第35話 完 薬草話が好きなCランク中年冒険者

 マルクは宿の一室で目が覚めた。隣を見ると長身の女性がマルクの側に座っていた。



「小娘の旦那よ目が覚めたようだな」

「ここは……」

「小娘の友人が借りてる宿らしいな、小娘の旦那よお前が倒れて5日目だ」



 怒っているのか笑っているのか表情の読めない顔でマルクを見ては話しかけてきた。



「遠い所すまない。手紙は届いたようだな」

「一応な」



 エルドラはマルクが出した手紙をマルク自身につきつける。

 そこには『ラーミの過去に関連した男に挑む事となる。もしもの場合はラーミを頼む』と書かれていた。



「ラーミは?」

「小娘なら――」

「ここにいますけど!」



 反対側から声してマルクは振り向くと、目がつり上がり怒っているラーミの顔が見えた。



「ふう……良かった生きてるな」

「くああ! 何が良かったんですかね? マルクさんは勝手に暴走し死にかけますし、サンフラは物理的に消えましたし、エルドラおばさんにはなぜか叱られますし」



 マルク反対側を見るとエルドラが、とうぜんだろう。と、いう顔をしている。



「そう怒るな小娘、この旦那はワシが見張っているとする。冒険者ギルドにいるラックという男が戻っているはずだ、そいつから紙を貰ってこい。今お前達が必要な奴だ。帰りに酒を買ってくることを許可する」

「私は別にお駄賃で動くような女では無いんですけどー! …………で何本まで買ってもいいんですか、もちろん出してくれるんですよね?」



 エルドラが100本までなら許そう。と、いうとラーミに袋を渡した。中には大金貨が詰まっている。


 ラーミが席を外すと、エルドラが無言になる。暫くお互いに無言でいるとエルドラのほうから話しかけてきた。



「小娘の旦那よ」

「なんだろうか……」

「この反魔石はんませきはワシが貰っていく」



 エルドラは一回り大きくなった赤い石。魔石をマルクに見せると、その魔石を飲み込んだ。

 サンフラの様になるのかと思って目を見開いたマルクであるが、エルドラの体には何も置きた様子はない。



「友が作った呪いの魔石だ、ある男の魔力に反応する術式を組み込んで吸いつくす。そのように作り込まれた魔石でワシには栄養素でしかない。それと小娘の旦那よ、お前が生きている事に不思議に思っているのだろう? 小娘に感謝するのだな」

「ああ、ラーミには危ない所を助けてもらった……」



 エルドラはマルクの考えを鼻で笑った。

 その表情にマルクは違和感を覚え直ぐに体のあちこちを確認する。

 折れていたはずの骨に痛みはない、傷だらけの手足や裂けたはずの肩も治っているからだ。



「違うな、人工魔族の事を調べたのだろ? アレの成功例はあの小娘だ。一度死んだ小娘に友の願いでワシの血肉を与え、人でありながら人を超えた。その小娘と交わったのだろ? 小娘の旦那、お前からも人と違う匂いが少ししている。驚異の回復力だな、用事は済んだ帰るとしよう」



 マルクがエルドラの言葉の意味を考えるとエルドラは椅子から立ち上がり扉から出ていこうとする。



「エルドラ! そ、そのすまない」



 エルドラは答える事は無く黙って手を上げて部屋を出ていった。

 静けさが残った部屋から窓の外を見る。中庭にいたトーマがエルドラと何かを話し、エルドラがトーマに胸を触らせているのが見えた。


 珍しくトーマの周りにいつものメンバーはいなくトーマは両手でエルドラの胸を揉んでいる。



「何をしているんだ……いやそれよりも、俺はラーミと繋がった事は無い」



 マルクはラーミの顔を思い出す。

 寝ている時に襲われたか? とも思ったがそんな事は神に誓ってないはずだ。

 いくらマルクでも襲われれば気が付くはず。と思っている。

 『マルクさんキスしましょ。ぶちゅーっと』



「いやまて……」



 マルクは思い出す。

 ラーミがキスをせがむ様になったのはマルクが強くなりたい。と思ってからだったようなきがすると。

 部屋の扉が元気よく開く、ラーミが筒状の紙を持って入って来た。



「たっだいまー! っとあれ? エルドラおばさんはどこに!?」

「帰った。ラーミ……一つ聞きたい。ラーミは俺を強くするためにキスを迫っていたのか?」



 マルクの想像での話であるが、ラーミは既に人を超えた何かだ。その何かの体液を頻繁に取り込んたマルクも人よりも上の存在になってきている可能性。



「む! エルドラおばさんに何を吹き込まれたか知りませんけど。したいからしただけです、もちろんっ私の体液を交換したのですもしかしたらマルクさん強くなるかもと、でも成功率は100%じゃないですし、それで怒られるようであれば、私も怒らせてもらいます!」

「うえ」



 思わずマルクは唸った。

 ヤブヘビならぬヤブドラを突いた気がする。



「そもそも何故黙って行ったのですかね? トーマさん達に聞いたんですけど旧闘技場の隠し部屋にあった多めの火薬。あれだってどうやって集めたんですか? あれっぽっちの火薬では旧闘技場は崩れないそうでしたよ。それに2人の貯金も空に近いですし――」



 マルクのターンはたった数秒で終わった。永遠と思われるラーミの説教にマルクは今すぐに逃げ出したい気持ちになったが。全て自身が招いた事に深く反省する。


 その姿を見てラーミの説教も小さくなっていくと口を閉じた。



「とにかくもう駄目ですよ。これで相談なしに危険な事に飛び込むのは2回目です、3回したらマグナの教会でマルクさんの恥ずかしい体験を喋ります!」

「いや、待ってくれ! なぜだ」

「ええっとシスターアンお義母さんがマルクさんに一番聞く罰だ。と」



 マルクが本気で落ち込むと、扉の開いた部屋にノックの音が聞こえてきた。

 トーマ達でありラーミが先ほど放り投げた筒を開く、そこには『冒険者2名の潜入調査の終了』と書かれた紙が入っており名前の部分はマルクとラーミになっていた。


 最終的に誰の力かはわからないが、マルクとラーミの疑いは晴れ自由となる。


 ◇◇◇


 王都カーベランス南門。

 その外側に2台の馬車が止まっている、1台トーマ達5人が乗る馬車で、もう一台はマルクとラーミの乗る馬車だ。



「ではトーマそのマグナの街に戻ったら説明を頼む」

「ええ、無事に終わった。と報告させてもらいますので、それよりも少し寂しいですね。帝国ですか」



 マルクの行き先は帝国である。

 これは行きたいから行くのではなく冒険者ギルドからの正式な依頼。サンフラが出入りをしていた場所の視察、万が一があれば破壊。と特別依頼を受けている。



「なに。サンフラ宰相はになったんだ。もうそんなに危険な事はないさ」



 行方不明。

 あの現場を見た全員が死んだ事を知っているが、この数日間に広まった噂が行方不明と言う事になった。ちまたでは強い人間を求めて国を出た。と言う所に収まっている。


 一方サンフラと親しかった貴族達や関係者はゴブリンを散すように消えていく。その細かい所まではマルク達の知る由もない事だ。



「マルクさんが無茶をしなければ危険な事なんて一つも無いんですけどね! 闘技大会だって私途中で棄権して探しましたしー」



 ラーオとして参加した闘技場は客席にマルクがいないのを知ったラーミはあっさりと棄権しトーマ達とマルクを探したからだ。

 ラーミの大声が二人の会話に入ってくる。



「す、すまないな」

「まぁもういいですけどー」



 等分は言われるだろうなと確信しつつマルクは苦笑する、最後にトーマと握手をして自分の馬車に乗り込んだ。


 穏やかな整備された道をゆっくりと馬車で移動すると御者台にラーミが潜り込んでいた。



「マルクさん、ついでに海見にいきません?」

「海か」



 マルクは見たこと無いがさほど見たい物でもない、湖よりも大きな塩水の水と言うのは知識ではあるぐらいだ。



「むむ、その生返事は乗り気ではない。と……いい事を教えましょう。砂浜にしか生えない薬草があるらしいですよ」



 マルクの体がビクっと震えた。



「まぁそのなんだ少しぐらいよってもいいだろうな」





 実際は反対なようなきもするがマルクが伝説のS級冒険者を唯一手なずける伝説の中年旦那と陰で呼ばれるのはもう少し先の話である。

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中年底辺冒険者とSランク少女の妻 えん@雑記 @kazuna

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