【5. シナリオの背景】

 このシナリオの舞台は芦屋道満が死後に創り出した仮想空間のような場所である。

 生前、蘆屋道満は安倍晴明が唐から持ち寄ったナコト写本を盗み出し、そこに書かれている呪文や冒涜的な神々の存在などの知識を得た。

 後に蘆屋道満は伯道上人に討たれるが、ナコト写本に書かれている魔術を物にした芦屋道満は肉体が無くとも現世に干渉できる悪霊のような状態となり、安倍晴明や自身の天敵となる存在がいなくなる21世紀まで身をひそめていた。

 ハスターを招来させるためには現代を生きる者の魂を生贄に捧げる必要があり、さらには生贄の魂を溜めるための器となる場所が必要であった。現代でも計画を実行できなくはないが、必要以上に目立ってしまうリスクを考えた蘆屋道満はナコト写本から得た知識と魔力を使い架空の日本を創造した。この世界はドリームランドとよく似た性質を持つため稀に夢の世界の生物が迷い込むことがあるが、ドリームランドで使える魔法や物を創造する力は使えない。

 蘆屋道満が創造した日本は現実と同じ歴史を辿った。

 架空の世界ではあるが現実と同じように人々は意志を持って生きている。そのため活動するための時代や場所も慎重に選ばなければならなかった。そこで選んだのは日本の歴史のターニングポイントであり様々な思惑が渦巻く1500年代。キリスト教や鉄砲が伝来し、織田信長が生きた戦乱の時代だ。新たな物が受け入れられやすく、占いが日常と深い結びつきがあったこの時代は、陰陽師である蘆屋道満にとって活動しやすい時代であった。

 蘆屋道満はまず最初にこの時代で最も影響力のあった人物、織田信長の暗殺を企て、明智光秀を利用し1582年の同日に本能寺の変を起こした。ここまでは正史と同じであるが、蘆屋道満は安土城を乗っ取り、尚且つ自身が自由に動けるポジションになるために明智光秀を織田信長の影武者に仕立て上げ、更にハスターと関係を持つ神話生物であるイタクァの力を宿した。そうしてこの世界の本能寺の変は、『謀反を起こした明智光秀を織田信長が本能寺で打ち取った』出来事に変わった。

 明智光秀を織田信長の影武者に仕立て上げ安土城を乗っ取った蘆屋道満は、活動する基盤を完成させ儀式に取り掛かった。儀式の内容は現代人の魂を集め、空にアルデバランが輝く日にハスターに選ばれし巫女を生贄に捧げるというものだ。

 ハスターに選ばれた巫女の魂は芦屋道満が生み出した世界に引き込まれる事となる。そのため巫女を探し出すことは容易なハズであったが、何故か一向に見つかる気配はなく、代わりに黄衣の王の呪いによって現代に生きる者たちの魂が次々と引き込まれた。

 蘆屋道満の計画を邪魔していたのは織田信長の妻である帰蝶という女性だ。歴史の修正力かそれとも運命力によるものなのか。自然とこの世界での役割や本来の自分がどのような運命を遂げたのかなどの本来知る由もない知識を得た帰蝶は、蘆屋道満と明智光秀の陰謀を止めるべく暗躍していた。

 帰蝶は二人を殺害する為に様々な方法を試みたが、どれも蘆屋道満の策略によって成功するまでに至らなかった。

 蘆屋道満と明智光秀も何度も帰蝶の殺害を試みたが、帰蝶が所有する魔術障壁を切り裂くこと力を持つ大般若長光の脅威を取り除くことが出来ず、迂闊に手を出せずにいた。

 互いに拮抗している状態が続いているように見えたが、蘆屋道満の策略により信頼していた人物から裏切られ命を狙われた事により帰蝶の精神は少しずつすり減っていった。裏切られる恐怖心と自分に課せられた使命との間で板挟みとなり人間不信に陥っていたが、それでも残されたわずかな時間と力を使い探索者の目の前に現れる。

 帰蝶の頭に様々な考えが浮かんだが、それでも最後まで人を信頼することにした。それが無意味であると知りながら、僅かな希望に縋り付くように。


「アナタに刻まれた痣は呪いの印…。死にたくないのなら、縁を断ち切りなさい」


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