メアリー先生がやってくる!
縁田 華
平和な日々と変化(プロローグ)
○サリー
小さな家の二階、窓の外から小鳥の囀りが聞こえる。朝がきたのだ。カーテンの隙間から差し込む朝陽が私の目に入り、眩しさのあまり私は眠い目をこすりながらゆっくりと起き上がった。抱いていたぬいぐるみはベッドの外に落ちているし、布団だって抱き枕か柱のように丸まっている。私はそれらを見遣ることなく部屋のドアを開けた。階下では母が朝ごはんを作って待っているからか、いい匂いがこちらにまで漂ってくる。今日の朝ごはんはなんだろうと思いながら、私は階段の手すりを掴み、一階へと降りていった。
「あら、おはようサリー」
「お母さん、おはよう」
いつもの朝が始まった。食卓の上には朝食が用意されている。今日もいつもと同じ、サラダとスープ、そしてまあるいパンが二つ。私はこの朝食が大好きだ。傍らにあるマグカップにはホットミルクが注がれている。私はパンをちぎった後、バターをパンに塗り、それを口にした。焼きたてのそれは熱いが、バターのコクと塩味でパン本来の味は隠れつつあった。でも、
「お母さん、このパンおいしいね」
「ありがとう、サリー。でもお野菜も食べましょうね」
「うん!」
時間がないのにお母さんはいつも朝食をつくってくれる。それ以外にも、お洋服やバッグも作ってくれる。誕生日には大きな街のおもちゃ屋さんで好きなおもちゃを買ってくれたし、ケーキだって作ってくれた。私はそんなお母さんが大好きだ。お父さんは私が起きる前にお仕事へ行ってしまった。でも、お父さんも大好き。
顔を洗った後、私は部屋へ戻って着替える。ベッドの上にはいつものお洋服が用意してある。露草色のギンガムチェックのワンピースに、三つ折りソックス。着替えた後にブラシで髪を梳かし、髪にリボンをつけたら完成だ。
「行ってきます!」
「気をつけてね」
私は鞄を持って学校へ向かった。
○ジャック
黄色いバスを待っている間、僕はずっと本を読んでいた。学校の図書館で借りた童話の本。街の図書館とは違ってそこまで広くはないけれど、僕の好きな本がたくさんあった。難しい本は一つもない。全て子供向けの小説か、図鑑、絵本で占められていた。
しおりを挟み、本を閉じた瞬間にテリーがやってきて、
「おはよう、ジャック」
「おはよう、テリー。今日は早いね」
「朝ごはんはちゃんと食べたよ?朝の掃除しなくていいって、お母さんから言われたの」
「そっか」
「それよりさぁ、今日あたし達のクラスに新しい先生が来るんだってさ」
「どんな先生だろうね」
「楽しみだね」
そうこうしているうちに、バスが来たので僕たち二人は乗り込んだ。
バスの中には僕とテリー以外にもあと二、三人くらいの子供達がいた。この学校では、皆がスクールバスに乗って登校するから、座席がぎゅうぎゅう詰めになることだって珍しくない。後ろの方に座っている子達は、僕とテリーより背が低い。低学年だろうか。全員男の子で、おしゃべりをしている。僕は窓の外の景色を見ながら、やがて微睡んでいった。
○エイミー
バスに揺られてから二十分、わたし達は学校に着いた。校舎の時計は八時より少し前を指している。教室に入る前だというのに、今日はいつも以上にドキドキする。何故だろうか。
始業のチャイムが始まると、先生が入ってきた。だが、昨日までとは違う。若くて美人な先生だ。金の波打った髪を後ろで一つで纏め、黒いスーツで決めている。黒いパンプスもカッコよく見える。前までの先生とは大違いだ。彼女は、
「皆さん、おはようございます。今日からこのクラスの担任を務めるメアリー・パトリシア・スーです。よろしくお願いします」
そう言ってぺこりとお辞儀をした。
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