水瓶の少女 / フラスコのアリス

Aris

第1話 水瓶

また空襲だ。

第三次世界大戦。起こってはいけない出来事は、非情にも起こってしまった。

僕はもう怖くて仕方がない。いくら地下の防空壕シェルターに籠もりきりで兵器開発に没頭しようと、爆発で大地が悲鳴を上げているが分かる。

まだ僕は12歳の誕生日を昨日迎えたばかりだと言うのに、ほんの少し機械や科学に関する才能があるだけで、なんでこんな思いでこんなことをしなければならないのだろうか。無益な争いをしたところで、なんの利益も帰って来やしない上、僕たちが辛い思いをするだけだ。

僕はぶつくさと文句を垂れながら、自身の持つ水瓶フラスコを揺すぶった。しかし、とくに反応もなにも見られない。やりたくもない実験は実に面白くない。僕は提出用紙レポートを書きながら、大きな溜息を吐いた。


柳原やなぎはらだ。國友くにともくんは居るか?重要案件だ。」


うんざりするような野太い声が、後ろから僕を呼んだ。

日本軍を指揮いる柳原信人やなぎはらのぶひとさんだ。重要案件とは言ってもどうせ、ロクでもない事であろう。兵器の故障?はたまた其れによる負傷?黙れ、使い方をしっかりと見ないお前達が悪い。僕は心の中ではそう毒吐きながらも、顔は愛想よく、声は無理やりにでも明るくして言った。


「はい、すぐに向かいますので、少々お待ちください!」


僕は水瓶フラスコの中身を別の容器に移し替え、水で軽く洗って乾燥機の中に放り込んだ。眼鏡をクイッと指で押し上げ、は少し大きめの白衣を整えると、駆け足で柳原の元へ向かった。


「ヤァヤァ、國友くん。昨日、12歳になったんだってなぁ。お誕生日御目出度う。柳おじさんからの贈呈物プレゼントだぞ。」


そう言うや否や、柳原は僕に銀色の時計を渡した。

柳原は空襲の真っ只中と言うのに、何故か珍しく機嫌が良い。それに妙に洒落た贈呈物プレゼントなんて、益々いつもと様子が違う。

一先ず僕は「贈呈物プレゼント有難う御座います。」と感謝の意を述べた。


「礼なんて構わないさ。それより、さっき言った重要案件なのだが、、、」


何だろう。何時もとは違う柳原の言う重要案件。僕に関連したことに違いはないが、兵器の異常トラブルでなければ一体、、。


「以前、同盟を組んだ米國アメリカが、一体の生物兵器ホムンクルスを私達に寄越したのだよ。まだ試作段階らしく、それを國友くんに改良して頂きたいとの事だ。」


生物兵器ホムンクルスか。以前、小耳に挟んだことがある。米國アメリカの科学者が開発中の兵器人間。実験鼠マウスの遺伝子を使った、人工生物から始まり、今は人工的に人間を生み出すことが可能になった。倫理的にどうなのかと問題視されているが、そんな世論など科学者の耳には入らず、人工人間を兵器運用しようとする輩まで現れた。それが生物兵器ホムンクルスだと言う。

無論、僕はそんな科学など間違っていると思う。人間であれば当然思う事であろう。


「そんな、非人道的な事を、僕がしないといけないのですか?!」


僕は柳原に猛反発した。当然、柳原は厳しい表情になった。


「私達がこの条件を否定すれば、恐らく某國のような有様になるぞ。同盟を結ばれた以上、我々に拒否権はないと言っても過言ではない。すまぬ、國友くん。」


僕は、まだ12歳だ。何でこんな事をやらされなければならない。普通の子供であれば、学校に通って、ともがらと仲睦まじく勉強し、充実した毎日を送っていただろうに。僕は少し出来のいい子供だからと言って、こんなことを強要されることなど間違っている。

でも、僕は仕方なく生物兵器ホムンクルスのことを引き受けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る