夏だ!祭りだ!お神輿だ!

寛ぎ鯛

~夏だ!祭りだ!お神輿だ!~

 夏と言えば「祭り」だろう。当然、それ以外の選択肢もあるだろうが、熊次郎の地元では毎夏に盛大に祭りが催されることもあってそうした気風はかなり強かった。また、熊次郎の職業柄、より祭りというものは縁が深いものであった。

 とは言え、熊次郎自身はそこまでいわゆるお祭り野郎気質ではなかった。ただ幼い頃から一介の地域住民として参加し、それが今までずっと続いてきているものだから、今ではある程度古株としてのポジションを担っていた。ただ、毎夏にしっかりとお祭りをやる地域だ。当然、基本的には皆お祭り好きが集まっていた。

 熊次郎の地元で行われる祭りの特徴としては、各町内や商店が所有する色とりどり豪華絢爛な神輿が、それに縁のある者たちによって担がれ、道々を練り歩くといったものである。観光客も多く、沿道には多くの人が詰めかける。加えて、縁日等も催されるため、普段とは大違いの大賑わいとなるのだった。


 「熊次郎、今年も頼むぜ!」

 「熊ちゃん、今年もお願いね。」


 熊次郎は静かにこくんと頷く。

 熊次郎は普段はかなり寡黙で口数が多くない。それでも、周囲の人々は熊次郎によく話しかける。別に熊次郎は話しかけられるのが嫌とかそういうのではないのだ。単純に、応答に音を混ぜないというだけで、言われたことはしっかりとこなすし、それ相応にちゃんと反応もしている。それに大柄がゆえ、親しみやすいというところもあるのだろう。

 年配の人から幼年の者に至るまで地域の皆が熊次郎によく話しかけていた。


熊「(今年も祭りの時期か…)」

 夏の日差しがじりじりと照り付け、舗装されたアスファルトの道からは熱気が立ち込めている。雲一つない快晴に浮かぶ太陽は容赦ない。

 祭りの熱気を思い返しながら、今年も頑張るか…と気合を入れるのだった。


 祭りに向けて日に日に町は活気付いていった。屋台がたくさん設置され、業者の往来も激しい。熊次郎の仕事も今は書き入れ時ということもあって連日大忙しだ。今年の夏は雨も少なく、気温も高く、かなり厳しい夏だった。そんなしんどい夏を吹っ飛ばすような勢いで準備は進んでいたのだった。


 「今年も神輿の先頭は熊次郎に任せるぞ。」

 「熊ちゃんなら人目も引くし適役だね!」

 「熊ちゃん、熊ちゃん、お神輿終わったら型抜き行こうよ。」

 「えー、熊ちゃんは私とヨーヨー釣りするって約束したんだよー。」

 「違うよ!俺と射的するんだよ!」


 老若男女問わず熊次郎に祭りの日の約束を持ち掛けている。熊次郎の町内は比較的大きく大人が担ぐ神輿が一基と、こども神輿が一基あった。こども神輿を担ぐ予定の子供たちからも「熊ちゃん」との愛称で親しまれている。これは、単純に子供のママさんたちが熊次郎のことを「熊ちゃん」と呼ぶので、子供たちがそれを正式名称だと認知していることに由来する。熊ちゃんこと熊次郎は手先が器用なので、射的や輪投げ、型抜きやヨーヨー釣り、何においても子供たちから引っ張りだこで、例年複数の子供が背中に引っ付いている状態だった。なんやかんや面倒見も良く、子供たちの相手もしてくれるので近所のママさんたちから全幅の信頼を置かれている。


 祭り当日、しっかりと、しっかりしすぎなくらいの快晴で朝から気温はぐんぐん上がっていった。法被に褌とやや露出の高めな恰好で熊次郎は神輿の待機場へ向かった。いつものことだがこの格好最初のうちは気恥ずかしい。

 待機場は他の町内の神輿も並べられ圧巻の風景だ。神輿たちは太陽の光を反射してキラキラと輝いていた。熊次郎が自分の町内の神輿に着くと、既に多くの者が集まっており、中にはまだ朝だというのに酒を引っかけている者までいる。


 「お、来た来た!」

 「相変わらず祭りの恰好が似合うなぁ。」


 熊次郎が着くなり皆が熊次郎を迎え入れる。


 「それじゃあ今日も先頭頼むぜ。」

 「よっしゃ!じゃあ行くか!!!」

 

 祭りの幕が上がったのだった。


 神輿の重みが肩にずっしりとかかる。この感覚だ。太い親棒が肩に食い込んでくる。この重みを感じると祭りが始まったという感じがする。担ぎ手皆と呼吸を合わせて進み出す。

 掛け声とともに神輿は前進する。沿道からも多くの人がこちらを注目している。今年も祭りはスタートから大賑わいのようだ。

 さぁ、暑くて長い一日が始まる。そう思いつつも清々しい気持ちで熊次郎は掛け声を発しながら神輿を担ぐのだった。

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