ランダムタイトルショートストーリーズ
鯵坂もっちょ
関西弁で話しかけてくるオルゴール
「なんでやって! 何も悪いことせーへんって!」
オルゴールが関西弁で話しかけてきたから、私は一旦なかったことにした。
「そんなん悲しいやん。なあ。こんなぐるぐる巻きにして」
だからとりあえず紙で包んで一番下の引き出しに入れておいた。
「いつも話しかけてたやんか。大事な大事なオルゴールなんやろ?」
お兄ちゃんが大学に入って家を出てしまったから。
だから最後の家族旅行の思い出だった。オーストラリアで買ったオルゴール。箱に小さいペンギンがくっついていて、音に合わせてペンギンがくるくるかわいく動く仕組みになっている。
「出してくれや〜。悲しいやんか〜こんなしょ〜もないとこに俺も長いこといたないって。なあ! 回してみてや! メッチャええ音するねんで。知ってるか。知ってるわな。マナちゃんのお気に入りやもんな。自分で回そかな。できるんかなそんな事? よ! ほ! アカンわ。でけへんみたい。なぁ〜マナちゃん回してくれや〜」
私の名前を知ってて、その上馴れ馴れしく呼んでくるのも嫌だけど、それ以上に。
「なんで関西弁なのよ!!!!!」
なんで。なんで。せっかくなら英語で喋ってよ! オーストラリアの大事な思い出が関西弁の馴れ馴れしいおっさんに塗りつぶされた!
オルゴールは引き出しの奥から鉄琴みたいによく通る声で答えた。
「なんでって、しゃあないやんか。俺出身大阪やもん。東大阪やで」
オーストラリアの思い出にそんなローカルな地名重ねてきてほしくなかった。いや、そんなことより。
「大阪出身ってどういうこと!? メイドインオーストラリアって書いてあるじゃん!」
「ああ、ちがうちがう。だって俺オルゴールじゃないもん。背後霊やで。キミの」
「何言ってるの?」
「乗り移ったんやんか〜。いやな、俺キミと話したいな〜とずっと思ててん。どうしたらええかな〜思て。そしたらホラ。ちょうどええのあるわ〜てなって。キミが大事にしてるモノに乗り移ったら俺も大事にしてもらえるんちゃうかな〜思て」
そんな、そんな勝手な……。
そのときだった。
「ほんとだ! なんだ! できるんじゃん!」
オルゴールの隣に置いてあったスノードームが喋りだした。
混乱と恐怖で言葉を失う私に、オルゴールは話しかけてきた。
「あ〜これはアレやな。俺がそういうことできる、っていうのを示してしまったから、キミに認識されたかった他の霊たちもキミの周りのもんに乗り移りだしたんやろな。俺がまさに『一匹目のペンギン』ちゅうわけや」
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