5話 御守り 2


…ふぅ、このお茶美味しいですね。


えぇと…どこまでお話ししましたかね?

そうです、そうです。


住職の方から御守りを貰い、私の体質を直して頂ける人を紹介してもらったところですね。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




…住職の方が帰ってから、数分後にはお母さんと車に乗り、何時間かなぁ…当時子供だった私には酷く長く感じて、気づいたら寝てしまっていたんですよね。


だから、場所もよく覚えていないんですけど…。


凄く山奥で、お母さんが「こっち?…違うか…じゃあこっちか?」って独り言をブツブツ言いながら走り。


目的の場所に着いた時には真っ暗で…


夜の山奥って、ほんとに何も見えなくて怖いんですよ?

しかもそこからは山道を歩かないと行けないらしく…ほとんど道も整備されていない、真っ暗な山道をお母さんと手を繋ぎながら、小さい懐中電灯1つ持って歩いたんです。


周りの木々の境から何かが出てくるんじゃないか…とか色々考えて怖かったんですけど、お母さんが手を強く握ってくれている安心感で無事に歩くことが出来ました。

…今思えば、お母さんも怖かったんだろうな…


…そんなこんなで、真っ暗な山道を歩くこと数十分…


小屋がありました。


…不思議なことにその小屋を見つけた瞬間…なにか大きなものに守られているような絶対的な安心感が体の奥から湧いてきたんです。


私、パワースポットとか良く行くんですけど、あそこまで絶対的な安心感を得られる場所はまだ見つけてないんですよね。


山奥なのにそこだけ雰囲気が全然違うんです。


お母さんと私はあまりの雰囲気にボーッとしていると、小屋の方から


「来ましたか」


白い…仏教?なんだろ、修行とかしてそうな人が着てる…あ、そうです!そうです!修験者しゅげんしゃの格好!

その格好をしている男の人がこちらに近づいて来るんです。


天海てんかいから話は聞いております。ささ、こちらへお入りください。」


そう言うとその男性はくるりと翻し、小屋の方へと歩いて行きました、慌ててお母さんと私はその男の人について行き、小屋の中へと入りました。


小屋の中は日本昔ばなしに出てくるような造りで、真ん中に囲炉裏があり、入って左側に炊事場、囲炉裏の奥には畳が敷いてあり、きっと寝床なのでしょう。


「ほれ、戸を閉めて座りなさいな」


男の人は優しくそう言うと囲炉裏のそばに置いてある座布団を指さします。


男の人に促され、座布団に座り正面を向くと


天海てんかいから渡された御守りを見せてくれるかな?」


そう言われました。

一瞬「天海」さんって誰?と思ったんですが、御守りをくれた人はの人しかいません。

ここで、ようやく私は住職の人の名前を知りました。


目の前の男の人に御守りを恐る恐る渡すと、それを受け取った男の人が深くため息を吐きました。

突然ため息を吐かれたものだから、どうしたのだろうと見ていると…




「…天海は今頃死んでおるだろうな…」




一瞬何を言われたのか分かりませんでした。


私を助けてくれたあの住職が死んだ?

なぜそれが分かるのか?なぜそんなことを言うのか?なぜ、なぜ、なぜ、


当時は色んな疑問が浮かび、子供ながらに理解できないこともあったのでしょう…けど、不思議と涙が出たんです。

目から溢れた涙が頬を伝う、それを手で拭う…けど、涙は溢れるばかり。


「これを見てみぃ」


泣いている私に男の人が手にもった御守りを見せてきます。


その手の中にあった御守りは布が取られた姿なのでしょう…人の形をした何かがありました…



…いや、人の形を何かがありました。



頭であろう部分が捻れに捻じれて、取れかかっている

胴体であろう所には無数の穴が…手足の部分は異様に伸びていて…


見ているだけで気分が悪くなってくる…そんなものがそこにありました。



「…これはな、と言うんだ。」


「…よりしろ?」


「あぁ、この人形が君に寄ってくる災いを代わりに受けてくれている」


人形が災いを代わりに受けてくれる…身代わりになってくれる…私は凄い便利な御守りなんだって思ったところで…


「だがね?が代わりに災いを受ける事なんて、できないんだよ…人形は人形でしかないからね…」


じゃあどうして、その人形は…


「この人形はなんだ…」


「え?」


「もちろん本物の天海はここにはいないが、この人形には天海が宿っているんだ…」


そう言うと人形の胴体の部分を開いてこちらに見せてきた。

そこには白い石のような物が…


だ」


「え」


「天海の歯だ…人形に力を注いだ体の1部を入れることによって依代にしたんだ……君には難しい話かな…天海が君を守った…そう思ってくれれば、あいつも報われる。」


そう言って、男の人は人形を自分の傍らに置いて、こちらに向き直り姿勢を整えた。


「…挨拶がまだだったね、私は根川 寿文ねかわ としふみと言う。君達があった天海とは友人でね…」


と、根川さんが自己紹介を始めたところでお母さんが口を挟んだ。


「あ、あの!ちょっと良いですか?」


「?はいなんでしょう?」


「根川さんは住職の方では…」


「…あー、天海のような僧名そうみょうではないですから、気になりましたかね?そうです、私は住職ではないです。」


「…え、じゃあ」


「私はどちらかというと…」


根川さんは頭だけ私の方を向いて


「娘さんと同じ一般人ですね」


「な!だ、大丈夫なんですか!?」


それは私のこの体質を直せるのか?

この人で大丈夫なのか分からない不安からなのか…お母さんは声を荒げて聞きます。


「…ふむ、少しだけ昔話をしてもいいですかな?」


そう言うと根川さんは過去の出来事を話始めた。


「私もね、娘さんと同じくらい人間だったものでね…それはもう困っていました…。神社や寺、パワースポット、怪しげな道具、色んな物を試した…だが、解決出来なかった…人と違うものがというのは大変辛いのですよ…そんな時にからの造り方を教わったんです。それからは人生が変わりました!…いまだにてはいます。だけど、ヤツらはこの御守りを持っている私に関わってくることが出来なくなったんです。」


「もしかして、その御守りを…」


「ええ、娘さんの御守りをつくります」


「…あぁ、ありがとうございます!」


根川さんの話を聞いたお母さんは、先程までの疑わしい者を見る態度から一転、希望を見つけたかのように感謝の言葉を何回も何回も言っていました。


「…天海とは寺を訪問した時に出会いましてね…天海にもの造り方を教えたのですが…寺の人間だからなのか御守りの造り方に批判的でね…」


根川さんは続けて天海さんとの馴れ初めを話してくれますが、天海さんは御守り造りを批判したと言います…住職の人が批判する御守り造り…


「…どうしてですかね?」


お母さんが恐る恐る聞きます。


「…天海が娘さんに渡した御守りには天海が宿ってる…と先程言いましたね?」


「え、ええ」


「私の造る御守りというのは、ヤツら…を宿すんですよ」


「えぇ!?だ、大丈夫なんですか?」


「生身の人間を宿すと天海のように…亡くなってしまったりしますが、幽霊ならばどうでしょう?既に亡くなっているのです!いくらでも身代わりになってくれる!」


「……。」


肉体の無い幽霊を依代にした御守り、それならば天海さんのように亡くなることは無く、ずっと守られる…。


「…それは大丈夫なのでしょうか?」


お母さんが恐る恐る聞きます。


「ヤツらには肉体はありませんし…それにヤツらの方からやってくるのですから…ね?」


お母さんは少し悩む素振りを見せたあとに


「他にないんですよね?」


「私が知る限りはないですね」


「…では、娘をよろしくお願いします!」


そう言って深々と頭を下げるお母さん


「分かりました。任せてください…では」


根川さんはお母さんから私の方に向き直り


「君の御守りを造っていくんだけど…私の後ろ…わかるかな?」


そう根川さんに言われて、根川さんの後ろを見ると…



ビッシリとたくさんの人が下を向いて立っていました。



「ひっ…」


場の雰囲気にボーッとして、根川さんの話に耳を傾けていたものだから、全然気づかなかったが…そこには沢山の人が…。


「この場所はね、龍脈というのが地下にあるんだ…不思議な雰囲気を感じていたと思うんだけど、それのせいだね。そして、ヤツらはを目指して歩いていたのを私が捕まえたんだ。」


根川さんが説明してくれているが、あまりの出来事に説明が全く入ってきませんでした。


「安心してほしい、ヤツらは君を助けるためにいるんだ…ほらそこの畳に寝転がって」


根川さんに腕を引かれ、畳の上で寝るように促される。


「そう、そこでゆっくり息を吸って、吐いて…ゆっくり目を閉じて…」


根川さんに言われるがままに深呼吸をして、ゆっくりと目を閉じ……





ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァァァァァァ!!!!!!






気付いたら車の中でした…後部座席に寝転がっていて…


「あ、理恵!起きたの!」


「ママ…?あれ…?」


「あなたが寝てる間に根川さんが造ってくれたわよ、ほら首からかけてあるそれ」


母は運転をしながらバックミラー越しにこちらを見て言いました。


たしかに、首に何か付いてるんです。

巾着みたいなのが、気になって中を開けようとしたら…



「ダメ!…根川さんが言うには開けてはダメなんですってよ…それと、肌身離さず持つ必要はないんですって」



なんだか不思議な感じがして、呆然と私は御守りをいると、お母さんが



「…本当に良かった、これで理恵は大丈夫…良かった、本当に良かった…」



お母さんは運転をしながらボロボロ泣き始めてしまいました。

そんなお母さんに



「ママ…ありがとう!」



私は感謝の気持ちを伝え…








プァーーーーーーーッ!!!!!!









ドン!!グシャッ!!!!!!









即死でした。



右側から猛スピードでやってきた車がお母さんの乗っている運転席に追突したんです。



後に乗っていた私は衝撃で体を車内にぶつけはしたものの…でした。




それからはお父さんと一緒に2人で暮らしているんですけど、のおかげか何も起きずに平穏です。




あ、けど1度だけ…この後にも怖い体験をしたんですよ。



…え、そっちも気になりますか?

なら少し休憩をしたらまた話をしましょうか。











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恐怖買取屋 夢見月 みつか @banpaia33

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