メアリー先生こんにちは!
○テリー
名前がファーストネームだけで構成された人なんて、これまで聞いたことがなかった。珍しい人だな、と私は思った。メアリー先生が自己紹介を続ける。
「小さい頃から子供達に大切なことを教えたくて、教師を目指してきました。今日から皆さんのクラスの一員として共に過ごすことになります。これから、このクラスが笑顔でいっぱいになるように、先生頑張るからね」
笑顔を崩してはいない。それどころか、笑顔が太陽のように眩し過ぎる。営業スマイルという訳ではなさそうだ。彼女は早速、
「教室を楽しいところにする為に、まずは飾り付けをしましょう。みんな、先生の指示に従ってね」
と言い出した。よく見ると、机の下には三、四個の大きな段ボールが置かれている。そのうち一つは何かがはみ出ていた。遠目から見ただけでは分からないが、ぬいぐるみか何かだろうか。前の先生とは違って、本当に楽しいクラスになるのだろうか。あたしはそれだけが心配だった。
前の先生は男の先生で、宿題を沢山出してきた。クラスに置かれている本も、つまんないやつばかり。男の子達が叱られているのだって何回も見た。だから、学校には行きたくなかった。それが、いきなり変わった。何故前の先生からメアリー先生に代わったのかは分からない。今は黙々と指示に従うだけだ。
○サリー
一つ目のダンボールの中には、モールやレース、リボンといった飾り付けの道具が入っていた。リボンはサテンの綺麗なもので、レースはドレスなどに使われていそうなものだったし、これからパーティが開かれるのかと、正直言って今はドキドキしている。二つ目のダンボールの中には、ぬいぐるみが沢山入っていた。見慣れたふわふわのクマに、ヒツジに、ウサギ、ウマ。それ以外にもネコやイヌといった身近な動物や、キリンやライオンといった珍しい動物もいる。三つ目のダンボールは、持ち上げてみるととても重い。開けてみると、中には沢山の絵本が入っていた。それだけではない。図鑑や子供向けの小説まである。楽しそうなお話が沢山あるので、クラスの子達はとても喜ぶだろう。もちろん私も。
一通り中身を確認したところで、教室の飾り付けが始まった。男の子達は力仕事を担当し、私達はぬいぐるみを飾る係を担当した。空っぽの本棚の中には沢山の絵本や図鑑、小説が詰められていき、壁はリボンやレースで飾り付けられた。男の子達は不満そうだが、飾り付けが進むにつれてお城のような教室が出来上がっていき、私の顔からは自然と笑みが溢れる。他の女の子達も、楽しそうな笑顔になっていた。
約三十分かけて、味気ない教室がお城になった。壁の丸太時計は後十分で一時間目が終わるところまで進んでいる。メアリー先生は、
「思ったより早く終わったみたいですね。では、二時間目が始まるまで休憩にしましょう。でも、まだ授業中だから教室からは出ないでね」
と、優しい口調で言った。その言葉とともに、先生はお菓子をカバンの中から取り出し、
「騒いだら他のクラスの迷惑になるから、今からおやつにしましょう。お菓子は沢山あるから気にしないでね」
飲み物は、家から水筒を持ってきている。万一持ってきていなければ、先生に頼んでなんとかしてもらえるかもしれない。幸いにも、ここにいる全員が水筒を持ってきていた。先生は、
「お茶のセットは持ってきてあるわ。さあ、みんなで素敵なお茶会をしましょう」
こちらに笑みを向けてから、私達一人ひとりにカップを渡し、お茶を注いで回った。
配られたお菓子は、どれもこれもご馳走といっていいもので、まず家では食べられないようなものばかりだった。クッキーもチョコレートも、パウンドケーキも全て。一流の職人が作ったものだろうか。見ているだけでキラキラと目が輝きそうだ。
「ありがとうございます!メアリー先生」
「今日は特別よ。少し余ってるから、おかわりもできるわ。食べ終わったら、先生のところに来てちょうだい」
こうして、わたし達の楽しいお茶会が始まった。
メアリー先生がやってくる! 縁田 華 @meraph
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