渡月橋

桜月零歌

渡月橋

修学旅行二日目。私、夢咲芽衣ゆめさきめいと友達の佐城日向さじょうひなたは京都・嵐山に来ていた。今は自由行動の時間で、休憩がてら訪れた店を離れるために店を出ようとしていると、店の店主が声を掛けてくる。


「深夜の渡月橋には行かないほうがいいよ」


突然の忠告にどう返事をしたものかと考える私と日向。


「?……分かりました」


取り敢えずそう頷いておく。何のことかさっぱり分からなかったが、集合時間が迫っていたので私たちは店を出ることにした。



その日の夜。


「渡月橋に行ってみない?」


 店主に言われたことがずっと気になっていた私は、旅館の一室で日向にそう提案してみる。


「良いよ。うちも気になるし」


 少しの沈黙の後、日向から了承の返事がきた。

 夜中に旅館を出ることは修学旅行のルールで禁止されているので、見回りの先生にバレないように出ていかなければならない。

 行くことが決まった私たちは、どうすればバレずに旅館を出ることができるのかを思案しつつ、旅館を出る時間を待つことにした。


 時刻は午後十一時三十分。誰にもバレずに旅館から出ることに成功した私たちは、渡月橋に続く道を歩いていた。


「昼間とは違って誰もいないなぁ」


 持ってきておいた懐中電灯で足元を照らしつつ、私は日向に話しかける。


「確かにね。それに夜の嵐山って凄い暗いから懐中電灯持ってきといて正解だったよ」


 などと喋りながら歩いていたら、いつの間にか橋の手前まで来ていたようだ。

 来た道と同様、自分たちの周囲や橋に人影は見受けられない。


「取り敢えず橋を渡ってみよう」


 そう言う日向に頷き、橋の向こう側まで行ってみるが特に変わりはない。途中、懐中電灯で橋の周辺を照らして確認してみたり、観光用にと持ってきたカメラで写真を撮ってみるも、オーブなど変なものは写っていなかった。

 渡月橋を流れる川の音に耳をすませながら待つこと十分。身につけている時計の針を見てみると、十一時五十九分五十秒を指していた。


「そろそろ帰らないと先生にバレるかも」


と日向が言い出すので、来た道を戻るために橋を渡ろうとする。

 その刹那、突風が私たちを襲った。思わず目をつぶる私と日向。数秒して風が止んだので目を開けると、そこには自分たちを囲うようにたくさんの霊がうようよしていた。


「さっきまで何もいなかったのに!」 

「マジでいるじゃん!幽霊」


突然現れたそれに驚き興奮する私たち。これはチャンスだと思った私はカメラのシャッターを切る。

すると、私たちを囲っていた霊が一斉にこちらにやってきた。


「ヤバイヤバイ……!こっちきた!」

「芽衣!早く逃げるよ!」


変に興奮している私を他所に、日向が私の腕を引っ張ってその場から離れるように言う。

流石の私も危機を感じ、急いで橋を渡って旅館目掛けて全力疾走。その間、懐中電灯の電池が切れるも構っている暇はなかった。


 その後、やっとの思いで旅館に到着した私たちは見事に先生からお叱りを受け、旅館の部屋に籠って反省文を書くように言われた。

そんな中、私は撮った写真を見るためにカメラの電源をつけようとするが、一向につかない。懐中電灯も同様で使い物にならなくなった。

私はバチが当たったのかなと思いながら、部屋に戻るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

渡月橋 桜月零歌 @samedare

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ