第49話 再始動

 その後、チームとして次大会の戦略と戦術を改めて考える必要があることを2人に伝えた。


 最初のスキャンまでは、他チームに気づかれないように『鷹の目』を使って行動。

 大会開始時の転送先――森林地帯、荒野、都市部、山岳地帯など――に応じて対応する。例えば、森林地帯、都市部、山岳地帯では移動を最小限にし、迎撃態勢を取る。荒野や草原のような見晴らしの良い場所では、速やかに他の場所に徒歩で移動。その際、会敵した相手は即座に倒す。無理なら遮蔽物を探す。

 前回まで出番がなかったハンヴィーは切り札として使いたいので、終盤での移動と戦闘――都市部や荒野のような平坦な場所に限られる――で使用する。

 運転はアズサちゃんが担当し、オレとシューメイは車内とルーフトップからPGMヘカートIIやSR-H1などの重火器で攻撃する。

 ほとんど戦争だな……


「まぁ、仕様変更がなければ、前回優勝者のオレたちは山岳地帯に転送されるはずだけど、絶対とも限らないからね」

「そうだな。仕様変更も考慮してるから、概ね問題ないんじゃないか?」

「私はわからないから、お2人に任せます〜」

「じゃ、次は戦術だな」


 2人だけのときはシューメイが前衛、オレが後衛。

 アズサちゃんは入隊後、強くなるためにシューメイと2人で接近戦の訓練をしてもらっていた。

 オレは1人で遠距離射撃やPvPをしていたくらいで、チームとしての連携は全くできていなかった。

 だから、3人での戦術を練る必要がある。


 レイドでは、3人編成は前衛1人、後衛2人がセオリーだけど、あえてオレは前衛1人、中衛1人、後衛1人の編成を提案した。

 シューメイがアタッカー、アズサちゃんはシューメイの支援として回復と防御を担当。

 本来、中衛は攻守のバランスを取る役割だが、アズサちゃんには荷が重いため、その役割は後衛のオレが担当する。

 今まで通り、狙撃と『鷹の目』を使って、近距離から遠距離――数10メートルから数100メートル以内――を見渡し、攻守の指揮を担当。2人に位置情報を共有し、ターゲットを指示する。

 戦闘開始から中盤はスコープとアシストシステムを併用し、終盤戦では『天の秤目』を使うのは今までとあまり変わらない。


「そうだな。2人だけだと戦い方も変わるしな。アズサに支援してもらうのはありがたい。シノブが指揮するのはいつも通りだな」とシューメイ。

「うん。あとはシューメイ、あんまり敵陣に突っ込みすぎてヤられないようにね。前回みたいに」

「お、おう」

「で、アズサちゃんはどう? 中衛、できそう?」

「ん〜射撃は大丈夫ですね〜 あと、ガードヒールを使って防御の訓練してるんですけど〜、シューメイくんに撃ってもらって、それを防御って……」

「え? シューメイ、アズサちゃんとPvPしてるの?」

「そりゃそうだ。実戦に近いことやらないとな。でもHP下がらないように急所は外してる」

「痛くないとはいえ、シューメイくん本気で撃ってくるんです〜 でもまだ他の人の防御アップと、HPアップはやってないんですよ〜」

「そっか〜 それはこれから訓練で会得してもらうしかないね〜」

「だな」

「じゃ、フォーメーションはこれで決まりだな。今日から3人以上のチーム見つけてPvPやってみようか〜 でも手の内は見せないようにね」

「おう」

「は〜い」

「うん、それにアズサちゃんの大会デビュー戦だもんね〜」

「はぅ〜 そんなハードル上げないでくださいよぉ〜」弱気なアズサちゃん。

「そんな弱気じゃダメだぞ、アズサ」

「そうそう。でもオレたちがいるから大丈夫、大丈夫〜 でもその前に、時間的にもうお昼だから、ログオフしてご飯食べてからにしない? オレはレンチンだけど〜」

「その必要はない。シノブがOKなら、すぐにでもおまえの家に戻る準備はできてる。アズサが昼飯作ってくれるぞ」

「はい〜」

「えええ〜、早く言ってよ〜!」


 ◇


 それから30分も経たず、2人が大荷物を持って戻ってきた。

 チャイムが鳴り、秀明の大声が響く。

「おーい、早くエレベーターホール開けてくれ。重くて仕方ねぇ!」

 エントランス用のモニターに秀明と梓ちゃんが映る。

 勝手に出ていったくせにな〜と思いながら、開錠する。


 キッチンに立ち、昼食を用意する梓ちゃん。

 そしていつものように、リビングのソファにドカッと座り込む秀明。

 たった数日離れていただけなのに、あ〜日常が戻ってきた〜って感じがする。

 お昼のメニューは、お馴染みの砕いたポテチが乗ったチャーハンとサラダ。


「あ〜、やっぱり梓ちゃんのご飯は美味しぃ〜 この何日間か食欲なくて、たまにカップ麺を食べてたんだ……」

「じゃ〜、たくさん召し上がってくださいね〜」

「でも、胃が小さくなっちゃってさ〜」

「食べられるだけでいいですよ〜」

「……」

 秀明はオレと梓ちゃんのやり取りを見ても、文句も言わずバクバク食べている。

 とりあえず秀明の中では、仲の良い姉妹と見なすことにしたんだろうな……。

 オレはその立ち位置でも満足だ。


 うちら3人はチームS・S・A以前に、それ以上の絆があったんだ。

 だからこの3人ならきっと優勝できる……改めてそう思えた。

 でも、今は大会に向けて戦闘の訓練をしなくちゃね!


「それじゃ、お腹もいっぱいになったし、PvPやるか!」と、チームリーダーとして2人の顔を見ながら言った。

「おう!」

「は〜い!」


「じゃ、10分後に廃都市で待ってる!」

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