第弐話 彼女の胸の奥の未来
いじめっ子は嫌いだ!
一発反撃したら、奴らは本気で怒ってしまった。
そんな訳で、ぼくは、昼休みの学校の廊下を必死で逃走していた。
彼我戦力差、5対1、勝ち目はない。
まあ、1対1でも勝ち目は無いんだけど。
ぼくは渡り廊下を抜け、特別教室練へと走った。
その時、特別教室練に回り込む奴らの一人の姿が、チラっと見えた。
しまった!挟み撃ちか!
ぼくの心を恐怖が襲った。
しかし、ぼくが渡り廊下を疾走していると、ぼくはなぜかムササビに変身、強風に煽られ、グライダーの様に飛行した。
これは!
ぼくは渡り廊下のすぐ下を歩く転校生の少女を見つけた。
そして、引寄せられるように歩いていた転校生の少女胸に飛び込んだ。
彼女の胸に飛びついたぼくを、彼女は強く抱きしめた。
彼女の柔らかな胸が、ぼくの目の前に!
さっきまでぼくたいた渡り廊下では、奴らが顔を見合わせていた。
「おい!誰か来なかったか?」
いじめっ子は、渡り廊下の下の彼女に聞いた。
「さあ誰も来なかったよ、ねえ猫ちゃん」
彼女の返答に、いじめっ子は、イラついた。
そして、ムササビが迷い込んだ猫と勘違いしたのか、ムササビになったぼくには関心を寄せる事なく、走り去って行った。
ぼくはその様子を確認する間もなく、彼女の柔らかな胸と腕に包まれていた。
「もう大丈夫、あいつらはどこか行ったよ」
その言葉に、抱きしめられたぼくは彼女を見上げた。
彼女はぼくの頭を撫でると、
「君は優しいから・・・あいつらそれを弱さと勘違いして・・・
優しさと弱さの違いも判らないなんて最低だね。
でもね、次の進化の覚醒期に進化を果たすのは、君みたいな優しい人たちよ」
「進化?」
「進化の絶対条件は、能力の優劣ではなく、優しさ。
今より力を持つ未来人は、その力を悪意や敵意の為に使ってはいけないの。
そんな事すれば、文明、そして星すらも簡単に破壊してしまうから」
「星すら?」
つぶやくぼくに
「わたしと一緒にいたいのなら、一緒に進化しようね」
彼女は言った。
一緒に進化?
それはまるで「一緒に進級しようね」くらいの言い方だった。
「進級と進化・・・・言葉は似てるけど、難易度は天と地ほど違うんですけど・・」
「大丈夫・・・君は優しいから」
彼女はそう言うと、ムササビに変身した僕を抱きしめた。
彼女の優しい身体に包まれると、ぼくの脳裏に、進化した人類の姿がよぎった。
その姿は、とても穏やかで優しげな人々だった。
それは彼女の様に強く優しい人々だった。
つづく
転校生は女神さま♪ ~初恋貴譚~ 五木史人 @ituki-siso
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