第6話 一緒に
家族でとる、とっても美味しい夕食の後。
私は大好きなお風呂に浸かりながら、ここ最近のことを思い返していた。
前世の記憶を思い出し、お兄様が物語のラスボスで私がそんなお兄様が闇堕ちする原因となるヒロインだとわかって。だから、大事なお兄様が道を踏み外さないように、王子様と恋に落ちないようにするって決めた。
それから、お兄様にも婚約者がいるといいと思って、婚約者候補を探したものの、結果は惨敗。
家に帰ると、なぜだか機嫌がいいお兄様と、お兄様と話してから複雑そうなお父様と一緒にごはんを食べて今に至る。
「うーん」
頭の中が大分整理されたけれど……。
やっぱり、婚約者の件は、お父様に相談するのもいいかもしれない。
でも、不審に思われるかなぁ。
いきなり、義兄の婚約者を探してくれといってくる娘なんて、どうした!?ってなるよね。
「どうしよう」
何が最適かわからないけれど。そろそろ体も温まってきたし、お風呂からあがろう。このままではのぼせてしまう。
そう思って、湯船から上がり、タオルで水分をとった後、自室で髪を乾かそう――。
「……え?」
自室に戻った私は目を疑った。
「ほら、セレス、風邪をひいちゃうよ?」
バスタオルを広げて、私の前に立っているのは、紛れもなくキルシュお兄様、その人である。
……って、いやいやいやいや。
なんでお兄様が、私の部屋に?
「お兄様?」
「侍女のアズが代わってくれてね」
つまり、アズの代わりに、私の髪を乾かしてくれると??? もしかしなくても、このタオルはそのためのタオルですか??
「ほら、椅子に座って」
お兄様は、ぴかぴかの笑顔でそういうと、私を椅子に座らせた。優しくとんとんと叩きながら、私の髪の毛から水分をとっていく。
私の長い赤い髪は、乾かすのに時間がかかる。
それでもお兄様はご機嫌で――それこそ、鼻歌でも歌いそうなほど――髪を乾かしていく。
「……ありがとうございます」
大切な人に、頭や髪を触られるのは心地いい。うっとりと目を閉じて、その多幸感を味わう。
「ううん、僕がしてみたかったんだ。セレスティアの髪に興味があってね」
「そうなんですね」
なるほど、髪に興味が。
お兄様ってば、髪伸ばしても似合いそうだけれど……というかラスボスになった時は髪が長いけど、少なくとも今は短い。だから、興味があったのだろう。
「それにしても、お兄様」
「ん? どうしたの、セレス」
鏡越しにお兄様を見る。その顔はやっぱり機嫌が良さそう。
「お兄様は、今日はご機嫌ですね?」
別にいつもは機嫌が悪いとかじゃないけど。
帰った後あたりからずっと、上機嫌だ。
「……わかる? さすがだね」
「……ええ、まぁ」
私じゃなくても、みんなが思うことだと思うけど。
「うん、いいことがあったんだ」
「! それはよかったです」
いいこと。なんだろう。
お兄様は、パーティーで当たり障りない関係を築いたって、馬車の中で言ってたから、パーティーではなさそう。
となると、出る前?
でも、機嫌がいいのはお兄様が帰ってきて、お父様と話した後だもんね。
お父様から褒められたのかな。
それは、確かに嬉しいかも。
「セレスは、考えている顔もかわいいね」
お兄様が甘く微笑んだ。
そういえば、今日のお兄様はシスコンメーターも振り切れていた!
「……お兄様はどんな顔もかっこいいです」
私のブラコンメーターは元々振り切れているとはいえ、さすがに照れくさい。そう思いながら、ちらりと鏡を見ると――。
「!」
真っ赤だった。お兄様の顔がこんなに赤くなるなんて珍しい! 今回は間違いなく、照れ……だよね?
ちょっと、ブラコンすぎたかな?
「……ふぅん。僕って、セレスにとってかっこいいんだ」
「え? はい。それはもう」
そういえば、かっこいいー! とかきれい! とかもあんまりお兄様に伝えてこなかった気がする。
「ふぅん」
お兄様は、興味なさそうに返事したものの、顔が満更でもなさそうだ。
……ほっとしつつ、髪を乾かし終わったので、櫛で髪を解かす。
お兄様の手でつるつるさらさらになっていく様は、見ていて圧巻だった。
「ほら、終わったよ。よくじっとできたね」
私は五歳児じゃなくて、十歳児なので、さすがに……。
そう抗議しようとしたとき。
お兄様がぱちりと指を鳴らし、ひまわりの花が私の手の中に落ちてきた。
「わぁ! きれい!」
お兄様ったら相変わらず魔法がお上手ですこと。
……ん?
魔法をまだ習っていない私はともかく。
お兄様は魔法をある程度使える。それにラスボスなだけあって、魔力量や使える魔法の種類も多様だ。
何が言いたいかというと。
「お兄様の魔法で髪を乾かせば、すぐだったのでは?」
そうそう。
お兄様の魔法でささっと髪を乾かせば、それでおーけーだったんじゃないの?
「それは、いやだよ。そんな真似は絶対にしないけどセレスの綺麗な髪になにかあったら……」
なるほど。私もお兄様の髪に何かあったらいやだもんね。
「お兄様、ありがとうございました。すっかり乾きました! お花もありがとうございます」
さっきもらった花と一緒に、水を張った小皿に浮かべる。
うん、とっても風情があるね!
「ううん、こちらこそありがとう。セレスを堪能できたよ。おやすみ、セレス」
「はい、おやすみなさい、お兄様」
シスコンを拗らせすぎな発言をスルーしつつ、お兄様を見送った。
「……あ」
「?」
お兄様が途中で振り向く。
「ねぇ、セレス」
「はい」
「今夜は雨が降りそうなんだ。だから……」
お兄様は完璧だけど、雷が苦手なのよね。
……それは、ご両親が亡くなった日に、雷が降っていたからなんだけれど。
「一緒に寝ましょう!」
転生妹(ヒロイン)はラスボスお兄様のものなので、王子様はお断りしております! 夕立悠理 @yurie
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。転生妹(ヒロイン)はラスボスお兄様のものなので、王子様はお断りしております!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます