新ダンジョン探索-17-

 出港して10分くらいが経ち、沖合に出たくらいだろうか、突然船の速度が遅くなり、やがてほとんど動かくなくなる。

 

 何かあったのかと俺は周りを見るが、特段目立ったものはなく、遠くに見える目的の島はまだ大分先なように見える。

 

 てっきり故障か何かと思ったが、音からするとエンジンは問題なく動いているようだし、船長や他の乗組員たちも表情を変えていない。


 単にあえてここで停船しているようにしか思えなかった。 

 

 やがて船長が、


「間宮三尉、申し訳ないのだが、これ以上の島への接近は許可されていない。……このあたりまでで勘弁してもらいたい」

 

 と言う。


「事情はわかっています。ここまでで十分です。ここからはわれわれ三人だけで直接島まで行きます」


「では、我々はボードを下ろしてきます」

 

 そういうと船長はその場を後にして、船の横に固定されているゴムボードのようなものを下ろしている。

 

 話しを聞く限り、どうやら俺等はここで船を降りて、このボードに乗り換えるらしい。

 

 俺はてっきりこの船で島まで行くものと思っていたが……いや確か沖までとか言っていたか。

 

 しかし……一応エンジンはついているようだが、このボードでまだ大分距離がある島まで行くのは大分……水をかぶりそうだな。


「二見、あなた本気でその格好で行く気なの?」

 

 キャシーさんはそう呆れたように言う。

 

 正直なところゴムボードで水浸しになりながら島に上陸するとは思っていなかった。

 

 それならば、浮遊魔法で寒空の中を突っ切った方が全然マシだ。

 

 そちらの方が時間的にも早いだろうし、この距離ならば、よほど警戒している者が近くにいない限り、気づかれずに行くことができる。

 

 しかし、ここでキャシーさんと綾音さんの女性二人をゴムボードで行かせて、俺一人だけ浮遊魔法で島に飛んでいくのはどうにもはばかれる。

 

 綾音さんの部下たちが中里曹長をはじめとして、船の甲板に並んで、俺等を見守っている。


「隊長、みなさま、お気をつけて」

 

 彼らの真剣な眼差しが一斉に俺等の方に注がれる。


『申し訳ない……水に濡れるのはちょっと勘弁してほしいので、自分は浮遊魔法で先に島に行っています。それじゃあ、キャシーさん、綾音さん、また後で』

 

 と言ってこのまま浮遊魔法で飛んで行ったら、彼らや彼女たちはどういう反応をするか。

 

 全員の唖然とした表情が目に浮かんだ。

 

 少なくとも俺の信用がガタ落ちすることだけは間違いない。

 

 ……しかたがない。


 チームワークというのは時に空気を読んで、我を抑えることが必要だ。


「大丈夫です。こう見えて寒さには強い——」

 

 と、俺はそう言って、ボートに乗り込む。

 

 乗った瞬間、ボードが揺れて、海水が顔に勢いよくかかった。

 

 俺はその瞬間、北海道の海をなめていたことを嫌というほどその体で思い知った。

 

 防寒魔法——ファイアヴェール——の効果も、体中が水浸しになるような状況下では大分薄れることも……。

 

 そもそも防水効果はないからな……。

 

 結局、俺はずぶ濡れになりながら、ゴムボードで島へと向かった。

 

 島に上陸するまでの時間はせいぜい10分かそこらだったようだが、俺には大分長く感じられた。

 

 濡れ鼠のように惨めな姿になった俺と同じように、キャシーさんも綾音さんもその戦闘服は大分濡れてはいた。


 しかし、それらの服は、撥水性が抜群なのか、はたまた彼女たちの日々の訓練のたまものなのか、それほど辛そうには見えなかった。


 俺は思いっきりくしゃみをした後で、「ち、ちょっと失礼します」と言い、この場から離れようとする。


 「おい! 二見……単独行動は——」

 

 綾音さんの呼び止める声が聞こえた。


 だが、このままだと間違いなく風邪を引いてしまう。


「すぐ……戻りますので!」


 と、そそくさと彼女たちから見えない場所まで小走りすると、アイテムボックスを使って、装備品を取り出し、着替える。

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異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の冒険者パーティを助けたら世界的有名人になってしまい、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話 kaizi @glay220

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