その異世界転生は不当です！

第1話 異世界転生リーガルバトル

「あなたは死にました。しかしそれは神の手違いによるものなので、代わりに特別な能力とともに異世界転生をさせてあげましょう」

　いつものように死した相手に対しそう告げる神。しかし、それを聞いた相手の様子はどこかおかしかった。

「…………」

「……どうして黙っているのですか？」

「あなたはいまわたしが死んだのは手違いによるものだと言いましたよね。その手違いがどういうものかは知りませんが、それによってわたしが死亡という決して看過できない大きな被害を受けたということは、その手違いは重過失に値するのではないでしょうか？

　あなたが神で、わたしが人間であるということはそこに権力的、能力的な勾配があると予想されます。事業者と消費者等の権力的、能力的に勾配がある場合において、消費者側の権利を侵害するのは不当です。また、特約があったとしても、事業者と消費者である場合、相手方の権利を不当に侵害する特約は無効となるのは、消費者契約法、宅建業法、借地借家法等で規定されております。

　あなたの言う転生先がどこかは不明ですが、わたしが生きていた現代社会よりも低い文明レベルであった場合、わたしの権利が不当に侵害されていると言わざるをえないのではないでしょうか？　さらにいえば、手違いで死亡したとなると、こちらの権利を著しく侵害されているというよりなく、権利を侵害したあなたが賠償方法を限定するのも、こちらの権利を不当に侵害していると言えます。

　というわけで、あなたの言う異世界転生はわたしの権利を不当に侵害しているというよりなく、その要求を呑むことはできません。また、係争中にこちらに対し強制退去等を行うのも違法です。弁護士を呼んでください。対戦よろしくお願いします。

　はじめに宣言しておきますが、こちらは和解に応じるつもりはありません。徹底的に戦わせていただきます。以上」

「…………」

　これをきっかけにして不当な異世界転生を強制させられたとする集団訴訟が発生し、その中で不法行為の隠蔽のために異世界転生を行っていたという事実も発覚し、手違いの死亡による異世界転生は死亡者の権利を不当に侵害するものであるという判例が出るのは、人間にとって少し先に未来である。