2章 少女との未来

第壱話 粘土と赤ワイン

少女が、バイトしてる茶屋の前を、自転車で帰宅していると、

「ジャンプ♪」

と、少女が、自転車の後ろに飛び乗ってきた。


「やっとバイト終わった♪少年、あたしの家までお願い!」

「そんな勝手な!」と心の表面で思ったけど、心の奥はるんるん。


だって、彼女が無邪気に胸をぼくの背中に押し付けてくるんだもん。


「少年、あたしね、理想に近づく方法を見つけたの」

「理想?」

「そう、書庫の『美少女にも解る鬼道百手』って本に、その方法が書いてあったの。

だから少年、今日はあたしに殺されて♪」

「え!?」

「鬼道の後継者として、あたしはあなたを殺さないといけないの。お願いあたしに殺されて」

「そ・・そんな・・・・」


そんな訳で、ぼくは殺害予告されながらも、ノコノコと彼女の部屋に上がってしまった。惚れた弱みの性と、まさか殺さないだろうと言う甘い気持ちからだ。


「そ・れ・で・は・こ・ろ・す・ね」

少女は楽しそうだが、言葉は物騒だ。

「さっ、服を脱いで、」

「服を脱ぐ?」

と、照れるぼくに、

「今夜、死ぬんだから、もう良いでしょう」

と容赦のない言葉を言った。


少女がぼくの服に触れると、ぼくの服は綿花に還元してしまった。


「さあ、土に還るのよ」


少女がそう言うと、ぼくは粘土に変身した。

血を意味する赤ワインで、粘土は真っ赤に染められ、象徴的な意味で僕は死んだ。


ぼくの意識はと言うと、多分生霊の状態で、ふわふわ浮いている感じだ。


「象徴的な死か・・・・そう言う事ね」

ぼくはほっとした。

「今日は徹夜になりそう」


少女は、粘土をモミモミとほぐした。

なんだろう、体の芯まで揉み解されていく。


ぼくの中の邪念が解かれている。

彼女は、揉み解された粘土に、まずハーブを混ぜた。


意識が飛びそうなほど、スースーする。

次に、ヨモギの香りがする薬草を混ぜた。


そして、鍋の中でぐつぐつ煮立っている、一見ビーフシチューだけど、かなり怪しげなスープを、粘土に丁寧に、なじませていく。


少女は、何かのサイズを書いたノートをあけ、

「うん、うん、なるほど・・・」

そう呟くと、粘土のぼくを掴み製作に取り掛かった。



「何を作る気?」

粘土の僕の問いかけに

「あたしの理想・・・・後は出来てからのお楽しみ」

としか答えてはくれなかった。


でも、答えはすぐに解った。

彼女がまず最初に手がけたのが、足だったから、

多分、人形だろう。


そして、腰の部分・・・・間違いなく男子バージョンだ。

「あたしが作るあなたの大事な所・・・」

少女はニヤニヤしながら言った。


「あなたの大事な所?って事は、僕を作ってるの?」

「ふふふっ、あなたの大事な所は今、私の手の中・・・」

「可愛い顔して、なんて事を言うんですか!」

「未来を作る大事な所よ、そして、その未来は今私の手の中。

エッチー意味だけじゃ無いんだよ、少年♪」


怖いくらい透き通るような清楚な顔の少女は、マジな表情で言った。


「う・・・うん」

「安易な未来じゃない。破滅を乗り越える力が必要なの」

「う・・・うん」


ぼくの胴体と手足、そして、顔が出来上がった頃に、屋根裏部屋の天窓から朝の光が、入ってきた。


「・・・出来た、私の理想が・・・さあ、後は人の姿に戻すだけ」

少女が何かを呟くと、僕の身体に血が流れ始め、神経が回復した。


そして、僕が完全に人の身体に戻ると、少女は何かに気づき、叫んだ。


「変態!いつまで裸でいる気?ここは女の子部屋だよ!」


自分が剥ぎ取ったくせに!

でも、服と言っても、ぼくの服は綿花と化していた。


「仕方ないな」

と少女は体操服を貸してくれた。


そして自分の身体を確かめた。


「私が作った理想のあなた、あなたは再構成されたの」

少女は、そう言うとぼくの背中にそっと触れた。


「ぼくには何がどう変わったのか・・解らないけど」

「素人には解らないかも、でもね、あなたは確実に、私の手によって変わったの」


少女は、自信満々言いながら、自分の手を見つめ、言葉を繰り返した。


「そう・・・・私の手によって変わったの・・・」

ぼくは、少女の綺麗な手を見つめた。

「こんなに綺麗な手が、僕を変えたんだ」と思うと、心が躍った。


「あなたは、後世の歴史家が、進化と呼ぶかも知れないぐらい変わったんだよ。

どんな破滅が起ころうとも、生き残れる精神力と身体に」

「えっホントに!?」

「世界を滅ぼしかねない程の最強の人間に・・・」

「それは・・・かなり困るけど・・・」




つづく



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初恋鬼譚・初恋の人が能力者だったなんて!? 健野屋ふみ(たけのやふみ) @ituki-siso

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