竜紋の少女と伝説の四大竜
綾
急襲
この世界で「魔法」とは、人間の感情が具現化し美しく、それとともに恐るべき力となった物の事を指す。
それは時に人々に繁栄をもたらし、時に世界をも滅ぼす厄災ともなりうる。
これは体に竜紋をもつひとりの少女が、魔法消滅の危機を防ぐため仲間と共に壮大な冒険を繰り広げる物語である。
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ここ竜紋村は、先祖が竜であったことから全ての人が体に竜の紋章をもって産まれてくるのが特徴の村である。紋章によって能力は異なり、炎、水、風などその他多くの能力がある。
そして今日は「成竜祭」優秀な成績を修め17歳となった者を旅へ送り出すこの村ならではの伝統行事である。
「リア!早く起きな!成竜祭に遅れるよ!」
母親の声が家中に響き渡る。しばらくして勢いよく階段を駆け降りてきたのは炎のように赤い髪をした少女であった。
彼女の名は『リア・フォーレ』学力こそ低いものの、その類稀なる剣術の才能と、彼女の能力「炎」は制御が難しいことで知られるが、完璧なまでにその能力を使いこなす彼女はギリギリのラインで旅に出ることが許されたのである。
パンを口に咥え、お気に入りの銀色のミサンガで髪を結ぶ。これは5年前に突如失踪した妹がリアのために作ったものである。
妹が失踪したあの日、あの子と一緒にいた子供達が不自然な死を遂げ、村では一時大事件となった。
リアの妹は稀にみる紋章をもたない体で、故に魔力は低く特殊な能力を何も持たない子だった。
故に村ではその子達がリアの妹を虐めていて、妹が復讐として殺したのではないかという噂も立ち、リアにとってそんな噂は不快でしかなかった。
妹の性格は彼女が誰よりも理解しているからだ。だからこそ妹の無実を証明したい。
そう、リアが旅に出る1番の目的はそれなのである。
「待っててね、お姉ちゃんが迎えに行くから」
リアは鏡の前でそう言うと、足早に家を後にした。
成竜祭、村の人達が1年で唯一集まる日、そこでは各々がお互いの現状を報告しあい、熱く武勇伝を語り、食べたり飲んだりとにかく賑やかな祭りである。
祭りも日暮れまで続きついにメインイベント。旅に出る者の名が呼ばれ、全員に槍、弓、剣などそれぞれのスタイルに合った記念の装備が贈呈される。
「おいリア!お前何回寝坊すりゃ気が済まんだよっ!」
「まあリアたん♡間に合ってよかったわ」
「リア!テメェが来ねえで退屈してたんだぞ」
リアの同級生が近寄ってくる。見たところ大分酔っているらしい。17歳で成人...いや、成竜なのは事実だがこの気の緩み様にはリアも少し呆れてしまうほどである。まあ、寝坊した身が言えたことではないが。
「あなた達あんまり飲まないように気をつけなよ〜」
といいつつも内心酒に興味があるのがリアである...
旅立ちの儀式が始まった。
リアが自分の番を待っている間深い青の髪の、背中に刀を背負った青年がリアの肩を軽く叩いた。
彼の名は『ランス・ロックフッド(二つ名 氷剣)』リアが幼い頃の世話役だったが、彼女にとっては兄のような存在である。
「帰ってきてたんだランス!また旅の話聞かせてよ!」
「これからは話だけじゃなく、実際に旅に連れてってやるよ」
「どーせまたお得意の嘘でしょ〜」
「こんなめでたい日に嘘なんかついたら俺は死刑だな!」
ランスは笑いながらそう言った。
「旅のこと、約束だからね」
リアはこれまでの人生で1番目を輝かせていた。
「ほら、お前の番みたいだぞ」
ランスはリアの背中を後ろからポンと押して笑顔で見送った。
ついにリアの旅立ちの儀式。ここでリアの武器が選ばれ、一人前の冒険者として認められる。
村長は祝いの言葉の後、布に包まれた武器を取り出した。その武器は「カットラス」であった。
美しい輝きと鋼のような硬さを誇るミスリル、今となっては希少素材となった魔法の威力を増大させる力をもつ竜の鱗。それらを錬金して作られた刃に切れないものはこの世に数える程しかないだろう。
それから村の象徴ともいえる樹齢五万年の大樹を素材にしたグリップ。軽く丈夫だが、その1番の特徴は持ち主の手に合うように形が変化する事である。
そして武器を受け取った瞬間のことである...
村のはずれで大規模な爆発が起こった!
村全体がパニックに陥っている中、
リアは村人に逃げるよう呼びかけ、そこへランスが駆け寄ってきた。
「俺は村の人々を安全な場所まで誘導した後ここへまた戻ってくる。それまで死ぬなよ」
「ランスも無理しないで、一緒に旅をする約束でしょ」
言葉を交わした後、すぐに2人は別々の方向へ走り出した。
しばらく走って爆発があった場所へ辿り着いたリアの前に、黒いローブを身に纏った謎の集団が現れた。
「あなた達は誰?目的は何なの?」というリアの質問に対しそれらは
「全ては世界をあるべき姿へ戻すため」とボソボソと繰り返し発している。
「話し合いでなんとかなる奴らじゃなさそうね」
そういうとリアは鞘からカットラスを抜き、彼らも同様に鎌を構えた。
襲い掛かってくる1人が鎌を振りかぶるタイミングと同時に懐へ入り込み腹部を斬り裂く。
飛び散った血飛沫はリアの頬にも着くが、それを気にすることもなく2人目に斬りかかった。
振り下ろされた鎌を回避しようとするが、刃が腕をかすめた。
「ッッ!」
すぐに体勢を立て直し敵の喉を斬り裂く
背後から迫る2人の足音をすぐに察知したリアは、振り向くと同時に口から炎を吐き、瞬く間に2人は火だるまへと変わる。
まだ敵の数は多い、圧倒的不利である。しかしリアは覚悟を決めた。
「あなた達の相手は私1人で充分よ、さあ...来いッッ!」
戦い始めてどれほど敵を斬っただろうか、もう数えることはできない。後ろには大量の屍の山が築かれている。両手がドス黒い血で染まっていて、体の切り傷や刺し傷からも赤黒い血が流れる。限界に近い体、減ることのない敵。絶望である。
そしてついにリアはその場に倒れてしまった。遠くから鎌を持ってトドメを刺そうと自分の方へ走ってくる姿が見える。
立ちあがりたいのに足の感覚がもうない。戦いたいのに剣も痛みで握れない。
「私...が....ここで....食い止め.......なきゃ」
妹の顔が脳裏をよぎる
(...ちゃん.....お姉ちゃん....私は......ここにいるよ....必ず.....助けに来て...)
「大丈夫、私が必ず迎えに行くから」
(目を閉じ、乱れた呼吸を整え、想像する。自分を待ってる皆を!炎に包まれる敵を!まだ死んじゃいけないッッ!!)
その時彼女の鼓動がより強くなった。全身に血が巡り力が行き渡る。
立ち上がったリアの紅の髪は炎のようにより赤くメラメラと揺れている。もう痛みは感じない。もう恐れなどない。あるのは怒りだけ。
「待たせたわね、今度こそあなた達全員消し炭にしてあげる」
リアは深く息を吸い、そして...
「フレイムバースト!焼き尽くせ!」
彼女の叫びに呼応するように大地は割れ、割れ目からは炎が噴き出す。敵は炎に包まれ炎が消える頃には、灰しか残っていなかった。
全ての敵を一掃したリアは、魂が抜けたように倒れそのまま意識を失った。
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