秘密基地の記憶、柱の傷、彼女の柔らかい膝枕。

 場面転換 秘密基地の別荘 夜(物置)


 //SE 虫の鳴き声と潮騒の音。少し秋の気配も感じられる。


「庭の物置だけは手つかずで、当時の状態で保管してあるの」


 //SE ガサゴソと物置内で荷物を取り出す音。


「お兄ちゃんも私の漫画本を読んでサボってないで、真剣にタイムカプセルのありかを探して」


 //SE バサバサと段ボール箱の埃を払う音に、波音からたしなめられて慌てて漫画本を閉じる音が重なる。


「う~ん、いったいどこにタイムカプセルを隠したんだっけ? 我ながら完璧な隠し方よね」


 //SE 腕組する波音の衣擦れの音。


「感心している場合じゃないって!? それは確かに。お兄ちゃんに一本取られたかも、うふふっ!!」


「私がタイムカプセルを何で作ったのかって? お兄ちゃん、それはちょっとひどすぎない!!」


「お兄ちゃんが波音はおんにタイムカプセルを作ろうって提案してくれたんだよ。未来の自分に向けてお手紙を出す大事なイベントだって。そしてふたりの想い出に残そうって約束したのを忘れたの?」


「そうだね、思い出してくれた!! 秘密基地に見立てた物置で暗くなるまで語り合ったよね」


「とっても素敵じゃない、あなたの夢は叶っていますか? そんな手紙。過去の自分が抱いた夢を裏切らない大人になりたいな……」//キラキラとした夢見るような口調で。


「何かヒントでも思い出せればいいんだけど、手紙を入れたタイムカプセルのカタチとか。お兄ちゃんは覚えていないかな?」


「ブリキ缶の箱? タイムカプセルのカタチじゃないよ。えっ、僕の宝物箱だったお菓子のブリキ缶!!」


「ああっ!! だんだん思い出してきたかも。お兄ちゃんが大好きだったカードゲームやミニカーがいっぱい入っていたブリキ缶だね。ガチャガチャと良く箱を振ってとても嬉しそうにしていたっけ」


「でもその中に私のタイムカプセルが何で入っているの? お兄ちゃんが内緒で隠していたとか」


「あははっ、そんなにむきにならないでよ。ほんの冗談だから。ちょっとからかっただけ。思い出したよ。お兄ちゃんにタイムカプセルを預けたんだ」


「お兄ちゃんの家には持ち帰っていないとすれば、この物置のどこかにあるはずよね。当時、秘密基地として使っていたのも主に私の部屋と物置だったから」


 //SE ガサゴソと物置内の棚を探す音。


「お兄ちゃん、こっちに来て、私じゃあ手が届かない高い棚にある銀色の箱が見えるでしょ。カタチも四角いし、アレっぽくない」//声が聞こえる方向が歩みにより近くなる。


 //SE 地面を踏みしめる音。


「あらためて並ぶとお兄ちゃんって背が伸びたね。そうだ!! 背比べの柱の跡がまだ物置にあるんじゃない?」


「お兄ちゃん、そこの柱を懐中電灯で照らしてくれる」


「……」//固唾をのむ。


「ほらっ、やっぱりまだ柱の傷が残ってるよ。すご~い!!」//波音の声が耳元で上下する。あまりの嬉しさに隣で飛び跳ねている様子。


「ねえお兄ちゃん、もっと柱の近くまでいってよく見てみようよ!!」


 //SE 波音がこちらの腕を掴んでくる。衣擦れの大き目な音。秘密基地がわりの物置の中に響く足音。


「……この傷の横に、はおんって書いてある。隣の傷はお兄ちゃんの背丈の跡だよ!!」//嬉しさで思わずうわずった声色。耳元に吐息もかかる距離感。


「あれっ、私の背丈の傷が高い位置に刻んである!? どうしてなのかな。波音の記憶ではお兄ちゃんのほうが背が高いと思っていたのに……」


「お兄ちゃん、私の横に並んでくれる。……んもうっ。もっと柱の近くまで来てくれないと昔の背丈と比べられないよぉ!!」


「そうそう、もっと波音の近くまできて。暗いから足元には気を付けてね」


 //SE 床を歩く足音の後で、ガツンと柱に頭がぶつかる鈍い音。物置全体が激しく揺れ棚の荷物がカタガタと音を立てる。


「あああっ、だから言わんこっちゃない!! だ、大丈夫お兄ちゃん、すごい音がしたよ。頭を柱に思いっきりぶつけたでしょ」//慌てふためき心配そうな声色。


「えっ、僕は石頭だから平気だって? そんなのダメだよぉ!! ほらっ、早く私の膝の上に頭を載せて、血が出ていないか良く確認するから」


 //SE 慌てて駆け寄る波音の足音と大きな衣擦れの音。


「もう、お兄ちゃんは石頭なんて強がりを言っちゃって……。こんなに大きなたんこぶが出来てるじゃない!!」//咎める口調の中にも狼狽した様子。


 //SE ぎゅっと頭を波音の腕で抱きしめられる音。衣擦れの音も激しくなる。


「早く手当てしなきゃ!! 救急セット、物置のどこかにあったはず」


 //SE もぞもぞと膝を動かす度に大きくなる衣擦れの音。


「……お兄ちゃん!? いまなんて言ったの?」


「子供の頃、波音がしてくれた手当てがいちばん僕には効くって!?」


「……」しばし思案した後でため息を漏らす。


「もうっ、お兄ちゃんったら本当に変わっていない!! ……呆れちゃうけどそんなところも私は大好きだったんだよ」


「何だか照れるなぁ。ん~~っ。でも早く手当てをしなきゃ!! 今日は秘密基地再開記念で特別サービスなんだからね、私に感謝しなさいよ!!」


「……お兄ちゃんのばか、いまはメスガキちゃんの役柄は憑依していないから」


「女子高生の膝枕のオマケつき」


 //SE もぞもぞと膝を動かす度に頭が揺れる。衣擦れの音と柔らかい膝のむにゅむにゅした感触の音。


「こうなったら私も開き直るからね。主導権イニシアチブは渡さないから。元天才子役を舐めないで!!」


 「じゃあ波音が息でたんこぶを優しくふ~ふ~してあげるね……」


 「ふ〜〜っ、ふ〜〜っ!!」//演技依頼 セリフではなく本物の息で。


 「ふ〜〜っ、ふ〜〜っ!!」(※上記演技依頼の繰り返し)


 //SE 息を吹きかけられる度に頭を動かすモゾモゾという音が大きくなる。衣擦れと膝のむにゅむにゅ音も同期する。


「どうかな波音の手当て、痛いの痛いの飛んでった? ええっ、もっと息を強く吹きかけてくれって!?」


「ふ〜〜っ、ふ〜〜っ!!」


「ふ〜〜っ!? ああっ、お兄ちゃん、それは反則だよ!! 頭を膝の上でグリグリ動かしすぎだよぉ。くふぅん!? モゾモゾしてくすぐったいよぉ!!」


 //SE 頭を動かすモゾモゾという音がさらに大きくなる。衣擦れと膝のむにゅむにゅ音も同期するように高まる。


「じっとしてなきゃ、またメスガキちゃんになってお兄ちゃんを調教してやるんだからぁ!! 覚悟しなさいよ!!」


 //SE ギュッと腕で頭を押さえつける音。


「波音、絶対にお兄ちゃんには負けないから!!」//涙声の中にも決意する声。


 //SE 物置の外でよりいっそう虫の鳴き声が大きくなる。遠くで潮騒の音が聞こえる。


 次回に続く。


 

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