗談混じりに言いましたがきっと叶わないでしょう。なので先にあなたの中へ、溶けなくとも、それが穢れとなろうとも入れさせて頂きました。お赦しください。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る