④ 闇を照らす聖火


「オラァァッ!」


 燃ゆる炎は荒ぶり、暗闇の人影を熱する。


「せりふ」

「まだまだぁっ!」


 霊を祓う──なんてオカルトチックな場面にも関わらず、目の前では異形の影にクラスメイトが松明たいまつでシバいている光景が広がっていた。


「辭ア縺??縺」

「焼きが足りないかぁっ、あ゛ぁ゛ッ⁉︎」


 縦に横に斜めに。

 炎の軌跡が闇に蠢く影を照らし尽くす。


「辭ア縺??縺」

「燃え尽きろォッ!」


 影のど真ん中に、松明まつあきさんの炎が突き刺さる。火は影を覆い、その黒い姿をオレンジの光で暴く。


「オ、オオォォォォォ────」


 重ねられる断末魔、不定形の影はその身を焼かれながら収縮を始める。


「……失せな」


 小さくなった影に、松明さんによるトドメの一撃。影は跡形もなく四散した……


 ◇ ◇ ◇


 除霊(?)の後、2人のことを聞くとどうやら無事らしい。


 逃げ延びたのか、社の中には渡辺と川村が気を失っていた。どうやら松明さんが保護してくれていたようだ。


「あ、眼鏡返してくれる?」

「え? あぁ……」


 ゆっくり目当てのものを渡すと、松明さんは素早く取って眼鏡を掛け直した。


「今日やる予定だったから来て欲しくなかったんだよね」

「あれって一体……」

「世の中知らなくてもいいことってあるでしょ? 気にしない方がいいよ」

「そ、そう……ところでさ、なんで……松明たいまつ?」


 未だ彼女の手の先で燃え続けるオレンジの光は、暗闇の境内を照らす。


「ライトは電池切れたらおしまいでしょ? これなら燃やしてれば、消えることないから」

「な……なるほど」


 気が抜ける理由にちょっとホッとした。

 すると松明まつあきさんはニカっと笑う。


「肝試しやるなら、今度は松明これ持ってやるといいかもね」

「そう、だな……松明さんは──」

聖火せいかって呼んでよ。紛らわしいんだよね、字が松明たいまつと同じなんて」


 なぜいきなり……?

 でもこれはチャンス!

 

「聖火さんはさ、肝試しやるなら来る?」

「来るっていうか、いるかも」


 あの人影がなんだったのか、

 聖火さんが何者なのか、それはわからない。



 けれど普段とは異なる彼女の姿に、ちょっとドキッとしたことは確かである。その意味では、肝試しに来て良かったかも。


 友人たちに一歩リードの、夏の夜のことだった。



     松明さんの除霊記録 

    〜 霊には炎で物申す~

       (了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

松明さんの除霊記録 〜 霊には炎で物申す~ ムタムッタ @mutamuttamuta

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ