初恋*****


富嶽が目を覚ますと、窓から差し込む光がお昼の日の高さだった。

お昼ご飯は何を食べようかな、と富嶽は冥の頭を撫でた。

見た目よりずっと柔らかくてすべすべしている黒髪を、丹念に手櫛を通す。

新品とも言えないし、上等とも言えない、普通の布団で冥が眠っている。

それが富嶽を夢心地に陥らせる。

昨夜のあれこれ。

本当だったのか。

不安になって抱き締める。

んぅって聞こえたから緩める。


「ふがくぅ…」


「おはよう、ございます、めぇさん」


もそっと冥が動き出すから、富嶽も合わせて起き上がる。

布団からぬるりとはみ出た白の肢体には、赤いものがいっぱい。

残したのは自分だと、分って顔が熱くなる。


「んふぅ」


「っ…め、さん」


富嶽の身体にも赤いっぱい、つけた本人が指の腹で撫でてきてもどかしくって慌ててしまう。

その反応が楽しいらしく、やめてくれない冥に困った富嶽は、も一度布団の中に一緒に戻ることを選択した。

非難の声は上がらず。

もう一度眠ってしまっても、いいような心地になる。


「ねぇ、フガクぅ」


「はい」


「ボクのこと、二度と無視しないって約束してぇ」


「はい」


「ボクとの約束、すっぽかさないでぇ」


「はい」


「ボクに連絡、毎日してぇ」


「はい」


全く以てどうかしていた。

冥を無視するなんて約束を破るなんて連絡を絶つなんて。

己の愚かさ加減に苛立ち、冥の許しに心より感謝を。

込めるように冥を抱き締める。

冥の両腕が絡みつく。

富嶽にはもう、ほどけない。


「ねぇ、フガクぅ」


「はい」


「どぉして変な勘違いしたのぉ?ボク、特別、君だけだよぉ?」


「…言われたんです…俺だけ特別じゃ、ないって」


「んぅ…いつもは、無視するやつぅ…」


「うっ…それに、その、見た、ので…談笑して…頭を撫でている、ところなど」


「…しつこくされててぇ…離れてぇって…してたとこぉ、かなぁ…も少し見てたらぁ…突き飛ばしてたのにぃ…わらってたのはねぇ…フガクぅのこと考えてないとぉ…がまんできなさそ、だったからでぇ…んぅ…フガクぅ…」


冥が、富嶽を、じっと見つめる。


「フガクぅはぁ…ボクの傍に居て、ボクを語る者の事信じちゃ駄目ぇ…ね?」


不思議な眼差しだった。

何を考えているのかわからなかった。

けれど富嶽は、富嶽には、選択肢は返答はひとつしかなかったんだ。


「はい…」


ぎゅって、する。

もうほどけぬ拘束を施されるから。

富嶽は。

大好きな冥を。

抱き締める。




















【邪魔だ邪魔だと思っていたが、嗚呼、邪魔臭い事しくさりやがって。愚かしい者共が。丸ごと、変えるか。なあに、何も問題あるまい。富嶽には   が在ればよいのだからな】

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フガクぅとめぇさん 狐照 @foxteria

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