第2話 雑貨店「きおくや」

ここであってるんだよね?


手に持っている手帳の切れ端とスマホを交互に見比べる。


腕に下がる高級そうな菓子折りは風に煽られて邪魔をする。


間違いない。ここだ。


切れ端に書かれているのは母が看護師から聞き出した花束の男の住所。


男は私たちに電話番号を伝えるよう頼んでいたらしく連絡は簡単についた。


なんでも祖父の旧友らしい。


祖父の交友関係は謎に包まれている。


誰も見舞いに来たことはない。


そこで感謝の気持ち半分、好奇心半分で尋ねに行こうと母を説得し、聞き出した住所に向かっていたのだが…


視線をふと上げる。


ずらっと店が肩を並べる商店街。


ちらほらとシャッターが目につく商店街。


店と店の間にポカンとある空間。


道だ。


その道の奥には瓦葺きの木造の一軒家が顔を覗かせている。


左右にある店のせいか道は薄暗い。


「きおくや」


一軒家に続く道の脇にある石の杭にそう掘ってある。


間違いない。ここであっている。


この場所に祖父の旧友がいるらしい。


私は道へと足を運ぶ。


ザクッザクッ


砂利の音は商店街の喧騒をかき消す。


近くから見て、一軒家はかなり古そうだった。


かといってボロボロなわけでもない。きちんと手入れがされている。


ドクッドクッ


心音が耳を覆う。


ガラガラガラ


木製の引き戸はスムーズに中へと招き入れた。


中は想像していたよりも広かった。


大きな古時計からどこかの部族のお守りのようなものまで。大小様々なもので埋め尽くされている。


「いらっしゃいませ」


奥から若い男の声がした。


「何かお探しのものがありますか?」


人の背丈の倍はありそうな棚の後ろから男が顔を覗かせた。


歳は30代前半ぐらいだろうか。男は中性的な整った顔をしていた。しかし、それ以上に真っ白な白髪に目を惹かれた。


男は私を視界にとらえるとゆっくりと近づいてくる。


180cmは軽く超えそうなスラっとした身体は着物に身を包まれている。


「ここ、雑貨屋きおくやではよその店にはない品を取り扱っております。ここにくれば欲しいものはなんでも見つかるでしょう。例えば…」


男は私のことは気にせずスラスラと宣伝をしてくる。身振りも大袈裟で怪しさ満載だ。


どこで話を打ち切るか考えているとグイッと顔を近づけて来た。


「あなたは何をお探しで?」


男の微笑みは背筋を凍らせた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雑貨店「きおくや」ただいま開店中 サクセン クヌギ @sakusen_kunugi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ