第29話 致命探偵カティスくん

 俺は転生したこの世界が何かしらの原作世界だと考えている。それがゲームなのかアニメなのかラノベなのかは知らないが。その根拠の最大の原因になっているのは、双子として生まれたアレスの存在である。昔いた勇者と同じ祝福を授かった存在。


 勇者、物語においてそれは即ち主人公であり、約束された勝利の存在、世界の中心。そんな存在が弟などと、まず間違いなく作為的なものを感じざるをえない。しかも俺は祝福を授からなかったとなれば尚更にだ。前世で転生物が大好きだった俺は即座に理解した。あ、これは悪役転生物だったんだなと。


 だってそうだろう。仮にこの世界を救いたいとかそういう御大層な目的があるのなら、わざわざ勇者じゃない無能な片割れとして転生させる理由がない。そしてうっかり殺してごめんね☆彡的な贖罪系転生なら、神様から事前に謝罪と説明なりなんなりがあるはずだ。


 というか、そもそも人一人を神様の不注意で殺したからといってそれでお詫びするとかありえんだろ。神様からしたら人間なんて牛やトカゲ、なんなら蟻や蚊以下、それこそ地球に寄生する害虫扱いだろうし。そもそも幼児虐待やら紛争地帯で死ぬ事になった子どもの方が優先順位は髙いと思う。


 わざわざ主人公の双子として、それも無能な方として転生させる。そこには明確な意思が介在していると考えて間違いない。そう、つまり神は俺という転生者を使って遊んでいるのだ。おそらく好き勝手悪い事をして最後勇者に断罪されるだろう双子の片割れとして転生させて、どう生き足掻くのかをにやにやしながら鑑賞しているに違いない。


 悪役転生。前世でも転生物としては大人気のジャンルだった。将来的に悪役として殺されたり追放されて殺されたりする悪役貴族として転生してしまった転生者が、二の轍を踏まないように、原作知識を駆使して対抗する力を手に入れたりするやつだ。


 原作知識なんてものが全くない俺にとっては、ふざけんなとしか言いようがない。未来に起こるだろう断罪される要因が分からなければ対処の仕様がないだろうが!

きっと俺をカティスくんに転生させた性根の腐った屑神は、なにも分からず右往左往する俺という存在を見て腹を抱えて笑うつもりだったんだろう。俺にとって代わられたカティスくんも浮かばれないぜ。だが残念な事にそうは問屋が卸さなかった。俺というラノベマスターにかかれば、屑神の思惑なんざそれこそ水に濡れたら透明になる水着の様に透けて見える。


 俺くらいになれば原作カティスくんがどういった道を辿るかくらい、悪役転生物の知識を総動員すれば想像がつくってもんよ。原作カティスくんはおそらく、祝福の儀で神からの祝福を授からなかった無能無才な子として、周囲の大人はおろか子どもたちからも誹謗中傷に晒された結果、非常にひねくれた性格になってしまったのではなかろうか。双子の片割れは勇者の祝福という破格の祝福を手に入れているというのに。なんならアレスのせいで俺は無能なんだと逆恨みをしていた事は想像に難くない。


 ここで重要になってくるのがカティスくんの家族の性格だ。両親、アレス共に非常に性格が善性だ。両親、とくに母親は無能無才なカティス君を過剰に気にかけている節がある。王城での俺のやらかしに対しても、俺ではなく自分たちが悪いと頭を下げる聖人君子ぶりだ。きっと原作のカティスくんが無能なのは、自分たちに責任があると思ってしまうくらいには。


 そんな家族にカティスくんが八つ当たりした場合、カティスくんはどう思うだろうか。どれだけ酷い事を言ってもごめんなさいと謝られ、無能無才を理由に過剰に過保護に扱われる。無能故に親の権力とアレスの威光によって保護される自分。まさに虎の威を借る狐状態である。そしてその虎は狐の行為を咎めたりはしないのだ。狐も狐で俺が無能なのはお前らのせいなんだから責任を取れと好き放題やり始める。


 最初は小さな我儘だったかもしれないが、人の欲求とは際限なく膨らんでいくもの。徐々に行為はエスカレートしていき、アレスも両親も、負い目からカティスくんの暴走を止める事が出来ずにずるずると。そして最終的にカティスくんのやらかしがデッドラインを超えて断罪されるのではなかろうか。双子だけあってアレスとは似てるだろうから、アレスに成り済まして色々悪事を働いたりもしたのかもしれない。侯爵家の権力を使って格下の貴族や平民相手に好き放題やらかしたのかもしれない。 


 とはいえ、この結末に至る事はないだろう。なぜなら屑神は致命的なミスを犯したからだ。そう、悪役転生において最も重要な事。俺は憑依転生ではないのだ。厳密にはそうなのかもしれないが、カティスくんがやらかす前から、なんなら赤ちゃんスタートしているのだから。カティスくんが無能無才の烙印を押される祝福の儀以降に憑依転生したのなら、どうしようもなかった。そうなっていたなら、俺は開き直ってカティスくんのように、いやそれ以上に好き勝手していた自信がある。


 なぜ断罪されたくないからと、周囲のご機嫌を窺わなければならないのか。俺が嫌いな奴は、俺も嫌いになるに決まってんだろ。原作知識がない以上、力を望んだところで無意味であり、巻き返しを図る事も出来まい。家に引き籠って気楽なニート生活?そんなのはネットやゲームといった、延々と時間を浪費し続ける事が出来る娯楽があってこそ成り立つものだ。異世界転生物で女絡みの揉め事やハーレムが多いのはきっと娯楽がなくてとっかえひっかえエロい事するくらいしか楽しみがないからだろうな。リバーシ?あんなのすぐに飽きるだろ。


 その点、今の俺は原作カティスくんとは違う。やる事がないからこそ赤ちゃんの頃からやり続けた魔力鍛錬によって、魔弾が使えるようになってるからな。自身の無力さに打ちひしがれることはないはず。アレスに対してはむしろ同情している。勇者だなんだと周囲が持て囃し、どうでもいい奴らの身勝手な期待に応える人生とか地獄かな?転生者なら美少女目当てでやる気が出るかもしれないが、アレスはどうなんだろうな。俺の領域に手を出してこない以上は好きにするといい。むしろ応援してるぜ!


 王城でのやらかしにより、俺は非常にやばい奴だとあの場にいた貴族共には伝わったはずで、それは伝言ゲームであの場にいなかった奴らにも伝わるだろう。つまり貴族でまともな奴ならば、俺に関わろうとはしない。俺も貴族に関わろうとは思わない。にも拘らず俺に関わろうとするならば、禄でもない考えをしている奴に決まっているわけだから、好き放題玩具に出来るという寸法だ。冷静に考えるとあの場で俺は殺されててもおかしくなかった気はするが、結果オーライだろう。


 俺はわずか5歳にして原作カティスくんの悪役貴族断罪フラグをへし折ったという事になる。これが悪役貴族脱却RTAってやつか。とはいえ油断は禁物だろう。何ら盛り上がることなく俺が断罪イベントを回避した事に、屑神どもは怒り心頭に違いないからだ。きっと刺客とかが送られてくるに違いない。


 それらを踏まえて目の前にいるお客様エルフを見てみよう。中学生…小学生?と見紛う低身長で、のじゃ口調。容姿に関しては絶世と言っていいだろう美少女っぷり。こんな属性てんこ盛りな奴がぽっと出の脇役なわけがない。加えて人魔大戦について知識が豊富で、べオウルフとかいう勇者の仲間に詳しいともくれば…間違いない、こいつはこんな見た目をしているにも関わらず千年生きてる婆という事だ。


 こんな属性過多な存在、それこそ最終巻まで出番がない後方師匠面か裏ボス的な立ち位置だろう。俺の魔弾を軽くあしらい、なおかつそれを敵対行動と捉えず、世間話に興じる余裕から察するにおそらく前者寄り。そこから導き出される答え。つまりこいつは…アレスの師匠枠だ!!


 間違いない。考えれば考える程辻褄が合う。おそらくこいつは父親が呼び寄せたアレスの師匠枠。アレスを立派な勇者に育てる為に呼び寄せたんだろうな。ふむ…これはチャンスでは?この件を上手く使えば好き放題外出できるのではなかろうか。正直もう5歳なんだから好き勝手に外出させてくれても良いと思うんだよね。いい加減我慢の限界だ!炎とか水の魔法を使いたいんだよ!!


 丁度いい機会だ。後顧の憂いを全て今日取り除こう。今日俺は!外出権を勝ち取り!マルシェラの尻尾をもふもふする!!新生カティスくん門出の日だ!!

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どけ!!俺は転生者だぞ!! はいぺりごん @MicArtur

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