第50話 『鷹の目』の盲点

「PvPやるか!」とは言ったものの、実際、チームでPvPをやる連中なんてあんまりいないんだよね……。

 荒野付近でお互いが視認できる距離で、フォーメーションチェックをするくらいだった。


 今日は2人と元通りになれて、お誘いを断ったり、連携テストをして、精神的に疲れた。早めに訓練を切り上げてログオフ。

 夕飯時、今度こそ本物のビールで乾杯――


「今日はちょっと早く寝る〜」と自室に戻り、ベッドに寝転んでいろいろ考える。


 Redの言葉――『じゃ、今まで通り私たちは敵じゃなく、ライバルのままね』。あの凄腕がオレをライバルだって認めてくれた。

 そのことがちょっとだけ嬉しかったけど、あの勧誘はちょっとねぇ。自分もその気になっちゃったのがいけないんだけどさ。

 チームメンバーのこと、悪く言われたんだよね……。

 他のチームは、メンバー集めってどうしてるんだろう。VRMMORPG『BulletS』は他のゲームと違って、募集掲示板やフレンド登録で直接交渉するしかないから、たぶんそうしているんだろうな。

 オレは3年前から最近までシューメイと2人っきりだった。アズサちゃんはオレの事件でチームに入るべくして入ったんだけど、リアルでは……後輩で同僚で秀明の彼女で……今は女の子として大先輩だし。

 うちらはうちら。他のチームと違って、たぶんずっと3人のままなんだろうし、一番良い状態なんだと思う。

 ま、他のチームのことなんて考えてる余裕はないや。


 それよりも、戦い方の練度を上げるには、複数チームで戦う大会前の練習試合――例えばサッカーのフレンドリーマッチのような――があればいいんだけどな〜

 あと、通常のPvPでPvPモードをONにしたプレイヤー全員の位置情報がマップ上に表示される――つまり、全員が『鷹の目』を使っているのと同じ状態になる――から、PvP大会の訓練にはならないんだよね。同一チームメンバーの場合も、PvP大会のようにリーダーだけがマップ上に位置情報を見られる仕様に変更してもらうとか……。

 あと、考えると恐ろしいけど、万が一『鷹の目』が無効になったりしたら……あ、そうか。


 システム関連のこともあるから、崔部長に聞いてみたいけど、ここは栗山社長を通したほうが良さそうだ。

 休日だけど、まだ20時過ぎたばかりだから、出てくれるかな? 早速電話をかける。


「もしもし、高岡です。栗山社長、お休みのところ大変申し訳ありません。今、お時間よろしいでしょうか?」

『はい、栗山です。大丈夫ですよ。それより、高岡さんから直電なんて珍しいですね、いかがされました?』

「あ、えっとですね……いくつかお願いと、提案がございます。」


 話した内容はこんな感じかな。


 通常のPvPでも、PvP大会と同様に、同一チームのリーダーだけがマップ上に位置情報を表示されるようにしてほしい。

 前回大会の上位四チームや、過去優勝チームリーダー所属チームでのフレンドリーマッチのような大会を開催してほしい。

 戦闘フィールドで発動する『鷹の目』の有効無効の切り替え機能がほしい。

 実体化させたアイテムのストレージへの再格納機能がほしい……なんだかお願いばっかりだな。


『なるほど! フレンドリーマッチでチーム戦闘力の確認と、宣伝の両方を考えていらっしゃるのですね。専属プロとして申し分のないお考えだと思います』

 あ、別に宣伝を考えていたわけじゃないけど……まあ、いっか〜

「そ、そうです〜」

『準備もありますので……そうですね、第6回VRMMORPG BulletS RECOILの1ヶ月前にいかがでしょう?』

 ん〜もうちょっと余裕がほしいけど仕方ないかな。いきなりの話だもんね。


「はい、では1ヶ月前にお願いします。マッチするチームは栗山さんサイドにお願いしてもよろしいですか?」

『承りました。宣伝に繋がりますので、チーム選考は事務局におまかせください』

「よろしくお願いします……あと、システム関連のお話は、」

『そちらは崔部長から、メールか携帯で高岡様にご連絡差し上げるように伝えます』

 提案が快諾されて、電話を切る。


 フレンドリーマッチと、今まで考えていたシステム改善点を約束してもらえた〜 よし! これで少しは大会前にチームでの戦闘が試せるな。

 秀明たちにも伝えておかなきゃ……と2人の部屋のドアをノックしようとしたけど、梓ちゃんの喘ぎ声が聞こえたので、そのままそっと部屋に戻った。


 ◇


 翌朝、日曜。8時過ぎに起き、いつものようにダラダラとパジャマ姿でまずはコーヒーを……とキッチンへ向かう。

「忍さん、おはようございま〜す。コーヒー淹れますね〜」梓ちゃんが朝ごはんの準備をしてくれている。

「あ、うん。梓ちゃんおはよ〜 ありがと」昨夜の声をちょっと思い出して、顔がまともに見られない……。

「今朝も眠そうですね〜」梓ちゃんは気にせず、いつも通りだ。

「うん、早寝したんだけどね〜」とはぐらかす。


「あ、それよりさ、昨日あれから栗山社長と話して――」

 栗山社長に提案とお願いをした内容を話す。

「フレンドリーマッチ……ですか〜? そうですよね〜 団体戦でPvPしてくれそうなチームを探すの、大変でしたもんね〜 アイテムのストレージへ戻すのもナイスアイデアです〜」

 あ、割とわかってきたじゃん……と思っていると、

「あと、『鷹の目』の有効無効の切り替え機能って、完全なリスク管理ですね〜」

「そうだろ〜? システムは常に最悪の事態を想定しておかなきゃいけないんだよね」

「それって、忍さんと秀明くんが私が勝野チームに入ったときに最初に教えてくれたことですよね〜」


 秀明が起きてきたので、梓ちゃんに伝えた内容と、『鷹の目』が使えなくなる危険性の対処を話す。

「そうだな。このゲームシステムだって、いつ接続が切れるかなんて誰にもわからない。忍が女子になったのだって、元々はシステムの不具合だしな」

「そうだよね〜 正常に動いてるように見えても、微細なエラーなんてログを見ると普通に吐き出されてるしね」

「ああ。今まで俺も気づかなかった。忍が提案した『鷹の目』を使わないマッチ戦、案外名案かもしれないな」

「そ、そう?」

「仮にだ。そればかりに頼っていて使用不能になった場合、俺たちが蜂の巣になって即敗退する。それを想定した訓練になるってことだ」

「そ、そだよね〜 『鷹の目』を使わないで3位入賞したときのことを思い出して戦わないとね」

「ああ」

「それって、どういうことですか〜?」と昔を知らない梓ちゃん。

「あの頃は『鷹の目』がなかったから、戦闘フィールドに転送されるまでの10分間に、チーム名と人数を覚えて、マップ上に表示されるチーム名から人数を把握してたんだよね〜」

「あ〜、そしたら私、割と暗記って得意なんで〜」

「じゃ、フレンドリーマッチは梓ちゃんが後衛かな?」

「試してみる価値はあるな」

「せ、責任重大ですぅ〜」

「あははは。じゃ、今日はもチームでPvPやってる連中探して、位置情報の共有なしで叩こう。いなけりゃ個別でPvPだね」

「そうしよう」

「了解です〜」


 ◇


 朝ごはんを終え、ログオン。今日の転送先はPvPを楽しみたいプレイヤーが集まりやすい廃都市。

 転送ポイントに実体化し、PvPモードをONにしようとしたけれど、少し考え込む。


 後から転送されてきた2人は、PvPする気満々で準備していたので、急いで「ちょっと待った」をかけた。


「なんだよ、シノブ。どうした?」と秀明。

「さっき話したけど、PvPモードをONにすると『鷹の目』が自動で発動しちゃうじゃん? それに、チームでPvPやってる連中ってあんまりいないし……だから、2人だけでPvPの訓練をしてみてくれる?」

「なるほどな。でも、『鷹の目』を使わない戦闘はフレンドリーマッチのぶっつけ本番になるってことか」

「そうなっちゃうね……でも、他のことも試してみたいんだよね」

「ん? ってことは、おまえは別行動か?」

「うん。ちょっと気になることがあって、試してみるだけ」


 PvPモードをONにしないまま、『天の秤目』で適当に見つけたプレイヤーにアシストシステムをONにして銃口を向けたら、システムから 『マナー違反行為です。保有HPを10パーセント減殺します』 と警告が。

 その場でペナルティを食らっただけじゃなく、システムアナウンスでエリア内全員に伝えられちゃったんだよね……。恥ずかしいったらありゃしない。


 攻撃ができないこと自体は知ってたけど、試してみたくなるのが人間じゃない? でも、あんなアナウンス聞いたことなかったし、思わず「うそでしょ?」って言いたくなった。

 結局、大会1ヶ月前のフレンドリーマッチまでは普通にPvPをするしかないみたい。仕方ない、真面目にPvPやろうっと。


 月曜の夜。

 ただPvPをするだけじゃ意味がないから、しばらくはレアスキルに頼らず、狙撃の学習と実践に専念するつもりだと2人に伝えると――


「ほ〜さすが金髪赤眼のスナイパー。何か考えがあるんだろ?」と秀明。

「素敵ですぅ〜!」と梓ちゃん。

「うん、まぁね……」と少し照れながら応える。


 あいつ――Redと同じレベルに到達しなきゃな。

 アシストシステムを使わずに、スコープと『天の秤目』だけで敵を仕留める。数100メートルの距離ならなんとかなるけど、1,500メートル近い長距離となると、かなりの高難易度だ。Redはそれをやってのける。

 オレも今の腕前なら挑めるけど、命中率は70から80パーセントが限界。100パーセントの成功率にはまだまだ程遠い。


 これまでは感覚任せで撃っていたけど、基礎を固めるためにゼロイン――射撃調整――の知識をリアルで学び始めた。ネットで座学を進めながら、実際の射撃はゲーム内で試すことにしたんだ。


 例えば、銃を静止させる技術、ターゲットではなくレティクルに集中するコツ、トリガーを一定速度で引く感覚……。さらには、愛銃AWSMで使用している.338ラプアマグナム弾の弾道データも研究。

 ゲーム内では強風は吹かないものの、風は少なからず影響する。実際の長距離射撃の専門書を読むと、風の影響とその対策についてページの多くが割かれていると知った。そこに書かれていた「風が無ければ誰でもスナイパーになれる」という一節は名言だと思う。


 その後、実践に移る。VRMMORPG BulletS内で破壊可能なNPCやモンスターを狙撃し、反復練習を重ねた。命中率を徐々に高めていく。約1年前、この身体と銃を手に入れたときのように、初心にかえった気持ちで挑戦し続けた。


 ◇


 約2週間後の金曜の晩、久しぶりに2人と合流した。

「おう、シノブ! 狙撃の調子はどうだ……って、聞くだけ野暮か」

「うん。今はアシストなしでも1,500ならほぼ100パーセント近い命中率になったよ。でも、まだまだ伸びしろあると思ってるけどね」

「なるほどな。コツコツタイプのおまえがそう言うなら間違いないな。フレンドリーマッチが楽しみだ」

「まぁね。でも最終目標は、」

「ああ、次回大会での優勝だろ?」

「うん、その通り!」


「で、そっちはどうなの? 特にアズサちゃんとの連携は順調?」

「こっちもバッチリだぜ。な?」

「はい〜 シューメイくんの防御とHPアップのサポート、完璧です〜!」

「お〜いいね。それじゃあ、3人で久しぶりにPvPやろっか?」

「おう! 燃えてきた!」

「は〜い!」

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2025年1月11日 00:00
2025年1月12日 00:00
2025年1月13日 00:00

フルダイブゲームシステム金髪赤眼のスナイパー、強制ログアウトで女子化しました。 中島しのぶ @Shinobu_Nakajima

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