【最終話】お兄ちゃんだけの主演女優になりたい!!

 場面転換 秘密基地の別荘内 夜(波音の部屋兼寝室)


 //SE 部屋の位置関係で虫の鳴き声は小さくなり、潮騒の音が間近に聞こえる。


「……ねえ、お兄ちゃん、もう眠っちゃった?」//囁き声が少し高いベッドの位置から聞こえてくる。


「良かった、まだ起きてるんだ。もしかしてぶつけた頭が痛むの? えっ、違うの。波音はおんの献身的な膝枕とふ〜ふ〜で完治したって!? もうっ、調子良すぎるんだからぁ!!」


 //SE 布団の衣擦れの音と共にバフッっとした音がこちらの顔めがけて飛んでくる。


「久しぶりに枕投げしちゃうよ!! 私のコントロールが抜群なのは知ってるでしょ。お兄ちゃんには連戦連勝だったし。またこてんぱんにしてあげる」


 //SE また大きな布の固まりがこちらの顔をめがけて飛んでくる。命中してバフッっと大きな音を立てる。


「私のほうが圧倒的に有利ね。お兄ちゃんの寝ているソファーには小さなクッションしかないから。枕とは火力が違いすぎてごめんなさいね!!」


 //SE こちらも手元にあるクッションを掴む音。それを投げる、布の固まりが飛んでいく音。


「あっ、反撃してきたな!! お兄ちゃんのくせに生意気じゃない……」


「うりゃ!! 枕の次はぬいぐるみの熊ちゃんだ」


「……」//ハッ、っと息を漏らす、なにか大切なことに気がついた様子の波音。


「あっ、これは投げちゃダメだ。お兄ちゃんから貰った私の大切な宝物」


「ふうっ……」//想いを馳せるように吐息を吐く。


「ぬいぐるみの熊ちゃんには私のかわりに秘密基地のお留守番をしてもらってたんだよね」


「うん、とても大切にしているよ。海外留学にも持っていきたかったけど、万が一失くしちゃったらお兄ちゃんと私の絆が切れちゃう気がしたから……」


 //SE ギュッっとぬいぐるみを抱きしめる音。窓越しの潮騒が高まる。


「お兄ちゃん、私のベッドに来て……」//何かを決意した口調で。


 //SE ベッドの軋む音。布団の衣擦れが重なる。


「あの頃みたいに優しく私の頭を撫でてほしい」//消え入りそうな声で。


 //SE 再度ベッドの軋み音と布団の衣擦れの音。


「隣に来てくれて良かった。またはしたない女の子って思われたかと心配しちゃった」//安堵の気持ちを込めて。


 //SE 布団に包まる音。波音の呼吸音が耳のすぐ側で聞こえる。くすぐったいくらいの距離感。


「お兄ちゃん、お布団の中でお話しようか? 子供の頃も波音と部屋でやったよね。とっても楽しかった想い出だよ。私の大切な宝物のひとつ」


 //SE 布団を頭からかぶる音。波音の心音がこちらの耳に聞こえてくる密着感。


「ほら、こんなに胸がドキドキしてる、全部お兄ちゃんが私にくれた素敵な贈りギフトなんだよ」


「物置ではムキになってごめんなさい……。お兄ちゃんが好きすぎてつい意地悪しちゃうの。こんな性格の悪い女の子は嫌いだよね」


「……」//不安げに言葉を待つ。


「本当に? そんな不器用な私も好きって……」


 //SE 心音と窓の外の潮騒が競うように高まっていく。


「嬉しい……」//嬉しさを噛みしめる声。


「私ね、これまでは演じることでしか自分を表現できなかったの。引っ込み思案な幼稚園時代に両親の勧めで児童劇団に入ってから、大人に褒められることしか考えていなかった」


「国民的ドラマの主役を勝ち取って世間から天才子役ってもてはやされても、どこか空虚な私がいたの……」


「みんな役柄の私を見ているだけで、本当の波音は誰も見てくれない。こんなこと贅沢な悩みだってわかっていたけど、普通の女の子に戻りたかった」


 //SE こちらの頬を撫でる羽音の指先の音、甘い吐息が耳に心地よい。


「逃げるようにたどり着いた避暑地の海岸で私はひとりの男の子と出逢ったの」


「よく日に焼けた笑顔。はにかむように笑う癖。男の子の一片の曇のない瞳に映っていたのは芸名じゃない本当の私の姿だったから!!」


 //SE 潮騒の音が羽音の告白に合わせて無音になる。


「……ふうっ!!」


「ここからは演技じゃない私の台詞せりふ


「……」//さらに大きく深呼吸。


「波音をお兄ちゃんだけの主演女優にしてください!!」//演技依頼 決意の中にも可憐な感じで。


 //SE 潮騒の音が再度聞こえてくる。波音の心音も同時に。


「……」こちらの返事を不安げに待っている。


「僕なんかが国民的ドラマの天才子役の相手役でいいの? 棒演技しか出来ないよ、って言ってくれたの、お兄ちゃん……」


「ふふっ、演技指導はとっても厳しいかもよ。私の中のメスガキちゃんが鬼講師になるから」


「な、泣いてなんかいないから。これは元天才子役の特技なの。嘘の目薬なんかいらない。数秒で泣ける子役の称号はいまでも返上していないわ」


「ねえ、お兄ちゃん、私見つけたよ!! 本当のタイムカプセルのある場所」


「物置で僕の宝箱がわりのブリキ缶からタイムカプセルは見つけたじゃないかって? あのカプセルに入っていた手紙は読まなくても内容はわかるから」


「えっ、手紙の内容を僕にも教えろって? そんなデリカシーのないこと聞いちゃうんだ……」


「仕方がないなぁ、じゃあ思い出した手紙の内容を教えてあげるね」


「……」布団の中で見つめ合うふたり。


『未来の私へ。将来の夢はお兄ちゃんのお嫁さんになることです!! 大人の波音はおんちゃん、絶対幸せになってね。小学生の私からのお願い♡』


「いまの私と同じ夢だったね……」


「でもいいの、夢は着々と叶えられているから」


「波音にとって本当のタイムカプセルは秘密基地のあるこの別荘だっだから。そしてお兄ちゃんといっしょにくるまるお布団が何よりの安らげる場所なの!!」


 //SE 布団に包まる衣擦れの音が強くなる。波音がこちらの胸に飛び込んでくる。


「お兄ちゃんと秘密基地のある海辺で知り合えて本当に良かった……」


「大好きだよ、お兄ちゃん、末永く私との共演をよろしくね!!」



 君がいた夏、波音の聞こえる秘密基地にて。タイムカプセルのかけらを探して……。 【完結】


 ☆☆☆作者からの御礼とお願い☆☆☆



 最終話をお読み頂きありがとうございました。


 本作品は第二回こえけんコンテストのASMR部門に参加している作品です。


 読者選考期間があり皆様からの応援で中間選考の結果が決まります。


 ぜひ皆様のお力添えで可愛い声を授けて貰えるスタートラインに彼女を立たせてやってくださいm(__)m


 作品のフォローや★での評価、何卒よろしくお願いします。おすすめレビューやご感想も頂けると作者は飛び跳ねて泣いて喜びます!!


 ※今後長編化も予定しておりますので作品ブックマークは外さないでください。さらに作者フォローして頂ければ新たな通知も見逃しませんのでこちらもぜひよろしくお願いします!!




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甘い同棲生活を始めるJK美少女の正体は国民的ドラマで主演していた元天才子役だった件!?~君と過ごす夏、波音が聞こえる秘密基地にて……。 kazuchi @kazuchi

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