恩着せがましいホラー映画

 夜になって、風が強くなってきた。障子戸が立てる音が家中に響いている。

「お前さん、あの祠に行ったんか」

 大広間に案内された私達取材班の前には、白髪の老人がいた。もう千年も生きているかのようにも見えるが、実際には八〇〜九〇歳くらいだろう。

 ここまで案内してくれた家主の男は老人の後ろで恐縮そうにしている。

 私は答えて言う。

「はい。行きましたし、撮影もしました。しかし、それはこの村の歴史を記録するためです。必要なことなのです」

 嘘だった。毒にも薬にもならぬホラー映像をまとめて売るのが、私達の仕事なのだ。

 私が言い終わる前に、老人は勃然と怒りを顕にした。

「ならぬ! あの祠に行ってはならぬ! お前ら、生きて帰れると思うなよ」

「……何故ですか」

 その質問には答えず、老人は言った。

「ここまで教えたのだから、見返りがなくては教えることはできんなあ」

「見返り……ですか」

「フン、常識知らずめが。恩には報いるのが人として当然だろう」

「わかりました、では……」

 村の取材費にさらに上乗せすることを告げると。老人の態度は軟化した。

「あそこには呪いが封印されておる。ここ百年間、誰もあの祠には近づいておらんのだ」

「私達が近づいたことで、その封印が解けたということですか」

 老人が物欲しそうな眼をしてこちらを見る。同行者の廣田が私に耳打ちして言う。

「もしかしてこれって……」

「ああ。さらに賄賂を求めているらしい」

 結局その後三回の賄賂を加えて、老人の話は終わった。

 部屋を出て、老人の耳に入らない距離まで来たところで家主の男が言う。

「すみません、気難しい人ですので……不快に思われたなら……」

「いえいえ、そんなことはありません。むしろそんな大事な祠に近づいてしまい、こちらこそ申し訳ありませんでした」

 家を辞するタイミングになって、家主が言った。

「おや……。そのままお帰りになるのですか……? せっかくここまで案内したというのに……」


 私達は村をあとにした。廣田が言う。

「ずいぶん、こう、なんというか、変な村でしたね」

「ああそうだな。しかし、私達が撮影することであの祠のことが世間に広まれば、呪いとやらに対処する方法も見えてくるだろうに……まったく、恩知らずな村だ」

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