第48話 やっぱりS・S・Aで

 それから2日間、22時にログオンしてもシューメイとアズサちゃんはいなかった。

 そして、あの2人もログオンしていなかった。


 土曜なら来るかもと思い、少しだけ期待して10時にログオン。始まりの街へ行くことにした。

 転送ポイントで実体化すると、待っていたかのように2人の姿が見えた。

 ちょっと身構えたオレを見つけたアズサちゃんが、駆け寄ってきて謝り始める。


「忍さん、ごめんなさい! この秀明のバカが、私と忍さんができてるんじゃないかってヤキモチ焼いたのが原因なんです! 私はそんなことないし、3人で暮らせて楽しかったし、ゲームもこれから戦えるって説得したんですけど、言うこと聞かなくて、本当にごめんなさいぃぃ!」最後は半泣きだ。

「秀明! 忍さんに謝って! そしてチームを続けようって言う約束でしょ!」

 うわ〜 本気のアズサちゃんこわ〜 それにゲーム内ってことを忘れて本名で呼んでるし。


 シューメイが重い口を開く。

「シノブ、すまん。全部俺のヤキモチ、全部俺の勘違いだった。アズサもそんな気はないし、シノブもそんなことするヤツじゃないっての、わかってたんだけど、俺、おまえらが仲良かったのが気に入らなかっただけなんだ……」

「ま、まぁ、わかったからさ。こんな街中じゃなくて、バーにでも行って、そこで話そ?」


 なんかチームS・S・Aがもめてるぞ――と野次馬が集まってきたんで、先日行った店に2人を連れて行く。


 2階の個室を借りて、3人だけになる。これでやっと落ち着いて話ができるな。

 とりあえず、コーヒーでも飲みながら、バーのメニューで注文する。


 秀明が話し始める――

 梓には数年前に亡くなったユイという妹がいた。

 忍のアバターのモデルになった女の子と同じ名前だと聞いて、梓は妹が生き返ったような、崔部長と同じ感情を抱いた。

 中学から大学まで女子校だった梓にとって、女子とベタベタするのは当たり前のことだった。

 自分はどちらかというと硬派で――いや、全然硬派じゃないな……と思ったが、口を挟まなかった――梓とベタついている女子の姿の忍に嫉妬していた。

 そこに百合の間に挟まる男とか、女性アバターにコンバートする話がきっかけになり、もう3人一緒には暮らせないと思ってしまった。


「なんか頭に血が上ったというか、すまん。俺が悪かった」

「じ、じゃ、チームを解散するとかはないんだよね?」一番恐れていることを聞く。

「ああ、当たり前だろ。俺たちはチームだ。だけど、少しだけ距離をおくのも必要かもと思っちまったんだ。でも、もし忍がよければ、また一緒に暮らしたい。俺は忍と梓を守る」

 やっぱり秀明って脳筋というか短気だな……バカだよね。


「私も忍さんを立派な女の子にします!」

「あ、ありがとう……」


 あ、そうだ。あのことはチームリーダーとして報告しないといけないな。

「実はさ、RedとMにこの店で会ったんだ」

「え?」秀明が驚く。

「あ、Redっていうのは、女性スナイパーだよ。先日PvPでオレが勝った相手ね」

「あ〜、そういえばそんなことありましたね〜」

「うん。Mはマサシっていって、Redのリアルの旦那さん。なんていうか、2人はライバルチームなんだよ」

 ほとんど2人を知らない梓ちゃんはキョトンとしているので、説明する。

「で、3日前かな? Redからフレンド登録の申請があってさ、ちょうど2人が出て行った日で、なんかこう……気になる相手だったから、話だけでも聞こうと思ったんだ」

「……すまん」と秀明が言った。


 当日の内容をかいつまんで2人に説明する。


「……そんなことがあったのか」と秀明。

「うん。元男だってのが知られたのは正直ちょっと嫌だけど、チームには影響ない。ただ、『鷹の目』使いだってのがバレたのは痛かったな」

「――だな。一番敵にしたくない相手だ」

「だから、オレと組もうとしたんだよね。オレたちがプロ契約してるのを利用したかったんだろう」

 Redが2人を戦力外視していることは黙っておいた。

「正直、今日2人に会うまでは1人になったらチームも解散だし、MRと組もうかとも思ってたんだよ」と腹いせに嫌味っぽく言う。

「ほんっと俺が悪かった……」

「わかったわかった。あいつらとは組まないし、そんな気もないから」


 そうだ。お断りするのはメッセージじゃなくて、やっぱり対面で言ったほうがいいのかな? それともスルーしておこうかな……。

「な、忍。ヤツらの誘いを断るなら、ちゃんと会って言ったほうがいいと思うぞ。不安なら俺たちもついて行く。おまえ、押しに弱いから、万が一丸め込まれる可能性もあるしな」と秀明。

 あ〜、確かにないとは言い切れないけど…… 2人は連れて行かないほうがいいかも――『だからシノブちゃんに接触したんじゃない。他の2人には悪いけどね』Redの言葉がよぎる。

「そうだよね。ちゃんと会って丁重にお断りするよ」

「ああ、それがいい」


「でも、1人で行くよ。さっき言わなかったけど、Redってなんか2人をどう言ったらいいか、格下に見てる感じだったから、気を悪くすると思って。『神宿り』と『ガードヒール』持ちってことは、向こうは知らないからね」

「ふん、言わせておけばいい。でも、ちょっと顔を見てやりたいから、俺も会いたいんだが」

「そっか。じゃ、連絡してみる」


 ――10分後、ノックの音。


 メッセージを送ったら、指定場所に行くと言われたので、オレたちの居場所を伝えた。

「来たね」

「ああ」

「なんか怖いです〜」


「どうぞ〜 悪いけど、オレ1人じゃないけどさ〜」

「うん、そうだと思った」と言いながらRedが1人で入ってくる。

「シューメイさんと……?」

「は、初めまして……アズサです」とちょっとビビりながらアズサちゃん。

「あ、知ってる。あなたはリアル女性ね、誰かさんと違って」

「ひでーな。シノブはもうリアルでも女子だって、おまえだって知ってるくせに」と早速戦闘モードのシューメイ。

「ごめんね〜 私、こういう性格なんでさ。じゃ、シノブちゃん、お答えは? まぁ想像つくけどね」

「うん。想像通り、答えはNOだよ」

「……わかった。じゃ、今まで通り私たちは敵……じゃなく、ライバルのままね」

「うん。次の大会、必ず本戦に上がってきて。そしてまた勝負しよう」

「ええ、必ず!」


 そう言いながらRedは部屋を出て行った。


「……もしかしたら、アイツ、いいヤツかもな」とシューメイ。

「うん。オレもそう思う」

「私はやっぱり怖い人です〜」

「あははは。あ、そうだ」と、思いついたのでビールを3杯注文する。


「改めて、チームS・S・Aの再始動だ」とジョッキを掲げる。

「だな!」

「は〜い」


 3人で乾杯!

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