第37話 やっぱりS・S・Aで

 それから2日の間、22時にLOGONしてもシューメイとアズサちゃんはいなかった。

 そしてあの二人も。


 土曜、少しだけ期待し10時にLOGON。『始まりの街』へ行くことにした。

 転送ポイントで実体化すると、オレを待っていたかのように二人の姿が見えた。

 ちょっと身構えたオレを見つけたアズサちゃんが駆け寄って来て謝り始める。

「忍さん、ごめんなさい!この秀明の莫迦がわたしと忍さんができてるんじゃないかって、ヤキモチ焼いたのが原因なんです!わたしはそんなことないし、三人で暮らせて楽しかったしゲームもこれから戦えるからって説得したんですけど、言うこと聞かなくて〜、本当にごめんなさいぃぃ」最後は半泣きだ。

「秀明!忍さんに謝って!そしてチームを続けようっていう約束でしょ!」

 うわ〜本気のアズサちゃんこわ〜。それにゲーム内ってこと忘れて本名で呼んでるし。

 シューメイが重い口を開く。

「シノブ、ごめん。全部俺のヤキモチ、全部俺の勘違いだった。アズサもそんな気はないし、シノブもそんなことするヤツじゃないっての、わかってたんだけど、俺、お前らが仲良かったのが気に入らなかっただけなんだ……」

「ま、まぁ、わかったからさ。こんな街中じゃなくて、バーにでも行ってそこで話そ?」

 なんかチームS・S・Aがもめてるぞ――と野次馬が集まってきたんで、先日行った店に二人を連れて行く。


 バーの個室を借りて三人だけになる。これでやっと落ち着いて話ができるな。

 とりあえず、コーヒーでも飲みながらとバーのメニューで注文。


 秀明が話し始める――。

 アズサには数年前に亡くなったユイという妹がいた。

 忍のアバターのモデルになった女の子と同じ名前というのを聞いて、アズサは妹が生き返ったような……崔部長と同じような感情を抱いた。

 中学から短大まで女子校だったアズサは女子とベタベタするのは当たり前だった。

 自分はどちらかというと硬派で――いや、全然硬派じゃん……と思ったけど口を挟まなかった――アズサとベタついている女性の姿の忍に嫉妬をしていた。

 そこに『百合の間に挟まる男』とか、『女性』アバターにコンバートする話が契機になりもう三人一緒には暮らせないと思ってしまった。


「なんか頭に血が上ったというか、すまん。俺が悪かった」

「じ、じゃ、チームを解散するとかはないんだよね?」オレは一番恐れていることを聞く。

「あ、当たり前だろ。俺たちはプロなんだ。ただ少しだけ距離をおくのも必要かもと思っちまったんだ。でも、もし忍さえよければまた共同生活させてほしい。俺は忍とアズサを守る」

「はい、わたしも忍さんを立派な女性にします!」

「あ、ありがとう……」

 やっぱり秀明って脳筋というか短気だな……莫迦だよね。


 あ、そうだ。あのことはチームリーダーとして報告しなくちゃな。

「実はさ、RとMにこの店で会ったんだ」

「え?」驚く秀明。

 二人をほとんど知らないアズサちゃんはキョトンとしているんで、「あ、RはRedっていって女性スナイパー。先日PvPでオレが勝ったヤツね」

「あ〜そういえばそんなことありましたね〜」

「うん。Mはマサシっていって、なんていうかライバルチームなんだよ」と説明する。

「で、3日前かな? Redからフレンド登録の申請があってさ、ちょうど二人が出て行っちゃった日で、なんかこう……さ、気になる相手だったから話だけでも聞こうとしたんだ」

「……ごめん」と秀明。


 当日の内容をかいつまんで二人に説明する。


「……そんなことがあったのか」と秀明。

「うん。元男だっての知られたのは個人的にはちょっとイヤだけど、チームには影響ない。けど、『鷹の目』使いなのがバレちゃったのは痛いんだよね」

「――だな。一番敵にしたくない相手だ」

「だから、オレと組もうとしたんだよね」Redが二人を戦力外視していることは黙っておいた。

「正直、今日二人に会うまではオレ一人になったらチームも解散だし、『MR』と組もうかともちょ〜っと思ってたんだ」と腹いせに嫌味っぽく言う。

「ほんっと俺が悪かった……」

「わかったわかった。あいつらとは組まないし、そんな気もない」

 そうだ。お断りするのはメッセージじゃなくてやっぱり対面で言った方がいいのかな? それともスルーしておこうかな……。

「な、忍。ヤツらの誘い断るならちゃんと会って言った方がいいと思うぞ。不安なら俺たちもついていく。お前、押しに弱いから万が一丸め込まれる可能性もあるしな」と秀明。

 あ〜確かにないとは言い切れないけど……二人は連れて行かない方がいいかも――『だからシノブちゃんに接触したんじゃない。他の二人には悪いけどね』Redの言葉を思い出す。

「そうだよね、ちゃんと会って丁重にお断りするよ」

「ああ、それがいい」

「でも、オレ一人で行く。さっきは言わなくてごめんだけど、Redってなんか二人をどう言ったらいいか……格下に見てるみたいだから気を悪くすると思って。『神宿り』と『ガードヒール』持ちってことは知らないからね」

「ふん、言わせておけばいい。が、ちょっと顔見てやりたいから忍一人じゃなく俺も会いたいんだが」

「そっか。じゃ連絡してみる」

 

 

 ――10分後、ノックの音。

 メッセージを送ったら指定場所に行くとのことだったんで、オレたちの居場所を伝えたんだ。

「来たね」

「ああ」

「なんか怖いです〜」


「どうぞ〜、悪いけどオレ一人じゃないけど」

「うん、そうだと思った」と言いながらRedが一人で入ってくる。

「シューメイさんと……?」

「は、初めまして……アズサです」とちょっとビビりながらアズサちゃん。

「あ、知ってる。あなたはリアル女性ね、誰かさんと違って」

「ひでーな。シノブはもうリアルでも女性ってお前だって知ってるくせに」と早速戦闘モードのシューメイ。

「ごめんね〜。わたしこういう性格なんでさ。じゃシノブちゃん、お答えは? まぁ想像つくけどね」

「うん。想像通り、答えはNOだよ」

「……わかった。じゃ、今まで通りわたしたちは敵……じゃなく、ライバルのままね」

「うん。次の大会、必ず本戦に上がってきて。そしてまた勝負しよう」

「ええ、必ず!」

 そう言いながらRedは部屋を出て行った。


「……もしかしたら、アイツいいヤツかもな」とシューメイ。

「うん。オレもそう思う」

「わたしはやっぱり怖い人です〜」

「あははは。あ、そうだ」と、思いついたんでビールを三杯注文する。


「改めて、チームS・S・Aの再始動だ」とジョッキを掲げる。

「だな!」

「は〜い」

 三人で「カンパ〜イ!」

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