第2話 命名

まだ12の僕は生物兵器ホムンクルスを作るとなった。

柳原やなぎわらに案内され、防空壕シェルターの奥へと進んでいく。

最新鋭の設備が取り揃えられたこの防空壕シェルターは、まるで大きな要塞の様である。しかし、柳原さんと世間話を交えながら歩いていると、気付けばもう最奥の部屋であった。僕は最奥の部屋にきたのは初めてであった。どデカイ金庫に使われるような、大きく、厳重に鍵のかけられた鉄扉であった。

最奥の部屋の前に来ると柳原は僕に個人識別番号を入力させた。


「ここの防犯設備セキュリティシステムに國友くんの番号を登録しておいた。番号を入れれば、いつでも出入り可能だよ。」


「有難う御座います、柳原さん。」


さてと。僕は早速、個人識別番号を入力した。個人識別番号には顔、指紋、さらには遺伝子まで記録されたこの番号。これを入力すると、何処からともなく機械のアームが飛び出してきて自分を走査スキャンした。

約一分程度の走査スキャンを終えると、ゴゥンと何かが動き出す音がした。重そうな鉄扉は唸り声を上げはじめ、そしてゆっくりと開きはじめた。

中には無数の硝子菅と護謨菅。歯車や大きな機械。どれも見た事の無い物であった。


「さあ、國友くん。中へ。」


柳原は僕の手を引いて鉄扉の中へ向かった。とても広い空間だ。歩く度にコッ、コッと音が響く。どれも怪しいものばかりで、僕は空襲とはまた違った恐怖を覚えた。

僕は部屋の隅にある大きな円柱状の水槽の前にやって来た。

硝子の中は液体で満たされ、ちょうど中央あたりに無数の細い護謨菅に繋がれた、何かがいる。柔らかな茶色の長髪をした、裸の少女であった。体を丸め、その液体の中でスヤスヤと眠っているようである。僕は驚いて、思わず赤面してしまった。


「うわっ?!何なのですか、彼女は?!」


柳原はそんな僕を見て少し笑みをこぼした。それは少し小馬鹿にしたような、どこか不快感を覚える笑みであった。


「國友くん、これこそが米國アメリカから送られて来た生物兵器ホムンクルスだぞ。」


生物兵器ホムンクルスは二人の声を聞いたのか、ふと眼を覚ました。彼女の瞳は珍しい猩々緋の瞳であり、その虚ろな眼差しは、僕を見つめていた。

僕は柳原と少しばかり遣り取りを交わしていると、彼女の視線に気がついた。生物兵器ホムンクルスは僕と眼が合うと、こちらの方まで泳いで来た。僕は眼のやり場に困りながら、生物兵器ホムンクルスと硝子越しに対面した。

彼女はその瞳でじっと僕を観察している。何を考えているのか分からない表情は、少し人間らしく無く、少し奇妙に感じられる。


「柳原さん。この子に名前はあるのですか?」


僕はふと、柳原に生物兵器ホムンクルスの名を聞いた。


「これに名前はない。一応、個体識別番号は AL-12-000 と聞いている。」


同じ人のようなのに、名前がないのか。ならば僕が名付けよう。

AL12、、、ALIS。

そうだ、アリスとしよう。おそらく000は、初めて作成された個体という事。始祖のアリス、シソノアリス、、、。


「 始園しその アリス。 」


僕は、思わずその名を口にした。僕は、硝子越しにその子に叫んだ。


「 AL-12-000 なんかじゃない。君は『始園しその アリス』だ!!」


硝子の向こう側の少女アリスの眼は僕を真っ直ぐと見つめていた。

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水瓶の少女 / フラスコのアリス Aris @urasuraimusan

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