第39話 『鷹の目』の弱点

「PvPやるか!」とは言ったものの、実際にはチームでPvPやる連中なんてあんまりいないんだよね……。

 荒野付近でお互いが視認できる距離で前衛・後衛のフォーメーションチェックをするくらいだった。


 今日は二人と元通りになれて、お誘いを断ったり連携テストもやったから精神的に疲れた。早めに訓練を切り上げLOGOFF。

 夕食時、今度こそ本物のビールで乾杯――。


「今日はちょっと早く寝る〜」と自室に戻りベッドに寝転びいろいろ考える。


 Redの言葉――『じゃ、今まで通りわたしたちは敵じゃなく、ライバルのままね』あの凄腕がオレをライバルって認めてくれた。

 そのことがちょっとだけ嬉しかったけど、あの勧誘ってちょっとねぇ。

 自分もその気になっちゃたのもいけないんだけどさ。

 チームメンバーのこと悪く言われたんだよね……。

 他のチーム、メンバー集めって苦労してるんだろうな。このVRMMORPG BulletSは他のゲームと違うから募集掲示板とか、フレンド登録して直接交渉するしかないから多分そうなんだろうな。

 オレは3年前から最近までシューメイと二人っきりだった。アズサちゃんはオレの事件でチームに入るべくして入ったんだけど、リアルでは……後輩で同僚で秀明の彼女で……今は女性としての先輩だし。

 うちらはうちら。他のチームと違って多分ずっと三人のままなんだろうし、一番良い状態なんだと思う。

 ま、他のチームのことなんて考えてる余裕はないや。


 それよりも戦い方の練度を上げるには……複数チームで戦う大会前の練習試合――例えばサッカーのフレンドリーマッチみたいなの――があればいいんだけどな〜。

 当然、ハンヴィーとか重火器は敵に手の内を見せたくないから使わないけど、問題は『鷹の目』だよね。戦闘フィールドに入ったらPvPON状態で、自動的に発動しちゃうからな。

 システム絡みのことだから崔部長に聞いてみたいけど、ここは栗山社長を通した方がいいよね。

 休日だけど、まだ20時過ぎたばかりだから出てくれるかな? 早速電話。


「もしもし、高岡です。栗山社長、お休みのところ大変申し訳ありません。今お時間よろしいでしょうか?」

『はい、栗山です。大丈夫ですよ。それより高岡さんから直電なんて珍しいですね、いかがされました?』

「あ、えっとですね……いくつかお願いと申しましょうか、提案がございまして……」


 話した内容はこんな感じかな。

 前回大会の上位4チームや過去優勝チームリーダー所属チームでのフレンドリーマッチのような大会を開催して欲しい。

 その際、戦闘フィールドで発動する『鷹の目』の無効化または有効無効の切り替え機能が欲しい。

 実体化させたアイテムのストレージへの再格納機能が欲しい……なんだかお願いばっかりだな。


『なるほど! フレンドリーマッチでチーム戦闘力の確認と、宣伝の両方を考えてらいっしゃるのですね。専属プロとして申し分のないお考えだと思います』

 あ、別に宣伝は考えてなかったけど……ま、いっか〜。

「そ、そうです〜」

『準備もありますので……そうですね、大会の1ヶ月前にいかがでしょう?』

 ん〜もうちょっと余裕が欲しいけど仕方ないかな。いきなりの話だもんね。

「はい、では1ヶ月前にお願いします。マッチするチームは栗山さんサイドにお願いしてもよろしいですか?」

『承りました。宣伝に繋がりますので、チーム選考は事務局にお任せください』

「よろしくお願いします……あと、システムがらみのお話は、」

『そちらは崔部長からメールか携帯で高岡様にご連絡差し上げるように伝えます』

 提案が快諾もらえたんで電話を切る。


 フレンドリーマッチと、今まで考えていたシステム改善点を約束してもらえちゃった〜。よし! これで少しは大会前にチームでの戦闘が試せるな。

 秀明たちにも伝えておかなきゃな……と二人の部屋のドアをノックしようとしたけど、アズサちゃんの喘ぎ声がしたんでそのままそっと部屋に戻った。



 翌朝、日曜。8時過ぎに起き、いつものようにダラダラとパジャマ姿でまずはコーヒーを……とキッチンに。

「忍さん、おはようございま〜す。コーヒー淹れますね〜」アズサちゃんが朝食の用意をしてくれている。

「あ、うん。アズサちゃんおはよ〜。ありがと」昨夜の声をちょっと思い出して顔がまともに見られないや……。

「今朝も眠そうですね〜」アズサちゃんは気にせず平常運転。

「うん、早寝したんだけどね〜」と逸らかす。


「あ、それよりさ、昨日あれから栗山社長と話して――」

 栗山社長に提案とお願いをした内容を話す。

「フレンドリーマッチ……ですか〜? そうですよね〜団体さんでPvPしてくれそうなチーム探すの大変ですしね〜。アイテムのストレージへ戻すのもナイスアイディアです〜」

 あ、割とわかってきたじゃん……と思ってると、ギクリとする内容がアズサちゃんの口から出る。

「『鷹の目』は唯一無二の能力ですけど、もし使えなくなっちゃったら……」

「え?」

「だって、システムと直結しているってことは、仮にリンクが切れる事態が生じたら……」

 あ、そうだ。システムとのリンクが不安定になったり切れたら全く使えなくなっちゃうじゃん!

「そ、そうだね。アズサちゃんありがとう。今までリンク切れが起きるなんて、全く考えに入れてなかった! システムは常に最悪の事態を想定しておかなきゃいけないこと、忘れてたよ」

「それって、忍さんと秀明くんが一番最初にわたしが『勝野チーム』に入ったときに教えてくれたことです〜」

「うわ〜! 一番気をつけてなきゃいけないこと後輩に教えてもらうなんてオレ、ダメダメだ〜」

「そ、そんなことないです〜」


 秀明が起き出してきたので、アズサちゃんに伝えた内容と『鷹の目』が使えなくなる危険性があることに気付かされたことを話す。

「そうだな。このゲームシステムだって、いつ接続が切れるかなんて誰にもわかりゃしない。忍が女の子になったのだって、元々はシステムの不具合だしな」

「そうだよね〜正常に動いてるように見えても、微細なエラーなんてログ見ると普通に吐き出されてるしね」

「ああ。今まで俺も気づかなかったが、アズサやるな!」

「うふふ〜」アズサちゃん自慢げだ。

「それと、忍が提案した『鷹の目』を使わないマッチ戦は案外名案かもしれないな」

「そ、そう?」

「仮にだ。そればかりに頼っていてアズサが言うように使用不能になった場合、俺たち蜂の巣になって即敗退だ。その事態も想定した訓練になるってことだ」

「そ、そだよね〜『鷹の目』を使わないで三位入賞した時を思い出して戦わないとね」

「ああ」

「それって、どういう……?」

「あ、あの頃は『鷹の目』の代わりに戦闘フィールドに転送されるまでの10分間にチーム名と人数を覚えて、マップ上に表示されるチーム名から人数を把握してたんだよね〜」

「あ〜、そしたらわたし、割と暗記みたいなの得意なんで〜」

「じゃ、フレンドリーマッチはアズサちゃんが後衛かな?」

「試してみる価値はあるな」

「せ、責任重大ですぅ〜」

「あははは。じゃ、今日はもチームでPvPやってる連中探して、位置情報の共有はなしで叩く。いなけりゃ個別でPvPだね」

「そうしよう」

「了解です〜」



 朝ごはんをいただいてLOGON。今日の転送先はPvPやりたい勢が多い廃都市。

 転送ポイントに実体化し、PvPONにしようとしたけど少し考える。

 二人はPvPやる気満々で転送されてきたので、ちょっと待ったをかける。

「あんだよシノブ、どうした?」

「あのさ、PvPONにしたら同じくPvPONにしてる全員の位置情報がマップで普通にわかるわけじゃん? これってPvP大会の訓練には使えない……」

「ん? あ、そうか。大会はチームリーダーしかわからない……言われてみればそうだな」

「でしょ? そもそも大会以外じゃチームってあんまりPvP向きじゃない、レイド向きのゲームシステムだからねぇ」

「んじゃ、『鷹の目』使わない訓練はフレンドリーマッチでぶっつけ本番ってことか」

「そうなっちゃうよね……じゃ、いつも通りにPvPしよ? オレもメニューのマップで相手の位置を見る練習する」

「なんかバージョンダウンって感じだな、シノブ?」

「う〜ん、そんな感じ? ま、前はそうやって戦ってたんだけどね……」

 そう言いながらPvPを始める――。

 う〜ん、やっぱり『鷹の目』を使わないでいちいちマップ見るの面倒だな。

 つい『鷹の目』に頼っちゃうし、第一目をつぶってもエリア内が「視」えちゃうんだよね……困ったもんだ。


 そして試しにPvPONせずに『天の秤目』で適当に見つけたプレイヤーにアシストシステムをONにして銃口を向けたら、システムから『マナー違反行為です。保有HPを10パーセント減殺します』って言われて、ペナルティ食らっちゃったんだよね……それもシステムアナウンスでさ。エリア内全員に知られちゃって恥ずかしいったらありゃしない。

 まぁ他プレイヤーに対する攻撃はできないってのは知ってるけど、誰でも一度は実際にやったことあるんじゃないかな? ……って、そんなアナウンス聞いたことないけど〜。

 つまるところ、大会1ヶ月前のプレシーズンマッチまでフツーにPvPをするしかないってことだよね。仕方ないからPvPまじめにやろうっと……。


 月曜の夜。ただPvPするんじゃ意味ないから一人でしばらくレアスキルに頼らない狙撃の学習と実践をすると二人に伝える。

「ほ〜さすが『赤目金髪のスナイパー』のシノブ。何か考えがあるんだろ?」

「素敵ですぅ〜」

「うん、まぁね……」


 あいつ――Redと同じレベルにならなきゃね。

 アシストシステムを使わずスコープと『天の秤目』だけで敵を倒す……そりゃ数百メートルならイケるけど、1,500メートル近い距離は高難易度だ。Redはそれができる。オレも今の腕ならできることはできるけど、ヒット率はせいぜい70〜80パーセント。100パーは無理だ。

 今まで感覚だけで撃っていたので、ゼロインの基礎知識からリアルで学び始めることにした。

 実際の射撃はできないからネットでの座学だけどね。

 銃を静止させる、ターゲットに集中せずレティクルに集中、トリガーは一定の速度で引く、そして愛銃のASM338(AWSM)で一番多く使ってる.338ラプアマグナム弾の弾道データやら……。

 あと、ゲーム内では強風は吹かないけど風はあるから、その対処方法が一番重要。長距離射撃に関する専門書には風の対処方法について多くのページを割いているらしい。そこに書かれていた『風が無ければ誰でもスナイパーになれる』ってのは名言だ!


 あとは実際にVRMMORPG BulletS内で破壊可能NCPやモンスターを狙撃する。何度も繰り返し、命中率を上げていった。約1年前にこの身体と銃を手に入れた時のように初心にかえってね。



 約二週間後の金曜の晩、久々に二人と合流。

「おう、シノブ〜! 狙撃の調子はどうだ……って聞くだけヤボか」

「うん。今じゃもうアシストなくてもほぼ100パーセント近い命中率だよ。でもまだまだだよ〜」

「なるほどな。コツコツタイプのおまえが言うならそうなんだろうな。フレンドリーマッチが楽しみだな」

「まぁそうなんだけどね……でも最終目標は、」

「ああ。次回大会での優勝だな!」

「うん! で、そっちはどうなの? とくにアズサちゃんとの連携はさ?」

「こっちも上々だぜ。な?」

「はい〜。シューメイくんの防御もHPアップ、完璧ですよ〜」

「そっか〜。じゃ、三人で久々にPvPやろっか〜?」

「おう!」

「は〜い」

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