花野井あす

少女のかおには相形かおがない


眼窩に嵌め込まれた眼は光を手招まねいて離さない石炭いしずみ

睫毛から落とされる影は変容へんかを見せない


小さな唇はなめらかで透き通った白磁

時おり溢される音色は抑揚へんかを聞かせない


その貌を見上げればいているようで、見下ろせば嘲笑わらっているよう

少女には目と口があるだけ


何も持たない

何も知らない


ならば与えてやればよいのだ

ならば教えてやればよいのだ


私は少女に桜の枝をひとつ、もってこさせた

私は少女に夜空の星を一掬ひとすくい、もってこさせた


私は少女の唇を柔らかな薄紅色うすべにいろ花弁はなびらで染め、きらきら瞬く宝石で彩った

そして最後に、炎を知らぬ瞳に一滴ひとしずく、火を灯してやった


少女は驟雨しゅうううるみ、茜色の雫がにじむむようになった

少女は木漏れ日に輝き、駒鳥こまどりの歌を紡ぐようになった


少女はすてきなひとになった

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花野井あす @asu_hana

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