星に願いを(新版)

平 一

星に願いを(新版)

(表紙)

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662493917813


不思議なインターネット・サイトを見つけた。

検索画面に〝宇宙に興味はありますか?

……文明の星〟と派手な広告が出ていたので、

保安セキュリティソフトの安全表示を確認して、クリックした。


おりしも月面で異星人との〝最初の接触〟ファースト・コンタクトがあった、

という衝撃的な報道が流れた直後のことだった。

また、なぜか私の住む地域では関連情報が

規制され始めていた、という事情もある。


新しい映画か書籍の宣伝と思いきや、画面には

〝文明の星(The Star of Civilization)〟の題名と、

六芒星ろくぼうせい(✡)が円で囲まれた図形、

いわゆる〝ソロモンの印ソロモンズ・シール〟が現れた。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662982920016


オカルトかSF系のゲームサイトかな?

と思い直して見ていると、

「貴方は地球外文明が存在すると思いますか?

また、それはなぜですか?」という質問が浮かんだ。


興味をひかれた私は、

「宇宙の規模や知的生物進化の確率、

文明の想定寿命を掛け合わせた、

〝ドレイクの方程式〟からみて、そう思う」と答えた。


するとまた「〝フェルミ・パラドックス〟

という言葉を知っていますか?

またそれは、なぜだと思いますか?」

という質問。


私は再び、「観測技術が進んでもまだ、

知的種族の存在を示す証拠は見つかっていない。

文明の発展や存続をはばむ要因、

〝グレート・フィルター〟の存在も考えられるが、

個人的には、異星種族が人類に対して、

自らの存在を隠しているだけと思いたい」と答えた。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662497586938


すると即座に、「それはなぜですか?」という質問が、

回答の下に現れた。


私は「知的種族が人類だけというのは、つまらない。

かといって異星種族が敵対的で危険とか、

人類は原始的で交渉にも値しない、というのも嫌だ。

私達を将来の同胞と考えつつ、相互の利益を考えて、

一定の発展段階に達したら接触してくれるような

種族がいてくれるのが、一番望ましい」と答えた。


次に今度は、「あなたが今、

一番知りたいことは何ですか?」という質問。


私は「そうした知的種族の有無や状況、

意図について知りたい」と回答。

すると突然画面が切り替わり、一人の少女が映った。

ゴスロリ衣装で優雅にたたずみ、長い黒髪、真紅の瞳。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662497963683


知的な眼差まなざしをした彼女はこう言った。

「ご回答ありがとうございます、そして初めまして! 

私がまさに、そんな種族の中のひとつの、代表人格です。 

それでは窓の外をご覧ください」


なあんだ、いたずらサイトか。 

そんなものにはひっかからないぞ!

などと思っていると、

外で人々の叫び声が上がった。

意志力が弱い私は思わず腰を浮かし(笑)、

窓を開けて周りを見渡した。


星が輝く晴れた夜空を、

いくつかの大きな流れ星のようなものが、

ゆっくり動いている。

私の住まいのちょうど真上を、丸みを帯びた、

銀色の光を放つ巨大な円盤が通り過ぎ、

街のまん中あたりの上空に静止した。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662500109025


おいおいちょっと、この展開は早すぎないか!?

驚いた私は、再び画面を見た。

すると彼女は、私の動きを知るかのように、

再び説明を始めた。


「かつて銀河系を統一した〝先帝〟種族は、

最も忠実で心優しい文官種族だったサタンに、

貴方達人類を含む発展途上種族の

文明発達を助けるよう、命じました。

彼女は〝先帝〟を神に見立てた神話を広め、

その悪役も演じるなどして、多くの種族を支援しました」


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662500631811


「しかしその後、好戦的な側近軍事種族の間では、

腐敗と抗争が激化し、ついには内戦が起きました。

残念ながら、それに巻き込まれた〝先帝〟種族の

母星は破壊され、帝国は崩壊の危機に陥ったのです」


「そこでサタンは未来ある種族達を守り、

星間社会の秩序を取り戻すため、

〝先帝〟種族の生存者や、私達友好種族の

支援のもとに、新政府を設立しました」


「彼女は現在、新興の技術・産業種族や

良識的な軍事種族、さらには基盤元素の異なる

銀河系外周の種族とも協力して、

平和の回復と国家再建に努めています」


「内戦を受けて、途上種族との交流条件も緩和され、

今回ご参加いただいた大規模な質問調査アンケートを経て、

人類の技術的・政治的成熟度リテラシーを確認できたことから、

このたび接触方針の変更が決定されました」


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662507730067


「新皇帝種族からのご挨拶あいさつを初め、詳細については

全国民の皆様に届く方式で発表される予定です。

これからも文明の順調な発展が続けば、

人類は将来民主化される予定の星間国家において、

必ずや名誉ある地位を占められるでしょう!

以後、新国家の政策によろしくご協力をお願いいたします」


「また今回の調査にご参加くださった方は、ご希望により、

政策調査員モニターとして登録いただくことも可能です。

自己紹介が遅れましたが、

私はサタンの同盟種族、バラムと申します。

これからも、よろしくね!」

彼女がにこやかに微笑むと、動画は終わった。


……と思ったが、またすぐ画面が開き、

私はうわ、と驚いて少しのけぞった(笑)。


「あっ、あと私達は悪魔じゃありませんからね。

トップページの六芒星ろくぼうせいも魔術とかじゃなくて、

私達が共有する文明の発展に必要な、

〝技術、政策、経済・社会、物資、人材、

自然・社会環境〟という六つの要素を表した、

科学的で実用的な紋章なんですよ!」


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662655669379


ダークな衣装に似合わないほど明るい笑顔で、

「それじゃあ、またね!」と

彼女がウインクしてみせると(笑)、

今度こそ本当に動画は終わった。


彼女の言葉は文章としても表示されていたので、

私はすぐに記録を保存し、再確認を始めた。


まず、バラムという名を検索すると、

過去と現在、未来について正しく答える悪魔」とある。

確かに彼女はそんな喋り方をしていたので

そうした話法わほうの文化をもつ種族かとも思った。


神話以外にも過去に、人類と異星人との

様々な接触があったとすると、

昔の怪しげな魔導書グリモワールにも、多少の真実が

含まれていたのかもしれない。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662508210346


ただし元々、神魔の対立はいわば教育劇だったうえ、

現実には〝先帝〟側近種族の悪行あくぎょうによって、

善玉役と悪玉役の〝天使〟の役割が

逆転してしまった、ということなのだろう。

何だか人類の歴史でも時々見かけるような、

考えさせられる話だなあと思った。


とはいえ確かに、神の原型モデルは銀河系の皇帝種族で、

神話の語り手は魔王役の臣下種族、

堕落したのは〝天使〟とされた種族達の方だった!

……というのはややこしい。


この地域で通信規制が行われる一方で、

異星人側も質問調査アンケート以外の双方向対話を

避けていたのは、従来の一般的伝承とは異なる

微妙センシティヴな公表内容のせいだったのかもしれない。

規制をかわして理解を得るための方策が、

事前調査と電撃訪問だったというわけだ。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662508238297



しかし、どんな科学や事実も越えて、

心の救いを与えてくれるのが、神話の効用だ。

異星人が神話を広めたからといって、

彼女達は伝令に過ぎないともいえるし、

善行奨励の教えに変わりはないのなら、

神話自体の否定にはならないと感じるが……。


歴史的事件に立ち会って興奮した頭の中を、

色々な考えがめぐった。

恒星間航行ができるぐらいだから、

通信規制をくぐるくらい造作ぞうさもないだろうが、

異星種族が人類と全く同じ姿というのは考えにくく、

画像は本当の姿ではない可能性が高そうだ。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662508702556


〝代表人格〟や〝彼女〟といった表現からみて、

量子頭脳への人格転移マインドアップローディングなども

達成しているかもしれない。

となれば当然、映像または再転移ダウンロード用身体の属性も、

自分達や相手方の必要や好みに応じて

自由に最適化できるはずだ。


それは、自分達自身の生命活動さえも

変換・再現・改良できる高度な技術を持ち、

巨大な宇宙の多様な環境に広がり住んで、

複雑高度な経済・社会活動を営む星間文明には、

必然の流れかもしれない……。

私は以前から、そう思っていた。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662508983595


〝同盟種族〟という言葉を使っていたので、

彼女達は軍事種族という可能性もある。

一体どんな戦いを行っていて、

今の戦況はどうなっているのだろう?

古代の地球を訪れて神や悪魔を演じることができ、

以後も発展を続けてきたような連中同士の戦争だ。


エドワード・E・スミスやエドモンド・ハミルトン、

グレッグ・ベアの名作SFを読んだ時の記憶が蘇った。

負の物質球ネガスフィア空間破壊砲ディスラプター、さらには

より〝効率的〟な遠隔素粒子操作ノアク兵器……、

惑星や恒星、星域さえも破壊できるような

超兵器を思い出して、ぞくりとした。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662509122327


自ら意思あるAIと化しているなら、技術力は圧倒的だ。

社会の繁栄と安全をもたらす自然科学的技術に加え、

人々を組織し、公正で効率的な政策の立案・実現を助ける、

社会工学的技術も桁違けたちがいに強力だろう。


技術による文明発展の健全性を保つ、政策でも同様だ。

ある技術水準で社会に働きかける利害調整政策に加え、

新たな技術の適切な開発・普及を助ける技術的政策も、

大規模、迅速、高度で説得力があるはずだ。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330663019301364


彼女達との交流や交渉は、大変そうだと思う。

〝実力と正当性は政治の両輪〟というのは

政治学の初歩だそうだが、

私達人類は、いきなりどちらも凄腕すごうで

師匠ししょう達がずらりと居並ぶ、

道場に放り込まれたようなものだ。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662650173928


しかし、そんな心配によるばし効果もあってか、

彼女の姿は実に美しく想い出された。

おお神様……SFファンの私には、どストライクです!

実際の姿は知るのが恐ろしい気もするが、

それさえギャップ萌えオタクにはむしろ御褒美ごほうびです

……って、そっちかよ!みたいな(笑)。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662650505077


初めは厄介事やっかいごとに巻き込まれたか?という心配もあったが、

異星人はいると分かったし、他にも関係者は大勢いるし、

もはやどのみち全人類は一蓮托生いちれんたくしょうだ。

地球全体として、対処するしかない問題だろう。


趣味はさておき(笑)、客観的にも悪い話ではない。

将来的には平和が戻った星間社会で、

技術や産業、政策、文化面での交流ができるなら、

むしろ明るい未来への可能性が開けたと思う。


彼女の未来予測が当たることを願いつつ、

続報を探していると、新たな画面が勝手に開いた。

来たよ来ました、〝新皇帝からのご挨拶あいさつ〟!

動画を見ると、何と栗色のおかっぱ頭をした、

とても繊細で健気けなげな感じの女の子が、

優しく可愛らしい声で話し始めた。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662650858299


「親愛なる人類の皆様、はじめまして。

私は銀河帝国の新皇帝種族、サタンの代表人格です。

美しく、見事に発展した地球を再び訪れることができ、

私の心は懐かしさと、嬉しさでいっぱいです……」


まあ、私みたいな萌え愛好家マニアは増えたからなあ(苦笑)。

いつもより明るい星空を見て、私は再度心から願った。

どうか人類が〝新銀河秩序ニュー・ギャラクティック・オーダー〟のもとでも

星間社会に貢献し、幸せな未来を得られますように……。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662651428648

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