第5話 ご機嫌なお兄様

「……うーん」

 お父様とお兄様が書斎にこもって、かれこれ40分は経った。

 さすがにそろそろノックしてもいい頃合いじゃない?

 いや、でも大事な話っぽいし、出てくるまで待つべきよね。

 ……でも。

 ぐーぎゅるぎゅる。

 おなかの虫が鳴った。そろそろ私もお腹がすいてきたのだ。やっぱりご飯は、三人そろって食べたいし。

「うーん、どうすべきか」

「なにが、うーん、なの?」

「わぁ!」

 急にぽん、と肩をたたかれ、飛び上がる。

振り向くと、お兄様がにこにこした顔で後ろに立っていた。

「キルシュお兄様!」

「うん、そうだよ、セレス」


 お兄様は楽しそうにくすくす笑うと、私を抱き上げて、くるくる回った。

「お兄様!?」

 どうしたんだろう。

 普段こんなことしないのに。

 めちゃくちゃ機嫌がいいことだけは伝わるけど。……って。

「目が、めがぁー!!」

 お兄様回転しすぎだよ! お腹がすいてるところに、ぐるぐる回って、気持ち悪くなってきた。


「……ごめん、セレス。嬉しくて、つい」

 お兄様は回転を止めておろしてくれたけれど、悪びれるどころかにこにこしている。本当に楽しそうだ。

「おにーさま?」

 いったいどうしたのかな。

「セレスティア、キルシュ」

 お父様に名前を呼ばれた。そういえば、二人とも話があるって入っていたんだから、話が終わればお父様もでてくるよね。

 お兄様は、にこにこしたまま姿勢を正した。

「お父様?」

「いいか、セレスティア。自分の心を一番に大事にするんだぞ」

???

どういうこと? 私は、割と好き放題している自覚はある。

 これ以上好き放題してもいいってこと?

「それから、キルシュ。さっき言ったように、くれぐれも、手順を踏むことと、ひとつひとつ確認するように」

「はい!」


 ……?

 なぞだ。なぞすぎる。お話をしたお兄様とお父様は、通じ合ってるけど、私に至っては、なんの説明もない。

 心を大事になんて言われても、なんのことか、わかりっこないよ!


 そう主張しようとしたけれど……。


 ぐーぎゅるぎゅるぐぐーぎゅっるっるー。

「!!」

 しまった! おなかの虫が!! って、さっきよりも大きいし、長い!

 恥ずかしすぎるけど、仕方ない。待たせた、お兄様たちが悪いんだからね!!

「セレスは、本当にかわいいね」

「!?」

 お兄様は、あっまーく、そう微笑むと、私の頭をよしよしと撫でた。


「おおおおおお、おにいさま……?」

 今日のお兄様、ぜったい、絶対おかしいよ。何か変なものでも食べた?


「うん、かわいいセレス。今日は、お兄様のお膝の上で食べる?」

「キルシュ!!」

「はは、いやだなぁ。お父様ったら、冗談ですよ、冗談。ね、セレス」

 いやいやいや、お兄様。そのわりには、目がマジでしたよー。

 なぁんて、言えなかったので、うふふ、と笑ってごまかした。


 何はともあれ、ようやく家族そろって、ご飯だー!!

 いっぱい食べるぞー!!!!

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