キリンコミュニケーション

 キリンの最高地点は今や大気圏をちょっと出たあたりのところにあるらしい。

「ネッキング」って言うんだ。動画とかで見たことあるでしょう。二匹のキリンが首と首をボコボコにぶつけ合うやつ。

 あれ、ずっとキリンどうしの喧嘩だと思われてたんだけど違った、ってわけ。


 あの喧嘩のことがもっと知りたくて研究者になったんだ。キリンのコミュニケーションの研究。だから今のキリンは僕にとってはもう知ったこっちゃないんだよ。「あるらしい」ってのはそういうこと。

 そもそもあの日以来、僕にはあれがキリンには思えなくなっていた、ってことなのかもしれないね。

 あの日? あの日といったらあの日しかないよ。

 ある日突然、ネッキングをしていた二匹のキリンは絡まった。絡まって絡まって絡まり続けてそのままグルグル上に伸びだした。

 DNAの二重せんってわかるかい? ちょうどあんな感じにね。

 伸び始めたキリンの二重螺旋は今度は他のキリン螺旋と絡まって、螺旋の螺旋を形成し始めた。キリンの三つ編みさ。

 そうやってアフリカ各地から集まったキリンの螺旋が紡がれあって、気色悪いトーナメント表みたいなのができていって、り集まったキリンの頭が今では地表から500kmの高さに達している、と、そういうわけだ。

 宇宙から見るとまるで巨大な樹がアフリカ大陸に根を張ってるように見えるって話だよ。おぞましいね。


 そんなに高くなったらキリン自身が根を張ってでもいない限り、その構造を維持していられずに倒れちゃうんじゃないか、と。そう思うでしょ。

 僕も最初の頃は少しは頑張ってたんだ。研究者の矜持きょうじってやつかもしれないが。だからそのへんは結構調べてみた。

 調べてみたら、あれはキリンだった。肉も骨も内蔵も。根を張っているということもない。キリンの脚で普通のキリンがそうするように大地に立っていた。

 あれはキリンそのものの肉体をもったまま、地球から飛び出そうとしているんだ。

 

 目的? 知らんよ。別になんでもいいじゃないか。昔々あるところにキリンという生物がいました。キリンは他のキリンと首を絡めて伸び始めました。たくさんのキリンが絡まって樹みたいになりました。それだけの話さ。それ以上でもそれ以下でもない。ただ事実としてそれがあるだけ。

 納得できないって顔だね。ものごとになんでも理由があると思ったら大間違いだよ。とくに生物に関してはなおさらだ。

 わかったわかった。何事にも理由がないと納得できない。そんな理由中毒者にいいことを教えてあげよう。

 最新の研究だと、キリンの体から微弱な電波が検出されるようになったらしい。

 どういう電波なのかはわからない。でもこういうことを言う研究者もいる。

 あれは地球外とコミュニケーションを取ろうとしているのではないか、ってね。

 ハッハッハ。抱腹絶倒だろう。

 僕が研究したかったのはキリンどうしのコミュニケーションだ。それがいつのまにかキリンによる星間コミュニケーションになっていただなんて、笑い話にもならない。

 もう知らんよ。なんだあの物体は。知らん知らん。解散解散。

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