第21話 豊楽院の宴
「緋眼、顔色が悪いわ。今日は休ませてもらった方が良いんじゃない?」
「ひがん、いたい?くるしい?」
「……」
宴当日ーーー。
今緋眼は晴明からのうんと綺麗に着飾ってあげてほしいと言う願いがあり、彩耶香におめかしをしてもらっている。
しかし、あれからまともに食事も喉が通らず、今も逃げ出したい気持ちで一杯だった。
ここに来て初めて緋眼は元の世界に帰りたいと強く思った。
今までも帰りたいと思う事はあったし、元の世界に帰る為に少しでも手掛かりに繋がるかもと言う期待も交えて修行に励んでいる。
けれども、今と言う今はそんな事など比でもない程に逃げ出したい。
元の世界に帰って父と母、そして弟の
泣き付きたいと言う衝動に負けそうになる。
「今日参加される宴は帝もご出席なさると言う大事な宴。話を伺った限りでは欠席は出来ないでしょう。…とは言え、何とかならなかったのですか?」
御簾を隔てて廊下で待機している弥彦は、同じく隣に立つ董禾に問い掛ける。
「…私でどうにか出来るのであれば、こんな事にはなっていない」
「役立たずね」
「………」
彩耶香の言葉にいつもの董禾であれば言葉の応酬になりそうであるが、今日は彼が押し黙りそれ以上の口論にはならなかった。
「どうですか?緋眼のお化粧は済みましたか?」
そこへ何とも陽気な声と共に晴明達が姿を見せる。
「ちょうど終わったわよ。彩耶香ちゃんの手にかかれば、いつも可愛い緋眼も更に可愛くなっちゃうんだから」
「流石、彩耶香姫です。さあ、緋眼。私にもその姿を見せてください」
御簾が上がり、緋眼はあまり気乗りがしないながらもそちらへ体を向けた。
「彩耶香ちゃんの手で、いつも以上にかわ…いや、今日は綺麗だよ、緋眼ちゃん」
「ええ、大人の女性になりましたね」
「そのお姿もお似合いです」
晴明の後に続いて来た季武や貞光達も、緋眼の姿に言葉を掛けてくれる。
「ありがとう…ございます」
「ひがん、きれい!」
「でも残念だね。今日の宴は昇殿を許されている人達しか招かれていないから、緋眼ちゃんの勇姿を見る事が出来ないなんて」
「この中では晴明殿と董禾、そして頼光様だけだな」
「けど、心はいつも一緒にいるからな!頑張れよ!」
「私も可能な限り傍にいよう。そなたは一人ではない」
「皆様…、ありがとうございます」
次々に掛けられる温かい言葉に、少しだけ逃げ出したい衝動が抑えられる気がした。
だからと言って、状況が変わる訳ではないのだが。
「では準備も整った事ですし、そろそろ出発しましょうか」
「そうですね。大事な宴に遅れる訳にはいきません。では綱、皆の者、留守を頼んだぞ」
「は。行ってらっしゃいませ」
頼光の言葉に綱達四人は頭を下げる。
「緋眼、無理はしないようにね。いつもの貴女のとびっきりの笑顔で皆イチコロよ」
「ひがん、がんばって!」
「彩耶香ちゃん、フウちゃん、ありがとうございます」
抱き付くフウと力強く抱き締めてくれる彩耶香の温もりに、これ以上ない安堵感を覚える。
しかし、この温もりにずっと縋っていられない寂しさに、離れがたい思いも強くなる。
「董禾殿、呉々も緋眼殿に無理をさせないでください」
「…その言葉は聞き入れ兼ねる。私ではどうする事も出来ん」
「この中で、一番彼女を傍で支えてあげられる立場ではありませんか。僕は今ほど貴方と立場を変わりたいと思った事はありません」
「……」
董禾は難しい顔をしたまま、それ以上は何も言わなかった。
「あ、ねえ、ロト。あっちのロトから緋眼の様子を生中継って出来ないの?」
頼光達を見送った後、部屋に戻った彩耶香は閃いた様にロトに訊ねる。
緋眼の傍にもいるロトだが、彩耶香の傍にも一体分身体がいるからだ。
「出来ル、出来ル」
ロトは肯定を込めて羽をパタパタさせる。
「さっすがね!じゃあ、広間で皆で見ましょ」
「何が見れるのですか?」
フウを連れて広間に向かう彩耶香の後に続く弥彦が問い掛ける。
「ふふっ、文明の進化の賜物よ。前に緋眼のストーカーの映像を見たでしょ?あれは過去の映像だけど、今からロトを通して今の緋眼の様子を映すの」
「その様な事が?」
「これで、皆でリアタイで緋眼を見ながら応援出来るわよ!」
「ひがん、おうえん!」
「りあたい…ですか?」
意気揚々と広間に向かう彩耶香とフウとは対照的に、初めて聞く単語に首を傾げる弥彦であった。
緋眼は頼光の屋敷から牛車に乗り、晴明達と共に大内裏へと向かう。
さくもちは今回屋敷に置いてきたが、リネットは姿を隠し牛車の後を付いて来ていた。
道中も生きた心地がしない中、牛車を降りると皆の後に続いて豊楽院の門を潜る。
「相変わらず人が多いですねえ」
「宴が好きな貴族が多いですからね。それに、少しでも帝や皇族とお近付きになれる機会を逃すものはいないでしょう」
賑わう豊楽院の様子に晴明と頼光がこぼす。
「緋眼、私達から絶対に離れるな」
「は、はい…」
ただでさえ気後れしているのに、豊楽院に集まっている人の多さに人酔いしそうになる。
「晴明達よ。来たか」
「これはこれは、道長殿」
大勢の貴族の中から、先日会ったばかりの道長が姿を見せる。
「今日は緋眼の術の披露があると聞いておる。皆、晴明の新弟子と聞いて楽しみにしておるぞ」
「それはそれは嬉しい限りです。きっと、私の緋眼は皆の期待に応えるでしょう」
「ははっ、それは大きく出たな」
道長と晴明、頼光が何やら楽し気に話をしているが、今の緋眼には全く耳に入ってこなかった。
やっと緋眼の耳に入ってきた言葉は、官女の一人が緋眼を控えの間に案内する時だった。
お披露目の時までこの部屋で待っていろとの事だ。
ロトが袖の中にいるとは言え董禾達とも離され、緋眼はこの世界に来て初めてとてつもない心細さを覚える。
きっと、それだけ今まで董禾や彩耶香、皆に守ってもらっていたと言う事なのだろう。
袖ごとロトをギュッと強く抱き締め、少しでも心細さを紛らわそうとした。
「おい」
そこに突然声がする。
緋眼が振り向くと、そこには今日術を競い合う亀井以外の男達が立っていた。
「な、何かご用ですか?」
「光栄様がお呼びだ。こっちに来い」
光栄とは、この宴で術の競い合いを仕組んだ張本人だ。
直前になって話とは、ルール等の説明でもあるのだろうか。
緋眼は男達に急かされるまま、その後に付いていく。
しかし、男達は緋眼が通ってきた門とは別の門を通って豊楽院の外に出た。
「あの、どこまで行くのですか?」
流石にこれは何か裏があると思い、緋眼は立ち止まる。
すると男の一人が緋眼を思い切り突き飛ばした。
「っ!」
「お前、何のつもりか知らねえけど目障りなんだよ」
「橘の情婦の分際で帝にお目に掛かろうなんざ100年早いんだよ」
「な…」
「このままお前には棄権してもらう。亀井の出る幕でもねえよ」
そのまま男達は緋眼の髪を乱暴に掴み物影へと引き摺っていく。
緋眼は何とか起き上がろうとするが、男の一人が緋眼に伸しかかってきた。
「退いてください!」
「なに、お前はこのまま俺達を楽しませりゃ良いんだよ」
「橘とも毎日やってんだろ?俺達とも楽しくやろうぜ」
「なにいって…」
緋眼は本能的に身の危険を感じて必死に踠くも、数人の男達に押さえられ全く歯が立たない。
男と女の体格差を嫌でも感じる時だった。
手足を押さえられ抵抗出来ない緋眼の着物に、上に伸しかかる男が手を掛ける。
「があっ」
その時、袖の中に潜んでいたロトが、緋眼に伸しかかる男の鳩尾に思いっ切り体当たりした。
「な、何だっ!?」
「ぎゃああぁっ!」
状況が飲み込めない男達にも、刺激物入りの煙を噴射して視界を奪う。
緋眼はその隙に起き上がってその場から急いで逃げる事に成功した。
「う…ううっ……」
逃げる事は出来たものの、緋眼は言い知れぬ恐怖で涙が溢れていた。
どうしてこんな事になっているのか。
どうしてこんな目に遭っているのか。
次々巡る疑問に涙は溢れるばかりだった。
(お父さん、お母さん、優斗…帰りたいよ…)
「緋眼!」
名前を呼ばれ、足を止める。
恐る恐る振り返ると、血相を変えた董禾が走ってきた。
「こんな所で何をしている!もう直、帝への」
そこまで言い掛けて董禾は言葉を飲み込む。
緋眼は慌てて袖口で涙を拭った。
「申し訳ございません…。直ぐに戻ります…」
「何があった?」
「何でもありません」
「これのどこが何もないと言える!?」
「っ…」
董禾の手が伸びてきた事に、緋眼は先程の事がフラッシュバックして思わず身を守る様に手で顔を隠しながら数歩後退る。
そんな緋眼の怯えきった表情に気付くなり、董禾はばつが悪そうに眉尻を下げる。
「済まない…。だが、そんな格好で戻ろうとするな」
董禾の言葉にそこで初めて緋眼は自身の着物が乱れている事に気付く。
そして慌てて着崩れを直そうと着物に手を掛けた。
「じっとしていろ。私が直す」
「い、いえ…」
「触れるぞ」
断ろうとした緋眼に、酷く優しい声色が降り注ぐ。
彼の声に不思議と抵抗はなく、緋眼は彼の手を受け入れた。
董禾は着物に付いた砂埃を払いながら、丁寧に着物を直していった。
「全く…。これでは彩耶香の化粧も台無しだな」
「え?」
「ロト、水を出せるか?」
「ロト出セル、ロト出セル」
董禾が懐から出した手拭いにロトが水を掛けて湿らせる。
彼が手拭いを絞ると、緋眼の顔を覗き込んだ。
「あ、あの…」
「目を閉じてじっとしていろ」
言われるまま緋眼が目を閉じると、董禾は優しい手付きで緋眼の顔を拭いていく。
緋眼の化粧は涙で酷い事になっていたのだ。
「生憎、化粧道具は持っていない。だが、これならばまだマシだろう」
「ありがとう…ございます…」
「髪は自分で結い直せるか?」
「は、はい」
緋眼は急に恥ずかしくなって俯きながら髪に手を伸ばす。
しかし、震える手では上手く髪を結えなかった。
そんな緋眼の手に、彼の温かい手が添えられる。
「緋眼、お前は修行に励み弱音も吐かず今まで頑張ってきた。お前の実力は私が保証する。もっと自分に自信を持て」
「董禾…様?」
「お前を女だと見下した奴等に、お前の自慢の根性を見せ付けて見返してやれ。亀井如きはお前の相手ではない。臆するな」
「董禾様…」
力強く手を握る彼の温もりと言葉に、緋眼も次第に震えが収まってくる。
その代わりに自分の意思とは反して、また涙が溢れ出してしまう。
「何故泣くんだ…」
「すびまぜん…」
少し困った様子の董禾を気にする余裕もなく、緋眼は溢れる涙を自由な手の袖口で拭う。
彼の温もりと、初めて彼に認められた気がして、緋眼は先程までの心細さが嘘の様に満たされていくのを感じた。
不意に彼が握っている緋眼の手を自身の方へ持っていく。
「あっ!」
緋眼は慌てて手を引こうとしたが、董禾はそれを許さなかった。
袖が下がり露になった緋眼の手首には、先程押さえ付けられて踠いた際に出来た内出血が見えていたのだ。
「……。痛むか?」
「い、いえ…」
「手当ては宴が終わってからする。それまで我慢出来るか?」
「大丈夫です」
出血について聞かれたり責められたりするのかと身構えたが、予想に反して返ってきた言葉がそれだった。
長く感じる程正確な時間は分からないものの、董禾は暫く緋眼の手を握っていたが、やがてそっと手を離した。
身嗜みを整え豊楽院に戻ると、董禾と別れて控えの間に向かう。
控えの間には亀井が座って待っていた。
亀井は緋眼の姿を見るなり驚いた様だが、直ぐに視線を逸らして口を一文字に結ぶ。
緋眼が戻って間も無く亀井と二人して呼ばれる。
どうやら時間ギリギリだったようだ。
「その
「左様、晴明の親類の様でな。なかなかの才があると聞いておる」
豊楽殿の前では貴族達が色々と騒ぎ立てている。
貴族達の言葉には道長が返していた。
豊楽殿の中で座って此方を見ているのは恐らく皇族だろう。
その更に奥には御簾が掛けられている。
「アノ御簾ノ奥ニ帝ガイルゾ。気ヲ引キ締メロ」
パラメトリックスピーカーによるロトの声に、緋眼は深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
緊張はあるものの、不思議と先程までの恐れも逃避したいと思っていた気持ちも無くなっていた。
まだ董禾の温もりが残る手を握り締め、真っ直ぐと前を見据える。
「此度は晴明の女弟子の力量を皆様に測っていただきたく、この貴重な場をお借りしました。いくら親類と言えども、帝にお仕えする陰陽寮に入れもせず手元で甘やかしている現状。その様な女子の実力など高が知れていると言う事を皆様に証明致しましょう」
「なんと、その女子は帝にお仕えさせぬのかね?」
光栄の言葉に貴族の一人が反応する。
「それはとんだ誤解です。帝にお仕えする事は、何も陰陽寮に入れる事が全てではありません。修行を積み実力を付け、國から帝にお仕えする事も立派な忠義と考えております」
「なんと、晴明殿はわたくし達の考え及ばぬ事を思い付きなさる」
「その様な戯れ言は陰陽寮の
「得業生となると、次期博士となる者かえ?」
「それは楽しみでありますなあ」
緋眼と亀井の前に、一つの黒い箱が置かれる。
「先ずは手始めに、二人にはこの箱の中にあるものを占術で当ててもらおう。陰陽道を学んでいるのであれば、これくらい造作もなかろう」
「はい」
「勿論です」
「先手後手による優劣を無くす為に、答えは紙に認めよ」
二人に筆と紙が渡される。
光栄による開始の合図がなされると、二人同時に占術道具に手を伸ばす。
緋眼も亀井も同じ
天盤を動かし、占術結果を導き出す。
そして、また二人同時に筆を取った。
「答えが出ました」
「解りました」
「では、まず女子から答えを聞こうかのう」
二人の言葉を聞き貴族の一人がそう告げる。
緋眼は答えを認めた紙を掲げる。
「その中にいるのは、茶色の蛙が二匹とバッタが三匹です」
「亀井はどうかね?」
「は、はい。私も蛙二匹です」
二人の紙が掲示されると箱の蓋が開けられ、先ず帝に中が確認出来るよう掲げられる。
「おお」
「二人の言うように蛙であったのう」
「気持ちが悪いわい」
「しかし、女子の方が正確であるのう。色も茶色で数もあっておるし、ああ…今虫を食いおったわ」
貴族達は各々感想を述べたり話したりしている。
「次だ」
今度は緋眼と亀井其々に箱が一つずつ置かれる。
「同じ様に当ててみよ」
緋眼は目の前に置かれた箱を見詰める。
そして直ぐに違和感に気付く。
箱には結界術が掛けられていた。
恐らく、占術で中身を調べられない様に施されているのだろう。
今度は結界を解かねば先に進めない様だ。
隣から慌ただしさを感じ亀井に目を向けると、何やら慌てているように見えた。
緋眼はそんな亀井に気を取られないようにし、印を結んで箱に掛けられた結界を解く。
そして再度占術で中身を導き出す。
「答えが出ました」
「亀井はどうか」
「い、今暫く…お待ちください」
亀井は結界の解術に梃子摺っていたようだが、少しして紙に答えを書き綴った。
「秋桜が三輪です」
「と、唐辛子です」
二人同時に紙を掲げる。
そして先程と同じ様に帝へ箱の中身が開示される。
緋眼の箱の中には三輪の秋桜、そして亀井の箱の中には唐辛子が三つ入っていた。
「緋眼は落ち着いていますね」
「ええ、調子も良さそうです。きっと董禾の激励が効いたのでしょう」
観客席では他の貴族に混ざって頼光に晴明、董禾が緋眼の様子を見ていた。
頼光の言葉に晴明は董禾へ目を向ける。
「……。私は何もしておりません」
「おや?そうでしたか。てっきり、先程席を外した時に会いに行ったのかと思っていたのですが」
「………」
晴明の言葉に董禾は表情一つ変えずに緋眼の方を見ている。
そんな董禾の様子に晴明はふふっと笑みをこぼす。
「では次だ。式神を用いてこの蛙を殺せ」
「え?」
続いて目の前には、先程の蛙が運ばれてくる。
光栄の課題に緋眼は理解を示せない。
ふと周囲に視線を移すと、貴族達は嫌悪感を示すどころか好奇な目を向けている。
蛙が死ぬところをそんなに見たいと言うのだろうか。
緋眼には蛙を殺せと言う課題も、それを嬉々として見ている貴族達の様子も受け入れられなかった。
「何をしている、十六夜」
「…式神で殺生をしろと仰るのですか?」
「式神を操れるのであれば簡単な事であろう」
「私は命を奪う為に術を使いたくはありません」
「なに?」
「私はこの力を人を守る為に、誰かを幸福にする為に使いたいです」
そう告げた緋眼に光栄は冷めた目を向ける。
「所詮蛙の子は蛙、晴明の弟子は晴明と同じか。式神が使えぬ言い訳に戯れ言を
「式神を使える事を証明すれば宜しいのであれば、殺生以外で証明致します」
「ほう?」
緋眼は懐から形代を取り出すと、それに霊力を集中させる。
そして、四枚の形代を放ち四体の式神を召喚した。
「なんと間抜けな面構えか」
「……」
緋眼が召喚した式神を見た貴族が卑しいものでも見る様に目を細める。
その隣では宴に来ていたのか鎌成の姿も見られ、鎌成は扇を片手に事の成り行きを静観している。
「晴明と同じく悉く
光栄が睨む様に見据える先ーーー。
緋眼が召喚したのは桜餅と桃、水ゼリーに顔が付いたものと小さな雪だるまだったのだ。
緋眼は光栄の様子に臆する事なく水ゼリーの式神に指示を出し、水鉄砲を出させる。
シャワーの様に飛び散った水は、日の光を浴びて虹を作る。
「おお」
続いて桜餅と桃の式神に桜と桃の花弁を舞わせた。
虹の中に花弁が舞い踊る。
季節は今秋に差し掛かったところで、これから紅葉が見頃になる頃だが季節外れの花見だ。
「なんと清らかな事か」
虹の中で舞い散る花弁に貴族の女性達は感嘆の息を漏らしている。
最後に緋眼は雪だるまに指示を出し、大気中の水分を凍らせる。
凍った水分は日の光を反射し、キラキラと輝くダイヤモンドダストとなった。
「これはこれは。式神がこの様に美しいものを作り出すとは」
「見た目は不格好ではありますが、悪くはありませんな」
「緋眼らしい式神の使い方ですね」
「ええ。式神を使ってこの様な芸当が出来るのは、彼女ならではでしょう」
貴族達と共に見ていた晴明と頼光も笑みを深める。
「子供騙しな。師も師ならば弟子も弟子だ」
光栄は苛立たし気に形代を出し霊力を込めると、雄々しい虎の式神を召喚する。
「二人にはこれより己の式神を用いて、私の式神からこの扇を奪ってもらう。先に奪えた方の勝ちとする」
「っ!」
「!」
光栄の言葉を聞いた貴族達は、見世物でも楽しむ様に声を上げたり手を叩いたりしている。
「準備は良いかね」
「はい!」
「は、はっ!」
光栄は虎の式神に扇を咥えさせる。
緋眼は桃の式神を手元に残し他の式神を収め、亀井は狸の式神を召喚する。
光栄の合図と共に虎の式神が駆け出す。
虎は逃げるどころか、その勢いのまま緋眼の桃の式神に迫るとその鋭い爪を振り下ろした。
「避けてっ!」
緋眼は式神に指示を出して虎からの攻撃を避けさせる。
その隙を狙って亀井が扇を奪おうと狸を嗾けたが、虎の後ろ脚で蹴飛ばされてしまった。
「わざわざ自ら攻撃を仕掛けて来るとは、余程取られぬ自信があるのですね」
「光栄直々の式神ですからね。攻防が優れている分厄介でもあります」
三体の式神の動きを見ながら、頼光と晴明がこぼす。
緋眼は式神に多量の花弁を舞わせ辺り一帯の視界を奪う。
そして式神を横から突撃させた。
「甘いわ!」
それを見切った光栄は、虎に命令を下し突撃してきた桃を前脚で地面に叩き潰した。
しかし、その桃は身代わりの分身体であり、潰された瞬間その破片は花弁に変わって舞い散る。
次に亀井が狸の式神を使って粉塵を立てる。
続けて狸は急所の袋を肥大させて虎に巻き付けた。
「動きさえ封じれば!」
亀井は虎を急所の袋で締め上げながら、狸に口の扇を取らせようとする。
だが次の瞬間、虎から放たれた覇気によって狸は弾き飛ばされてしまった。
「うわあっ!」
「亀井よ。その程度の実力では、次期陰陽博士は任せられぬぞ」
「うわあぁぁっ!お助けをぉぉぉっ!」
尻尾に扇を移した虎は、鋭い牙のある口で狸に食らい付く。
虎の牙によって口の中のものが噛み砕かれた。
「ぬ?」
それが狸の式神ではないと気付いた光栄は、訝し気に周囲に目を向ける。
虎から少し離れた場所には、亀井の狸の式神と緋眼の桃の式神がいた。
「ふっ。敵を助けちゃうなんて、ほーんとお莫迦さんだね。マヌケちゃん」
「………」
鎌成は扇で口許を覆い、小馬鹿にした様な視線を向けた。
晴明達の隣では董禾がずっと静かに見ているが、眉間には僅かに皺が寄せられている。
「何の真似かね、十六夜」
「私は
「よかろう。なれば実力の差と言うものを、その身を以て思い知ると良い」
光栄は印を組み、虎の式神に新たに霊力を送る。
新たに霊力を受けた式神は神々しく輝き、目にも止まらぬ速さで駆け出した。
「っ!」
緋眼は間一髪のところで分身を使って避けるが、動きを読まれた様に避けた先で虎の後ろ脚によって地面に叩きつけられてしまう。
(くっ、早い!)
「所詮はこの程度よな」
光栄は止めの一撃を虎に命じる。
「まだですっ!」
緋眼は有りっ丈の霊力を式神に送って、多量の分身体を作り同時に花弁で周辺一帯を溢れさせた。
光栄は一度攻撃の手を止め式神に距離を取らせる。
「一々が小賢しいな」
「……」
緋眼は埋まる程の花弁を舞わせたまま、分身達から霊力の込めた種を吐き出させて反撃に転じる。
光栄は式神に種を避けさせながら、桃の式神の本体を探す。
外れた桃の種は別の桃が吸収してまた種を吐き、攻撃の手を止める事はない。
花弁による視界不良も相俟って、一見すると緋眼に優勢に見えた。
痺れを切らした光栄は、手当たり次第桃を虎の爪で切り裂いていく。
緋眼も負けじと分身を作り出し応戦する。
もはや、先に霊力を切らした方が負けの持久戦になるかと思われた。
「煩わしい!」
光栄は更に霊力を送り込んで、虎の咆哮を覇気に変えて周囲を吹き飛ばした。
花吹雪の様に舞い散る花弁は無くなり、辺りには桃達が吹き飛ばされて転がっていた。
「くっ…」
「些か戯れが過ぎた。これで終いだ」
桃の式神の本体を己の式神の射程圏に据えた光栄は、最後の一撃を繰り出した。
「そこまで」
そこへそう大きくないのに、この辺り一帯に声が響き渡る。
その一言で光栄も反射的に攻撃を止めた。
「もう十分であろう。この場はこれで納めなさい」
「父上…」
「えっ?」
光栄がこぼした言葉に、緋眼は思わず現れた人物と光栄を交互に見遣る。
「恐ラク
身を隠しているロトがパラメトリックモードで説明してくれる。
「これだけ自在に式神が操れているのだ。我が陰陽寮の陰陽生でもなかなか出来ぬ。流石は晴明の弟子だな」
「これはこれは保憲殿。お忙しいと伺っていますが、わざわざ来てくださったのですか?」
「晴明の新たな弟子と言うではないか。それも女子の身でありながら、この器量と度胸。なかなかだな。これを見ぬ訳にもいくまいて」
「
穏やかな表情を浮かべる晴明は保憲の方へ歩いていく。
「陰陽頭ト言ウ事ハ、陰陽寮ヲ纏メル一番偉イ人」
「そんな人が…」
「この場にお集まりの皆様、如何でしたかな。我が陰陽寮の催しは気に入っていただけましたかな?」
「式神なぞそうそう見られるものではないからのう。磨呂は満足じゃ」
「美しいものも見れました」
「帝も大層ご満悦との事でございます」
保憲の言葉に貴族だけでなく、豊楽殿から言伝を受けた官女もそれを伝える。
「帝にもお気に召していただけたのであれば、我が陰陽寮もこの上ない誉れでございます。なあ、光栄よ」
「は…」
保憲の言葉を受けた光栄は、何かを押し止める様に声を出した。
「亀井に十六夜緋眼と言ったかな」
「は、はいっ」
「二人ともよくやった。これからも精進に励み帝へ尽くすように」
「あ、有り難きお言葉です!」
「ありがとうございます!」
亀井と緋眼の二人は頭を下げ、漸くこの場から下がる事を許される。
緋眼は式神を仕舞うと、自身の手が震えている事に気付いた。
ずっと緊張していて震えていた事に気付かなかったのか、それとも緊張から解き放たれ今になって震え出したのか、どちらなのか分からない。
「緋眼」
「緋眼、見事であった」
「董禾様、頼光様…。ありがとうございます」
董禾達の元へ戻ると、二人から声を掛けられる。
そこで漸く術の披露が終わったのだと実感し、緋眼は安堵と共に体に力が入らなくなってしゃがみこんでしまった。
「緋眼!」
「具合が優れぬのか?」
「頼光殿。緋眼を外で休ませてきます」
「そうだな。この二日、ろくに食事も取っていなかったであろう。疲れが出たのかもしれぬな。晴明達には私から伝えておこう」
「ありがとうございます。緋眼、立てるか?」
「済みません…。立てます…」
董禾が肩を支えてくれて緋眼は立ち上がる。
彼に支えられながら、喧騒とする豊楽院を後にした。
少し歩いた先の建物に誘導されて中に入る。
「今此処には誰もいない。横になるか?」
「お気遣いありがとうございます。大丈夫です」
「ならば怪我の手当てをする。少し待っていろ」
緋眼は止めようとしたが、董禾は気に止めもせず部屋の外に行ってしまった。
少ししてから彼は湯気の立つ湯飲みを持って戻ってきた。
「薬湯だ。これを飲め」
「あ、ありがとうございます…」
緋眼はドギマギしながら湯飲みを受け取る。
湯気の立つそれに息を吹き掛け冷ましつつ、一口口に含んだ。
薬味の苦さが口一杯に広がる。
その間に彼は水の入った桶と手拭いを用意していた。
彼にここまでしてもらう事が初めてな事もあり、緋眼は嫌に緊張してしまう。
「飲み終えたか?」
「は、はい」
「腕を見せろ」
「はい…」
緋眼は緊張した面持ちで、先刻董禾に見られた片腕の袖を捲って内出血の部分を見せる。
すると、彼は迷う事なくもう片方の腕も取り袖を捲った。
両方とも先程より内出血の色が濃くなっている。
「他に怪我をしたところは?」
「え?ない…と、思います」
「着物を脱げ」
「へ?」
「着物の上からでは確認出来ぬから脱げと言っている」
緋眼は思わず聞き返してから固まる。
そして思考も停止してしまったようだ。
「自分で脱げぬと言うのならば脱がすが」
「えっ、ちょ、ま、ま、お待ちっ、くださいっ」
近付いてきた董禾に我に返った緋眼は慌てて手で制止する。
全身が真っ赤であろう事が分かるくらい熱かった。
「脱がなくても手当ては出来ますよねっ?」
「お前は今、片方の腕の怪我を隠したな。ならば、他に怪我があっても言わぬだろう」
確かに緋眼は本当は董禾に怪我を知られたくない思いもあり、先に見付かってしまった腕のみを見せた。
あまり深く考えていなかった事ではあるが、それを指摘され何故だか焦る気持ちに駆られる。
「その事はお詫び致しますっ!でも他は怪我なんてしてないですっ!痛くないですっ!」
「信用出来ない」
「そんなっ…」
「何をそんなに躊躇する必要がある?弥彦がいつもお前の手当てをしているじゃないか」
「えっ?や、弥彦様は弥彦様ですし…お寺の人ですし…」
急に弥彦の事を持ち出され首を傾げる。
確かに今まで緋眼は怪我を負った際、弥彦に治療を何度もしてもらいその際に見られてはいるのだが、だからと言って恥ずかしくない訳ではない。
何回されても慣れる事はない。
「私も弥彦も変わらないだろう」
「い…いえ…、董禾様は…董禾様ですし…」
「弥彦には任せられて、私には任せられぬと言うのか」
「いえ…、そう言う訳では…」
「私とて時に陰陽師として治療を行っている。今回は私に任せてくれないか」
何を言っても董禾は引く気配を見せない。
彼に限って下心が無いのは緋眼にも分かる。
だが、ここまで押しの強い様を見せられると緋眼も困惑してしまう。
じっと強い眼差しを向けられ、溶けそうな程熱くなった顔に更に恥ずかしくなりながら、緋眼は折れる形で渋々頷くしかなかった。
自分で紐を解き着物を一枚一枚脱いでいく。
いつもは着替えや寝る前に何気なく行っている動作が、今は死ぬ程の羞恥に襲われる行為となった。
襦袢一枚となり、チラリと董禾を見る。
「それも脱ぐんだ」
「は、い…」
緋眼は取り敢えず紐を解いて腕を袖から抜くと、襦袢を肩に掛ける形にする。
これ以上は本当に心臓が持たない。
それに緋眼にはこれまでの戦いで出来た傷痕もあった。
それを、そんな醜い姿を彼にだけは見られたくないと言う引け目もあった。
「緋眼、お前胸を怪我しているのか?」
「え?」
董禾の問い掛けに不思議に思った緋眼は、彼の目線の先を見る。
胸には確かに晒を巻いている。
これは洗濯も大変な部分があるブラジャーの代わりに下着として着用しているのだ。
だからきっと、それを怪我をしていて巻いているものと思われたのだと察する。
弥彦も初めそう勘違いしたからだ。
「あの…、違いますよ。これは下着の変わりに巻いているだけで、怪我をしているからではないです」
「……」
董禾はロトに目を向けるが、ロトも緋眼の言葉に肯定を示したので疑いは晴れたようだ。
ただ、自分の信用の無さに悲しくなる。
「やはり、他にも怪我があるではないか」
「痛く…なかったもので…」
両足首の内出血を見て彼は溜め息をこぼす。
痛くなかったのは本当だ。
男達から逃げた直後は痛かった気もするが、気が動転していた事もあったし、その後もそれどころではなかったので痛みに気を取られる暇はなかった。
董禾はそっと緋眼の肩から襦袢を外す。
「…背中から出血している」
「え?あ…、引きず…いえあの、擦った時に怪我したのだと思います」
引き摺られたと言いかけて慌てて言い直すも、内容を理解した董禾からは怒気が漏れてくるのが分かる。
彼によると両手足首の内出血の他に、背中を中心に打撲や擦り傷があるとの事だった。
彼はその一つ一つを丁寧に冷やしたり、傷口を洗ったりして手当てをしてくれた。
緋眼は恥ずかしさがとてつもなく勝ってはいるものの、彼の優しさに触れられている気がして不思議と安らぎも感じていた。
そして弥彦の時とはまた違う胸の高鳴りに、嫌でも董禾への想いを意識してしまう。
でもそれは叶わぬ、想ってはいけない想いだ。
緋眼は少しでも気を紛らわそうとギュッと手を握り締める。
「痛むか?」
「え?いえ、痛みはないです」
緋眼が手を握り締めた事に気付いた董禾は、それが痛いからだと判断したのだろう。
確かに内出血や擦り傷の部分に触れられると痛みはあるが、手を握ったのは痛みからではないと否定する。
「緋眼」
董禾は襦袢を緋眼の肩に掛け正面に向き直ると、そっと緋眼の頭を撫でるように手を当てた。
「董禾…様?」
「お前はよくやった。保憲様も、お前の実力を認めたからこそのあの言葉だ。私はお前を…誇りに思う」
彼は真っ直ぐなその眼差しを緋眼に向ける。
緋眼は再度胸と目頭が熱くなった。
「ありがとう…ございます…」
「緋眼…」
董禾は緋眼の頭を優しく撫でながら、躊躇いがちにもう片方の手で涙を拭ってくれる。
情けない事に止まったと思っていた涙は拭えども拭えども終わりを見せない。
けれども彼は何を言うでもなく、緋眼の頭を優しく撫でてくれていた。
「緋眼、体の具合は良いのですか?」
「はい、大分落ち着きました。ご心配をお掛けしました」
涙が落ち着いた頃、董禾と共に緋眼は豊楽院へと戻った。
そこでは晴明と頼光は道長達と酒を呑み交わしていた。
「こちらの事は気にせず、具合が優れない時は休んでくださいね。今回の件では無理をさせてしまいましたからね」
「本当に自覚されているのでしたら今後はお控えください」
「おやおや。董禾に怒られてしまいました」
「はははっ、流石の晴明も董禾には頭が上がらぬか」
酒の入った大人達は陽気に笑っている。
「では、緋眼にはこれから食事を取らせてきます」
「腹が減ったのか?緋眼」
「は、はい。お恥ずかしながら気が抜けたら…」
「大きな音だったな」
「ううっ…言わないでください…」
先程、手当てが終わった際にお腹の虫が鳴り響いた時の事を思い出し、恥ずかしさのあまり袖口で熱くなった顔を隠す。
「そうでしたか。では、緋眼の活躍を祝してご馳走にしましょうか」
「良いですね。直ぐに支度をさせましょう」
「なれば此処で皆で食すと良い。祝いの準備もさせようぞ」
話を聞いていた道長が盃を仰ぎながら晴明達に告げる。
「ありがとうございます。ですが、それはまた次の機会にお願い出来ますか?屋敷には緋眼の大切な友人達も待っておりますので」
「む、それは残念だな。では緋眼、またの機会には必ずや宴に参加してくれるか」
「ありがとうございます。その時は必ず参加させてください」
緋眼達は道長に一礼すると、その場にいる他の貴族達にも一通り挨拶をしてから豊楽院を後にした。
「早速、緋眼に依頼を任せたいと言う貴族の方々が溢れて大変でした」
「何を今更。全て貴方の目論見通りでしょう」
牛車に向かう途中ニコニコと笑みを浮かべる晴明に、董禾は冷ややかに返す。
「相変わらずですねえ、董禾。ああ、緋眼。安心してくださいね。今回の事を含め、貴女がこの世界で気軽に外を歩ける為の紹介の様なものです。貴女一人で貴族達に会わせたりはしませんので、今まで通り気楽に過ごしてくださいね」
「はあ…」
晴明の言葉の意味をいまいち理解出来ない緋眼は曖昧な返事をする。
そんな中、ふと董禾が足を止めた。
「どうしました?董禾」
「いえ。ゴミの処理をして来ますので先に戻られてください」
「おや、偉いですねえ。私も行きましょうか?」
「結構です。頼光殿、緋眼をお願い致します」
「ああ、気を付けてな」
「私ではないのですか、董禾」
董禾は悲しむ様な素振りを見せる晴明には目もくれずに歩を進めていった。
「董禾様…」
「彼なら大丈夫ですよ。それよりも、帰ってご馳走の用意をしましょう」
「はい!皆様のお口に合うものをお作りしますね!」
「何を言う、緋眼。今日の主役はそなただ。宴の準備は雑仕達に任せてゆっくり休め」
「でも…」
「そうですよ、緋眼。今日はもうゆっくり休んで宴を楽しんでください。そして、また明日から貴女の美味しい料理をご馳走してください」
「晴明様、頼光様、ありがとうございます。今日はお言葉に甘えさせていただきます」
「そうしてくれ」
「楽しみですねえ」
そのまま三人は楽し気に話しながら、待たせている牛車まで歩いて行った。
「いてて…。何なんだ、あの女…」
その頃、緋眼を襲った男達は覚束無い足取りで陰陽寮に向かう道を歩いていた。
「見た事のない技だった。妖術使いじゃねえのか?」
「んな怪しい女連れてんのかよ…。橘は…」
まだ目の痛みが取れない男は涙目を擦っている。
そんな男達の前に影が射す。
「貴様等、我が妹弟子を随分と可愛がってくれたようだな」
「げっ!橘董禾!」
董禾の姿を捉えた男達は次々に顔色を変える。
「ま、まだ何もしてないって!あいつ、逃げたからな!」
「怪しい術を使ってたんだ!あの女、妖術使いじゃねえのか?!」
「妖術使いなら危険だろ?橘、お前もあの女に変な術かけられて」
「言いたい事はそれだけか?」
董禾のその一声で、その場の空気が一瞬で凍り付く。
男の中には恐怖のあまり失禁している者までいる。
「ま、まま待て橘。は、はははは話せばばわか」
「ぎゃああああぁぁぁぁぁああっ!!!」
その辺り一帯には、男達の下品な悲鳴が響き渡った。
刻薫る二つの果実 香秋璃希 @koushu-riki
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