お風呂
今日はすごく疲れたから、富嶽は湯船にたっぷり湯をはってざっぱーと入浴していた。
ちょっと熱めのお湯が好き。
入浴剤は使わない方が好き。
肌につく小さな泡を指で突くのも好き。
足は延ばせない小さなお風呂だったが、やっぱり湯船は最高だ。
そんな感じでのんびりお風呂を堪能していた富嶽はふと、湯船の底が柔らかくなったのを感じた。
温かい時に感じる錯覚かなと思った。
でも、だんだんふわふわの柔。
なんだかぐにゃっと軟。
グニャグニャと、してきたぞ?
「ん?な、」
それは唐突にして急。
予想外とは此時の為の言葉。
「わ、わ!!!」
湯船の底が、抜けた。
なんで、どうしてと思っても、その身は湯の底奥に勝手に堕ちていく。
風呂の縁を掴めば、なんて勝手な事を申されるな。
急にして唐突。
そんな時正常な判断が出来るのはとでも?
富嶽には、そんな緊急事態に対応出来る心構えなんてない。
だから、
「がぼがぼ」
沈んでく。
お風呂の底の抜けたそこに。
熱い湯飲んで鼻に入って苦しい痛い。
お湯だからかどうか目が開けられない。
くの字に曲げた身体のまんま、手足バタつかせてもどーにもなんない。
富嶽は
もう
冥を
想った
「ぶあっは!!?」
急に息が出来た事に富嶽は驚いた。
一呼吸出来たから二呼吸め無事に出来ると思えず、富嶽は無我夢中で呼吸を繰り返す。
鼻に入ったお湯が鼻水と共に出てゆく。
飲んだお湯が口から出てゆく。
「ごめん、フガクぅ」
「めぇ、さっ?」
げほげほ、咳き込む苦しい富嶽の背中を撫でる手。
覗き込むは心配一杯の顔。
本当に濡れた濡羽色の髪が艶やかで。
そのひとは、裸だった。
しっとり濡れた冥、だった。
「ゆっくりぃ、息してぇ」
濡れた手が濡れた背中を撫でている。
富嶽は自分が見知らぬ石造りの温泉に浸かっていることに、今、気付いた。
しかも露天風呂だ。
何でと思う前に、
「独りでぇ、お風呂入ってたらぁ、さみしくなっちゃってぇ…ゴーインに呼んでごめんぅ」
冥が富嶽の背中にぴたりと身を寄せる。
温かい湯の中でも、その温もりは富嶽にとって特別だった。
「ごめんぅ…ほんとにぃさみしくてぇ…フガクぅに…あいたくてぇ…」
密着が深まる。
富嶽は、ぐっと喉を鳴らしてしまった。
その反応に無言に冥はますますしょんぼり、顔を富嶽の肩に埋めた。
「ごめんぅ…ぅぅ…」
唇が、肩に肉に当たって、富嶽はもう身をぷるぷる震わせた。
「め、ぇ、さ…あの」
「…んぅ…」
「その、あの、はだか、で、ちかぃですっ」
「…んぅ…?」
冥は顔を上げ、富嶽の顔を覗き込んだ。
真っ赤だった。
鎖骨まで真っ赤にして、恥ずかしそうにして、けれど、嬉しそうで。
「んふぅ」
冥はわざと富嶽の背中に胸を押し付けた。
男の胸だ。
でも「めぇ、しゃ、むねぇがぁ」富嶽が可愛い反応をするものだから。
冥はますます調子に乗った。
「お風呂ぉ一緒に入るの初めてだもんねぇ」
「ひゃぃ…」
冥は富嶽の胸をつつーと人差し指でくすぐった。
富嶽が逃げようとする。
でも背後には冥、逃すまいと密着する。
「背中ぁ流してあげるぅ」
「め、めぇ、さ、んっ」
もう知らない仲じゃないのになんて可愛いんだろうか。
冥は恥ずかしいけど嬉しい富嶽に「いやぁ?」意地悪に問うた。
「いえ、すきです」
即答に冥はすっかり自分がした事なんて忘れ笑む。
「フガクぅ…今日は泊まってってぇ、ねぇ?」
お願い、と富嶽に触れる。
お願いが叶いそうなご様子だった。
期待一杯、のぼせないようにしないと、と思った冥は、煽ったツケを布団で払う事となった。
フガクぅとめぇさん 狐照 @foxteria
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