狂笑
瞼の裏に広がる真っ暗な世界、遠くで聞こえる金属どうしがぶつかりあう音。今も誰かが戦っているのだろうか。
ようやく目を開けたリアが見たのは、ランスと独特な仮面を付けた小柄な男が殺し合う姿だった。
返り血が付いた怪しい笑みの仮面からは、リアでさえ身震いするほど狂気が滲み出ている。
目覚めたリアに気づいたランスは、戦いながらリアに
「リア!急いでここから離れろ!こいつはさっきの奴らとは違うぞ!」
その時リアはある疑問が浮かんだ...
何故敵が魔法を撃ってきているにも関わらず、ランスは魔法を使わないのか?ランスの魔法の威力は千人の人間の軍を一瞬で凍りつかせる程である。
「ランスの魔法使えば一瞬でしょ!どうして使わないの?」
「村の人々を逃した後に作った氷の壁と、ここへ来る道中の戦闘で魔力を使い果たした。これ以上使えば俺の命の保証はない。剣だけで終わらせるさ」
「無理だよ!一旦逃げよう!魔法がまた使えるようになるまで!」
リアは必死に説得する
「それじゃダメなんだッッ!ここで下がれば、被害は村だけじゃ収まらない...」
ランスの息が乱れ始めた。このままではまずい...
「分かった...」
リアは俯いたまま言う
「よし、ここは俺に任せてく...」
その時リアは二人の方へ走り出し、仮面の男の顔面を勢いよく殴った。
「リア、お前...」
口が開いたままのランスをリアは輝く真紅の瞳で見て
「約束、破らせないからね」
ランスは呆れたような顔をしたあと
「まったく、お前には敵わねえな」
と言い微笑んだ。
起き上がった男の仮面は割れて、ようやく素顔が見えた時、2人は驚き言葉も出なかった。
なんとまだ子供ではないか。
「いってえなぁ、途中参加は受け付けてねえぞ炎の女!」
「お前らの目的はなんだ。金か?」
ランスが少年に問う。
少年は怪しい笑みを浮かべながら
「まあ、どうせお前らは死ぬから特別に教えてやろう。俺らは教団ザルア。そして俺は『狂笑のグローク』この教団の幹部だ。部下が世話になったらしいな。たかが駆け出しのガキ1人に...」
ランスは再度問う
「俺は目的を聞いている」
「この世界には元々魔法なんかあってはいけないんだよ低脳の猿どもめ。魔法なんかが存在する限り争いは続き、人類は永遠に進化することはない。つまり、俺らは救済なんだよ。この世の全ての魔力を手にして、力によって世界を進化させるッ!それが教祖様の望みだ」
「それでは魔法なんかあってはいけないというお前らの考えと行動は矛盾しているぞ」
グロークは少しイラついた様子で
「魔法は元々神のものだ!教祖様が神に代わって魔力を手にし、我らに救いを与えてくださるのだ!猿どもには分からん話だろう!!」
ランスは心底呆れている様子だ
「まあ見てろグローク。今からその猿2匹がお前らを止めてみせるさ」
「ギャハハ!あまり思い上がるなよ猿どもがッッ!
スケアリーシャドウズ!」
黒い影が地面を覆い、リア達の足場を奪う。
「こんな魔法みたことない!一か八かッ、フレイムバースト!!」
咄嗟にフレイムバーストを使い、地面を覆う影を焼き尽くす。
「猿にしてはよくできるじゃないか。ならこれはどうだ!ブラックホール!!」
突如現れた闇に瓦礫や屍が吸い込まれていく
「アイスウォール!」
ランスが叫ぶと巨大な氷の壁が現れ、ブラックホールの引力を遮断した。
ブラックホールが消えた頃には、先程までいたはずのグロークが消えていた。吸い込まれた...なんてことはないだろう。
「リア!後ろだッッ!」
急に背後から凄まじい殺気を感じる。逃げきれないッッ
ドスッ!!
鈍い音がした。まだ死んでない。痛みもない。
リアが振り向いた時、己の目を疑った。
「ラ...ンス?なんで?」
ランスの腹部にナイフが深く突き刺さっている。
絶望したリアはその場に座り込んだ。全身の力が抜けていく。目の前に敵がいるのに...
「ギャハハ!バッカじゃねえのぉ?ガキを庇う為にどうしてそこまでする??え?立ったまま死んでやがるぜめっちゃウケるんだけどぉぉぉおギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
ランスの反応は....ない
「おい、炎の女ぁ。テメェの兄貴が死んだぜ?悲しいなぁ?辛いなぁ?...なんだてめえ泣かねえのかよ、つまんねえな!!」
顔を蹴られ遠くへ転がる。
リアの真紅の瞳に、もう輝きはなかった。
「はぁぁ、もういいよ。泣き顔すら見れねえならお前に用はねえ。あばよ」
グロークのナイフが振り下ろされる。
(ああ、私死ぬんだ。誰も守れないまま。夢を叶えられないまま)
ピタッ リアの喉スレスレでナイフが止まる
「てめえ、まだ生きて...」
「殺してくれるなよ。俺の...大事な"妹"をよぉぉ!」
「ランス!」
リアの瞳に再び輝きが戻る
「おいゴルァ!離せ!何する気だ死に損ないが!」
「これで頭を冷やせよクソ野郎!フリーズ!」
ランスは両手でしっかりグロークを拘束し、氷結の呪文を唱えた。自分ごと凍らせる気なのである。
それを知ったリアの目から涙が流れる
「一緒に...旅をするって言ったじゃない...ランス!」
ランスは優しく微笑みながら
「リア、お前は自分の目的を果たせ。お前の妹、ルインを見つけろ。」
リアは涙を拭いぐっと堪えて笑ってみせた
「ランス!全て終わったら、いつかその氷を溶かして
嫌になる程武勇伝を聞かせてあげる!それまで待ってて!」
ランスは安心したように目を閉じ、そしてついに完全に氷に包まれた。
そしてリアは振り向くことなく村へと戻った...
村の人々は少しずつ村に戻ってきていた。
そこで皆にランスの事を話したところ、フリーズは封印魔法なので自然に氷が溶けることはないらしく、村長の家で厳重に保管してくれるらしい。
少なくとも、ランスが死んでいない事にリアは安堵した。
その後すぐに旅の支度をし、家族に別れを告げ村の門を出た。
しばらく歩いて立ち止まり、周囲に人がいない事を確認してからリアは大声で叫んだ。
「待ってろザルア!完全無欠のリア様がいつか必ずお前らをぶっ潰す!」
彼女は最初の一歩を踏み出し、今この時より旅は始まった。
竜紋の少女と伝説の四大竜 綾 @RangvellAya2
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