【シナリオ本編】

【7. シナリオの導入&PL向け情報】

 探索者は何らかの武術や武道に精通している者達だ。ある日、探索者の体の何処かに痛みが走り黄色の痣が現れる。痣の形は不定形だが大きさは探索者の手のひらに収まるくらいのサイズだ。

この痣は手術などで消そうとしてもまた直ぐに浮かび上がってくるため治療する手立てはないが、布などで隠すことは出来る。

 痣を確認した探索者は不意にとある噂話を思い出す。


『体のどこかに痣が現れた人物は、数日以内に白い着物姿の女に殺される』


この噂話の出処はインターネットのとあるオカルト掲示板が初出らしいが、調べたとしても噂以上の話は出てこない。しかし、その情報の少なさが拍車をかけたのか、噂は尾ひれが付いて日本中に広まっていった。

その話を聞いてバカバカしいと思う者や恐怖をする者もいるだろう。

 それから数日後、探索者の目の前に白い着物を纏った女が現れる。


「アナタに刻まれた痣は呪いの印…。死にたくなければ、縁を断ち切りなさい」


女は探索者にそう言うと、次の瞬間には目の前から姿が消えていた。痕跡を探そうとしても、まるで最初からその場所にいなかったかのように何も見つかることはない。

 それから更に数日後、探索者は何らかの事故に巻き込まれ意識を失う。


《KP向け情報》

 探索者が巻き込まれる事故はPLに考えさせると良いだろう。しかし、あくまでも生存確率の高い範囲の事故にしなければ、シナリオ終了時に何らかのペナルティを受ける可能性があるかも知れない。例えば飛行機の墜落から無傷で逃れられる人間は少ないだろう。生きていたとしても、体のどこかが負傷して治らないかも知れない。それよりも車に引かれて奇跡的に気を失っただけで済むという事の方が現実的だ。

 ただしPLが非現実的な事故の演出を提案したとしても、参加者が全員納得するのであれば奇跡的に無傷の生還を遂げることも可能だろう。


【8. 一日目・目覚めた先】

 探索者が次に目を覚ました場所は見知らぬ和室の部屋である。部屋の中は八畳分程の広さであり、探索者たちは川の字

になるように配置された布団の中で寝かされていた。

 服装は探索者が意識を失う直前の状態であるが持ち物は全て無くなっており、探索者にとって最も縁(えん)が深い物を一つだけ持っていることに気が付く。


えん

 探索者はこの世界に自分にとって最も大切な物や縁がある物を一つだけ持ち込むことが出来る。それは身に着けられる物であれば好ましいが、もしも持ち運べない物であればKPは探索者の思い出として処理すると良いだろう。

 関係する物であればキー・コネクションから指定してもよい。

 探索者が命の危機に陥った際に喪失することで一度だけ死を回避することが出来る。キー・コネクションを喪失した場合の処理はP42とP163を参考にする。


探索者たちが起きると突然部屋の襖が開き着物姿の老人が現れる。老人は探索者たちが目覚めた事を確認すると、「やっと起きたか。少ないが飯の支度が出来てる。ゆっくりしていけ」と言い、そのまま襖の奥にあるまた別の部屋へと姿を消す。それから少しすると老人が入った部屋からカーンッ、カーンッという金属音が響き渡ってくる。

 襖の向こうには囲炉裏が置かれた部屋があり、人数分の食事が置かれたお盆が用意されている。食事の内容は米と味噌汁に山菜が少々という非常に質素な物だ。〈歴史〉等の適切なロールに成功した場合、江戸時代よりも少し前の時代の

食事水準であることが予想できる。

 老人が戻ってくるまでの間に探索者たちは状況の整理をすることが出来る。部屋の探索はもちろん外を調べることも可能だが、外には何も情報がないため場合によってKPはPLに対して事前に忠告すると良いだろう。

 外に出ると、この建物は森の開けた部分に建てられた古民家であることが分かる。この場所事態は月明かりで照らされているが、明かりが一切ない森の中はどんな危険性があるかわからない。一歩踏み入れるだけで探索者は得体の知れない悍ましい生物の声を聞くことになり、0/1の正気度ポイントを失う。

 老人が入った部屋を覗き込む事は非常に簡単であるが、もしも気づかれないようにするためには〈隠密〉に成功する必要がある。部屋を除くと、大きな刀身に手鎚を打ち付ける老人の姿が目に入る。探索者は老人が鍛冶屋であり、刀を鍛えている事が分かるだろう。もしも気が付かれたとしても老人は特に探索者を気にするでもなく鍛刀を続ける。

事前に〈隠密〉などの技能に成功し老人に気が付かれずに除くことが出来た探索者は、刀身の周りの空間が怪しげに揺らめき、刃に奇妙な幾何学模様が浮かび上がっている事に気が付く。これは老人が持っている手鎚も同じであり、金属部に幾何学模様が浮かび上がっている。幾何学模様を見た探索者は意識が吸い込まれるような怪しげな感覚を味わい、1/1D3の正気度ポイントを失う。後に探索者の〈クトゥルフ神話〉技能をその場で1ポイント成長させる。

探索者が食事を終える頃いつの間にか金属音はなり止み、部屋の扉を開けて汗だくの老人が姿を表す。老人は探索者の向かい側に座ると、体調や食事が口に合うか等の心配事を口にする。これを見て少なくとも探索者は、老人に敵意がないことは感じ取れるだろう。


《鍛冶職人-長光(ながみつ)》

 大般若長光の製作者であり、アーティファクト・イスの偉大なる金槌を所有する人物。

 長光はこの世界について多くの情報を持ち合わせていない。この世界の一般市民と同じくらいの知識量と考えていいだろう。しかし自分がなぜこんな場所にいるのかも分からず、探索者たち現代人についての知識も皆無だ。しかし探索者がなぜこの場所にいるのかを知っている。

 昨日の夜中に白い着物姿の美しい女性がこの場所を訪ね、どこからか眠っている探索者を連れてきて森の中に消えて行った。長光は女性と会うのは二度目であり、最初にで会ったのは一週間ほど目の事である。長光は女性に名前を伝えているが、女性からは訳ありという事で名前を教えてもらっていない。その時に刀の修理を頼まれ、現在鍛え直している途中だという。探索者が刀を見たいと言っても、長光は刀を見せることを拒否する。


《未完成の刀-大般若長光だいはんにゃながみつ

技能/〈太刀〉 ダメージ/1D8+2+DB 基本射程/タッチ 1ラウンドの攻撃回数/1 装弾数/なし 時代別の価格/時価 故障ナンバー/なし 時代/鎌倉時代

《概要》

 長光が謎の女性から受け取り、現在鍛えている途中の刀。全長89cmの太刀であり、刃に魔術的な刻印が施されている。

 俗にいう妖刀と呼ばれる部類の刀であり、刀袋や鞘越しに触れただけでその異様さを感じ取れる。もしも刃を見た場合、探索者は1/1D6の正気度ポイントを失う事になる。


《アーティファクト-イスの偉大なる金槌》

技能/〈近接戦闘/格闘〉 ダメージ/1D6+DB 基本射程/タッチ 1ラウンドの攻撃回数/1 装弾数/なし 時代別の価格/時価 故障ナンバー/なし 時代/イス人が活動していた時代

《概要》

嘗て地球を支配していたイス人が使っていた金槌のような道具。このアーティファクトは一見至って普通の木と鉄を組み合わせて作られた道具に見えるが、現在の地球にあるどんな物質や兵器でも傷が付けられないほど硬い未知の素材で構成されている。全体には何らかの魔術的な文字が刻まれており、イス人、またはイス人と深く接触した事のある探索者は一目見ただけで能力を理解出来る。

 物体に打ち付けることで魔術を刻印することが出来、魔術を刻印する際、使用者は技能の成功失敗に関わらず2のマジック・ポイントと1の正気度ポイントを失い〈近接戦闘/格闘〉の難易度イクストリームに成功する必要がある。成功した場合は対象の物体に魔術が刻印され、ダメージを与える際に+1D3のダメージボーナスが発生する。


《周辺の状況》

 この民家は山の中に建っているが、周辺には森が広がるばかりで他に建物は存在しない。しかしここから半日程歩くと安土城があり、長光は稀に街を下りて刀を売っているという。しかし二年ほど前から得体の知れない妖怪が現れるようになり、夜は外に出られない状況が続いている。


《妖怪》

 日本に昔からいる存在。現代でも語られている鬼や河童などが該当する。

 妖怪はここ二年で出現数が飛躍的に上がり、現在では夜中に出歩くことが命取りになるほど増えている。

 主に蘆屋道満が召喚した神話生物が増えた結果であるが、中にはドリームランドからやってきた生物も存在する。


《安土城と織田信長》

 彼の織田信長が建てた城。この世界でも織田信長が建造したことになっており、現在も城の主として統治している。

 交易が盛んな場所であり、探索者と似たような服装の人物を見たという話を長光から聞くことが出来る。

 現在の日付や時期などを聞いた探索者がいる場合、長光はその質問に対して「今は天正12年だ」と答える。〈歴史〉ロールに成功した場合、天正12年は西暦に直すと〈1584年〉であることが分かる。この話を聞いた探索者はさらに〈知識〉ロールを行い、成功した場合は『1584年に織田信長は生存していない』事に気が付く。これは現実の世界の天正10年、1582年に本能寺の変があり、そこで織田信長は暗殺されたからだ。〈知識〉ロールに成功した探索者は本能寺の変が起きた年代も思い出していいだろう。


《本能寺の変》

 現実世界では1582年に発生した歴史的大事件である。これは長光だけでなく安土城の城下町に暮らす町民も知っている

情報であり、こちらの世界でも同年代に

発生した趣旨の話を聞くことが出来る。しかし経緯が現実の世界とは違い、こちらの世界では『謀反を起こした明智光秀の裏をかき、織田信長が本能寺で明智光秀を討伐した出来事』として語られている。さらにこの話には織田信長に仕える陰陽師が関わっており、その名は伝説の陰陽師である安倍晴明と同じ名を持つ者であるという情報も知ることができる。これ以上の情報を探索者が得るためには安土城の城下町に行くしかない。


《六芒星の痣》

 夜中に探索者の体にある痣が突然痛み始める。紙が皮膚と肉を切り裂くような鋭い痛みが一瞬走り、寝ている者も眼を覚ます事だろう。黄色の痣があった部分は色が綺麗に治っているが、代わりに一画の線が刻まれている。線の大きさは先ほどまであった痣の大きさくらいである。この線は痣と同様に消えることはないが隠すことは出来る。

 時間を確認出来るものがあると、痣が刻まれた時間帯は夜中の0時ころであることが分かる。

 痣は毎日0時に上記と同じように刻まれ、最終的には六芒星の形となる。


《KP向け情報》

 このシナリオは非常にSAN値の消耗が激しく、探索者によっては直ぐに不定の狂気を患ってしまう者もいるだろう。もしもSAN値減少によってシナリオの進行が難しい場合は、日付を一日跨ぐ事にSAN値回復の機会を与えると良いだろう。


【9. 二日目・安土城】

 探索者が目覚めると昨夜と同じように囲炉裏が置かれている部屋に人数分の食事が用意されており、工房からは金属音が聞こえてくる。探索者が食事を終えるか少し時間が経つといつの間にか音が鳴りやみ、工房から汗だくの老人が姿を現す。その手には大きな刀袋が握られており、昨夜工房を除いた探索者は鍛えられていた刀であることが分かる。

 探索者は長光から地図を渡され、安土の城下町にあるとある場所に刀を運ぶように頼まれる。その際、長光は探索者に「絶対に刀の刃を見てはならない」という助言を行う。


《妖刀-大般若長光》

技能/〈太刀〉 ダメージ/2D10+5+DB 基本射程/タッチ 1ラウンドの攻撃回数/1 装弾数/なし 時代別の価格/時価 故障ナンバー/なし 時代/鎌倉時代 特殊効果/この刀は壊れることなく、あらゆる魔術的な干渉や影響を受けない。

《概要》

 長光により完全に鍛えられた刀。刃には魔術的刻印が刻まれ、不可思議な文字が煌々と輝いて見える。

 刃を見た探索者は1D3/1D6の正気度ポイントを失う事になる。相手の装甲を無視する。


 長光は歳で足腰が悪いため探索者に同行は出来ないが、その代わりに十分な金銭と武器、「その恰好では目立つから」とこの時代の服を渡してくる。今から経てば夜までには返ってくることが出来るだろう。


《安土城・門前》

 安土城までの道のりは長光から渡された地図に書かれている。山をまっすぐ下るだけだが、それでも慣れない道のりに武器などの大荷物を持っているため4時間以上は歩くことになるだろう。

 山を抜けると探索者の眼前には田園風景の平地が広がり、その中に建つ安土城と城下町が目に入る。〈歴史〉ロールに成功した場合、本来目の前に広がっている地形に安土城は建てられていない事を思い出す。この情報を知った探索者は〈知識〉の難易度ハードまたは〈歴史〉の難易度ハード以上の成功で追加の情報を得ることが出来、成功した場合は『戦略的に見て本来このような攻められやすく守りにくい地形に城が建てられることはありえない』という事に気が付く。

 安土城は城下町ごと囲む巨大な壁に守られている。中に入るためには正門を通らなければならず、門は二人の兵士に守られている。探索者以外にも安土城に入ろうとする者はおり、兵士が一人ひとり止めながら何かを確認している様子が見えるだろう。


《安土城の兵士(門番)》

能力値

STR/50 CON/50 POW/50 DEX/45 APP/40 SIZ/45 INT/50 EDU/50 HP/9 MP/10 SAN/50 IDE/50

耐久力:9 DB:0 ビルド:0  MOV:8 知識:50

《技能》

刀剣:日本刀40%(20/4) 1ラウンドの攻撃回数 1回 ダメージ1D6+1+DB

回避22%(11/4)

威圧30%(15/6)

乗馬30%(15/6)

《装甲》

甲冑/10


 当然ながら探索者も呼び止められ、兵士から「安土に何をしに来た」と聞かれる。探索者がどう返答しても城下町に入れなかったり戦闘が発生することはないが、少なくとも長光から渡された刀は怪しまれる事だろう。もちろん刀も没収されるような事はないが、兵士からは賄賂を要求されるかも知れない。これに対して探索者は〈交渉系〉技能で乗り切ってもいいし、フレーバーで幾らかの金銭を握らせて乗り切った事にしてもよい。どちらにせよ、探索者は兵士から安土内で起こっている怪異と伝染病を教えられ、注意するようにと警告を受ける。


《怪異》

 半年ほど前から発生している怪異による事件。白い着物姿の女が現れ殺害されるという内容のものだ。この事件は城下町の人々も認知しており、誰に聞いたとしても似たような話をされる。殺害された人物は大人から子供まで幅広く、どれも遺体は欠損が激しく無残な姿になっていたという。話を聞く人物によっては恨みつらみを話す者も中にはいるだろう。その場合は基本的に探索者にとってマイナスな印象を与える情報ばかりを聞く事になる。


《伝染病》

 二年程前から安土で流行っている謎の奇病。体のどこかに黄色い痣が現れ、やがて死に至るという。

 探索者は自分の体に出来ている痣とこの症状が同じ物と分かってもいいだろう。たとえこの世界の医師にかかったとしても治療する方法は見つからない。


《安土城・城下町・民家》

 城下町は安土の中で最も活気のある場所だ。古今東西様々な品が集まり、最近では外国との貿易が盛んで南蛮渡来の物や文化が流行っている。1580年代基準の品であれば、大抵の物は手に入るだろう。

 探索者は長光から渡された地図の目的地に難なく辿り着ける。もし地図を無くした場合でも、何故か探索者は直感的に目的の建物を見つけ出すことが出来るだろう。これは探索者が建物の中にある現代に縁のある物を自然と感じ取り惹かれているためである。

 建物は何の変哲も無い木造一階建ての平屋だ。扉の前には表札などもなく、周りにある他の民家と何も変わらないように見える。

 扉を叩くか呼びかけると、か細い女性の声で「どなたですか?」と返ってくる。扉がガラリと空くと、高校生くらいの見た目の少女が姿を現す。目の下には酷いくまがあり、淀んだ目で探索者を見つめている事が分かるだろう。


《町娘-しのぶ》

 探索者と同じ現実世界から来た女子高生。ハスターに選ばれた存在であり、左の鎖骨辺りにナコト五角形という幾何学模様が描かれた痣がある。

 しのぶはこの世界の情報を多くは持ち合わせていない。しかし、怪異や自分を狙う者についての情報を知っている。

 怪異の正体は織田信長の妻である帰蝶という女性だ。帰蝶はこの世界の真相と裏で暗躍している芦屋道満の計画を知る。蘆屋道満の計画にハスターから選ばれた巫女であるしのぶが欠かせない存在だと知った帰蝶は、蘆屋道満や織田信長の目からしのぶを匿った。

 しのぶは帰蝶との生活の中で帰蝶の身に起きた様々な出来事を知るうちに、帰蝶以外に信じられる人物がいなくなっていた。これは帰蝶も同じであり、蘆屋道満による策略や様々な裏切りに合ったことからしのぶ以外に人物に不信感を抱いていた。

 しのぶは帰蝶以外の人物に心を開くことはない。しかし、探索者が自分と同じ境遇の立場にいると知った場合は別だろう。彼女の心は少し揺らぐかもしれないが、少なくとも探索者と最初に出会った時は決して自分が誰であるのかを明かす事はない。〈心理学〉ロールに成功した場合、しのぶは何かを恐れていることが分かるハズだ。


《KP向け情報》

 しのぶは探索者と同じ現代人であるため探索者が知っているような現代常識は全て知っていると思ってもよい。少なくとも高校生くらいの一般常識を身に着けている。そのため探索者との会話で現代の一般常識的な話題が出た場合は、自分が探索者と同じ現代人である事は否定しつつもすんなりと会話を成立させるだろう。

 例えばこの時代における平均寿命は大体30〜50代程であり、もしも探索者に平均寿命以上の人間がいた場合に町民は驚いたり仙人などといって崇めることだろう。しかし、しのぶは現代人であるためどれだけ年齢が高くても驚くことはない。それで驚くことがあるとしたら、探索者が自分と同じ現代人だと知った時だろう。探索者が〈心理学〉ロールを行った場合も、それとなくほのめかすといいかも知れない。


《織田信長との出会い》

 探索者が刀を届け終わると騒がしかった町中が静まり返っていることが分かるだろう。探索者は周りの町民が何かに驚き大通りの道の端に跪く姿が目に入る。この時に探索者は〈聞き耳〉ロールを行い一番出目の高い者か技能に失敗した人物を対象に一人決める。その探索者は道の奥から来る集団に気が付かずに反応が遅れ、集団から出てきた男に呼び止められる。呼び止めてきた人物は頭が禿げ上がり背が低いが、身なりや振舞いから一般の兵士とは違う高貴な身分であることが分かるだろう。

 背が低い男は探索者に詰め寄ると「無礼者!殿の前で跪かぬとは何事か!」と声を荒げ、周りの兵士に探索者を取り押さえるように命じる。探索者は抵抗したとしても人数差で負けて取り押さえられてしまう。背が低い男が刀を構え探索者の首に振り下ろそうとした瞬間、「猿、そこまでにしておけ」と背の低い男を制する声が聞こえてくる。背の低い男は「しかし信長様!」と反論するが直ぐに引き下がり探索者を解放する。〈知識〉か〈歴史〉などの適切なロールに成功した探索者はこの二人が織田信長と羽柴(豊臣)秀吉であることが分かる。


《羽柴(豊臣)秀吉》

能力値

STR/50 CON/70 POW/30 DEX/50 APP/40 SIZ/35 INT/80 EDU/75 HP/11 MP/10 SAN/50 IDE/50

耐久力:11 SAN:30 DB:0 ビルド:0  MOV:8 知識:75

《技能》

刀剣:日本刀50%(25/5) 1ラウンドの攻撃回数 1回 ダメージ1D6+1+DB

回避25%(12/5)

威圧40%(20/8)

乗馬30%(15/6)

心理学70%(35/14)

歴史70%(35/14)

KPが決める任意の技能

※以下の技能は織田信長に対しては成功値をハード以上で算出する。

言いくるめ70%(35/14)

信用50%(25/10)

説得40(20/8)

《装甲》

甲冑/10

《概要》

 羽柴はこの時代に秀吉に与えられていた名である。織田信長を厚く信望しており、時には反論することもあるが自身が考えも及ばぬ策を持っていると信じて疑わない人物だ。

 この世界の織田信長は蘆屋道満によって仕立て上げられた偽物であり、それに対して疑いの目を持ってはいるが、蘆屋道満の術により違和感のようなものを感じないように操作されている。

 秀吉はこの世界の住人であるため世界の違和感に気が付いておらず、また探索者についての情報を何も持っていない。

 近年の織田信長の奇行とも言える行動に不信感を抱いており、信長への忠誠に対して迷いを持っている。基本的には信長の味方であるが、探索者が望むのであれば味方に引き入れることも出来るかもしれない。その場合は蘆屋道満からかけられた術を振り払う必要があり、秀吉自身がPOWロールに成功し、尚且つ事前に探索者が何らかの〈交渉系〉技能をハード以上で成功させる必要がある。成功した場合、秀吉は探索者の味方となってくれるだろう。


《織田信長(明智光秀)》

能力値

STR/70 CON/70 POW/0 DEX/70 APP/70 SIZ/65 INT/60 EDU/60 HP/13 MP/10 SAN/50 IDE/50

耐久力:13 SAN:0 DB:+1D4 ビルド:+1  MOV:9 知識:60

《技能》

刀剣:日本刀70%(35/7) 1ラウンドの攻撃回数 1回 ダメージ1D6+1+DB

回避35%(17/7)

威圧70%(35/14)

乗馬50%(25/10)

心理学60%(30/12)

歴史50%(25/10)

オカルト20%(10/4)

クトゥルフ神話50%(25/10)

KPが決める任意の技能

《魔術》

風の斬撃 消費MP1:刀剣で行う遠距離攻撃 ダメージ1D4+3

真空 消費MP1:1D2ターンの間、明智光秀以外の周囲の人間が窒息ダメージを受ける(新クトゥルフ神話TRPG第7版 P120参照)。

《持ち物》

魔術の札 装甲/15:魔法・物理問わず全ての攻撃に対して耐性を持つ。

《概要》

 髷ではなく長髪をポニーテールのように結わえた見た目二十代程の男。その正体は蘆屋道満が織田信長として仕立て上げた人物であり、この世界の明智光秀である。本能寺の変で織田信長を暗殺後、明智光秀は織田信長と入れ替わり、本能寺では明智光秀が死亡したという嘘の情報を世間に流して現在に至る。見た目や立ち振る舞いは全く織田信長とは異なるが、蘆屋道満の術により周囲の人間は違和感を抱かないように操作されている。特に秀吉に対しては強い術がかけられており、明智光秀も秀吉の考えを見抜く力を持っている。

 明智光秀は特に目的を持たずに蘆屋道満の手伝いをしているただの協力者だ。自身が作られた存在であることも神が招来した後に世界が滅ぶこともしってはいるが、自身の命の恩人である蘆屋道満に借りを返すためだけに協力している。

 現在の目的はハスターに選ばれた巫女を探し出すことであり、仮に蘆屋道満が亡くなったとしてもハスターの招来を実行しようとする。

 蘆屋道満が持つナコト写本から授けられたイタクァの力をその身に宿し、風を操る力を持つ。人の状態でも人間を吹き飛ばすほどの風を発生させることができるが、イタクァの力を解放した獣の状態では竜巻などの災害も引き起こす事が出来る。

 明智光秀に対して〈心理学〉ロールを行い成功した探索者は明智光秀に宿るイタクァの姿を目撃し1D6/1D10の正気度ポイントを失う事になる。

 明智光秀は常に芦屋道満の札による魔術的な障壁に守られており、ダメージを与えるためには障壁の耐久力を上回るダメージを与える必要がある。


 信長は探索者に対して何か心配するような事を言うかも知れないし、そのまま通りすぎるかもしれない。どの道声を掛けたとしてもそれは信長にとっての社交辞令であり、探索者が何か質問したとしても軽くあしらわれてしまうだろう。その後、信長は集団を連れてどこかへ消えると、城下町は再び活気に溢れ人が往来するようになる。探索者の近くからは先ほどの集団に対して何かを話している声が聞こえてくる事だろう。〈聞き耳〉に成功することで内容を知ることも出来るが、話しかけても情報を教えてもらえる。

 先ほどの集団は城下町に現れる怪異を探している見回り隊だ。怪異は昼夜問わず現れる存在であり、信長は早く事件を解決しようと今のように集団を連れて城下町を練り歩く事があるらしい。他にも集団は幾つかのグループに分かれており城下町の様々な場所で見ることが出来るが、今のように頭を下げるのは織田信長がいるときだけのようだ。その他にも普段は人当たりのいい信長の話を聞くことが出来るだろう。


《安倍晴明との出会い》

 探索者が用事を終えて帰るころには日が傾きかけている。長光がいる場所に着くころには丁度夜中になっている事だろう。

 行きと同じで帰りも正門を通ることになる。探索者は正門にいたはずの兵士がどこにもいないことが分かるだろう。そこからさらに道を進んでいくと武器や何かの荷物が道に落ちており、探索者はその様子を酷く不自然に感じるかも知れない。さらに情報を得る場合には〈目星〉か〈聞き耳〉のロールに成功する必要がある。夕焼けに照らされよく見えなかったが、地面に転々と続く血のような物を見つけるか、もしくは遠くから悲痛な叫び声が聞こえてくる。痕跡は探索者が安土に来るときに通ってきた道の先に続いており、当然声もその先から聞こえて来た事が分かる。たとえロールに成功しなかったり途中で引き返そうとしても探索者の身に何かが起こることに変わりはない。

 探索者が道を進んでいると何か柔らかく嫌な弾力をするものを踏みつける。それは夕焼けに照らされ直ぐに何かは分からないかもしれない。さらに探索者が進む道の先からゆらゆらと不自然な足取りの人物が向かってくる。その人物は突如

頭部が肥大化したかと思うと、水風船のが割れるように辺りに何かを弾け飛ばし、大きな鋏のような異形の片腕を振り上げ探索者に襲い掛かってくる。


《不完全なミ=ゴ》

能力値

STR/55 CON/55 POW/40 DEX/50 SIZ/55 INT/40 HP/11 MP/8 SAN/0 IDE/40

耐久力:11 DB:0 ビルド:0  MOV:8

《技能》

刀剣:日本刀30%(15/6)1ラウンドの攻撃回数 1回 ダメージ1D6+1+DB

近接戦闘:格闘30%(15/6)

大鎌45%(22/9) ダメージ1D6+DB

回避25%(12/5)

KPが決める任意の技能

《装甲》

壊れた甲冑/5

《概要》

 羽化がまだ不完全なミ=ゴ。この世界のミ=ゴは蜘蛛のように人間の体を食い破り宿主として繁殖する。それまで宿主となっている人間は全く気が付かず、ある日突然体の内部に走る激痛と共に絶命する。

 羽化の前兆としては1週間〜1ヵ月の間に体に菌糸のような白か緑色の筋が現れる。この時点で宿主の肉体はミ=ゴの蛹のような状態となっている。

 羽化は大概人気のない場所で行われ、脱ぎ捨てられた肉体はミ=ゴと同様に3時間程で溶けて無くなる。

 羽化したばかりのミ=ゴはいわゆる人間の赤子のような状態であり、知能が低く動物と同様に本能にしたがって生きている。ミ=ゴの社会の中であれば数日で人間の成人以上の知恵を持つが、自力でそこまで知恵をつけるには一ヵ月以上の時間を要する。

《正気度喪失》

不完全なミ=ゴを見て失う正気度は1/1D4。


 命の危機が去った後、探索者は改めてここに来るまでの出来事と恐怖の実感を覚えるだろう。探索者は1/1D4の正気度ポイントを失う事になる。

 探索者を立て続けに危機が襲う。付近を腐った肉のような悪臭が包むと、暁に染まる空から悍ましい金切り声が聞こえてくる。その正体は直ぐに分かるだろう。四本の鋭く大きな鉤爪がついた翼と脚を持ち、顔はトカゲとも牛や馬の骨とも似つかず、それでいて全て混ぜ合わせたかのような混沌とした物だ。


《ビヤーキー》

能力値

新クトゥルフ神話TRPG P298参照

《概要》

 ビヤーキーはミ=ゴと同様にこの世界で作られた存在でも外部から迷い込んだオリジナルでも構わない。このシナリオ内で探索者はまともに対峙することはないとは思うが、場合によっては探索者がビヤーキーを利用することがあるかも知れない。


 怪鳥が探索者との距離を一瞬で詰めると、その鉤爪がついた翼を振り下ろす。鉤爪が探索者に当たる瞬間、探索者の目の前に電撃のような物が飛び散り鉤爪を弾く。更に探索者と怪物の間に人影が割ったかと思うと、その人物は刀を抜き怪物に振るう。刀で切り裂かれた怪物は悲痛な鳴き声を上げてその場から飛び去って行き、探索者は危機を脱した。

 人影の正体は端正な顔立ちをした青年だ。青年は探索者に向き直ると「ここは危ない。直ぐに安土に避難しましょう」と言ってくる。その言葉の通り空には先ほどの怪物が何頭も飛び回り、今にも探索者に襲い掛かろうとするかのような動きを見せる。このまま長光の元へ帰るのは危険ということが分かるだろう。探索者は青年の言う通りに安土に戻る必要がある。

 安土に戻るまでの道すがら探索者は青年について話を聞くことが出来る。


《安倍晴明(芦屋道満)》

能力値

STR/65 CON/55 POW/90 DEX/60 APP/80 SIZ/75 INT/80 EDU/80 HP/13 MP/18 SAN/0 IDE/80

耐久力:13 SAN:0 DB:+1D4 ビルド:+1  MOV:7 知識:80

《技能》

刀剣:日本刀40%(20/4) 1ラウンドの攻撃回数 1回 ダメージ1D6+1+DB

回避25%(12/5)

乗馬30%(15/6)

心理学80%(40/16)

歴史50%(25/10)

オカルト80%(40/16)

クトゥルフ神話70%(35/14)

KPが決める任意の技能

《魔術》

式紙召喚術 消費MP3:HP1D4+6の自身の分身、ミ=ゴ、ビヤーキーを召喚する。

火炎の術 消費MP2:1D6+炎上(P406参照)。

《持ち物》

魔術の札 装甲/20:魔法・物理問わず全ての攻撃に対して耐性を持つ。

ナコト写本

《概要》

 この世界を作り上げた元凶であり織田信長に仕える陰陽師。ハスターを招来させるためにハスターから印を与えられた巫女を探している。

 蘆屋道満は探索者が敵対しない限り探索者の見方をするが、基本的には真相から遠ざけるような動きをする。捧げる生贄は一人でも多いほうがいいという考えであるが、もしも探索者が敵対する場合は容赦なく切り捨てるような動きをする。

 蘆屋道満は帰蝶と敵対しており、計画の邪魔をして来る不確定要素であるため出来れば消したい存在だと思っている。しかし、帰蝶が持っている大般若長光は蘆屋道満の札の障壁すら破る存在であるためうかつに手が出せないでいる。そのため探索者に手を下させようとマイナスの印象を抱かせるような出来事を話す。話す内容は事実であったり多少脚色された物だ。しかし出来事の内容はどうであれ城下町の人々を手にかけたり、探索者と同じ現代人を殺害しているのもまた事実である。そのため、蘆屋道満は怪異を討伐するためなら探索者に協力を惜しむことはない。

 もしも痣の話を聞かれた場合は、伝染病や流行り病。または怪異からの呪いと称するだろう。未だ解決策は見つかっていないが、怪異が元凶だと睨んでいる、とも言う。

 普段は信長から頼まれた怪異探しと偽り巫女を探しているため探索者と共に行動することはないだろう。怪しまれた場合でも『あなた方を危険な目には会わせたくない』と心にもないことを言う。場合によっては巫女の特徴も探索者に教えたり聞くこともあるかも知れない。その場合はナコト五角形の話をするだろう。


《KP向け情報》

 芦屋道満は徹底的に帰蝶を探索者にとって都合の悪い人物であるような印象を抱かせる話をする。最終的な判断は探索者にゆだねられるが、その疑いの中で蘆屋道満と探索者が敵対したとしても、シナリオ上で蘆屋道満は死亡しても全く問題のない人物だ。

 この世界を構成するのに必要な物はナコト写本だ。もしも蘆屋道満が死亡した場合、ナコト写本は明智光秀の所有物となる。たとえ蘆屋道満が死亡したとしても探索者の痣が消えることはない。計画自体も明智光秀が引き継ぐ事になるので全く問題なくシナリオを進める事が出来る。シナリオに影響があるとしたら最後の結末くらいだろう。

 もしも蘆屋道満が死亡することによりKPの進行が妨げられるような事態があるのであれば、式紙で分身を作ったなどと言って死亡を回避させるのも一つの手だ。


《安土城・城下町・宿屋》

 探索者は安倍晴明に連れられて城下町にある宿屋へと行くことになる。探索者が心配せずとも宿代は晴明持ちだ。しばらくの間はここが探索者の拠点となる。

 探索者と安倍晴明の部屋は分かれている。安倍晴明が止まっている部屋を調べたとしても特に目ぼしい物は見つからないが、状況によっては何かの文字が書かれた魔術の札が人数分手に入るかも知れない。これは安倍晴明に頼むとシナリオ内で一人一枚普通に貰えるものだ。


《魔術の札》

装甲/15 基本射程/タッチ 1ラウンドの使用回数/1 時代別の価格/時価 時代/鎌倉時代

《概要》

 蘆屋道満の魔術が施された札。使用した者に15の装甲(障壁)を付与する。

 札は戦闘が終わると自動で燃え尽きる使い切りの物だ。


《KP向け情報》

 二日目の終わりに探索者の体に二画目の線が刻まれる。


【10. 三日目・安土城】

 探索者は外から聞こえる騒がしい声で目を覚ます。騒ぎの場所は直ぐに分かるだろう。

 宿の近くに人混みが出来ており、騒ぎの中心に何かがあることが直観的に分かる。人混みをかき分け中心へ行くと、そこには頭から股下まで真っ二つに寸断された男性の死体が倒れていた。この死体を見た探索者は0/1D3の正気度ポイントを失う事になる。

 死体を調べた探索者は男性の体に痣はないことに気が付く。

 〈目星〉ロールに成功した探索者は男性の体の一部に白い糸のように筋張っている部分を見つけることが出来る。〈科学(植物学)〉か〈科学(生物学)〉または〈知識〉の難易度ハード以上を成功させると、この筋はキノコやカビのような菌糸であることが分かる。

 〈近接戦闘:刀剣〉技能に成功した探索者は死体の傷口が異様になめらかであることに気が付く。鋭い刃物で切られなければこういった傷跡にならないという考えに至るだろう。

 しばらくすると死体は幾人かの兵士に回収される。近くの町民に聞くと丁重に埋葬されるらしい。


《KP向け情報》

 この時点で安倍晴明は宿にはいない。もしも探索者にどこに行っていたのかを言及された場合は、怪異を探していて騒ぎには気が付かなかったとはぐらかす。

 男性を殺害した人物は帰蝶である。明け方頃に安倍晴明と対峙した帰蝶は、安倍晴明を殺害しようとしたところ昨日の探索者と同じように羽化する寸前のミ=ゴに襲われ男性を殺害した。その隙に安倍晴明は雲隠れしたため、この場には死体だけが残ったのだ。

 この時点で長光から渡された刀はしのぶの家には存在しない。


《同じ境遇の現代人》

 騒ぎの付近にいる探索者は急に腕を捕まれ人気のない路地裏へと連れ込まれる。その人物は編み笠で顔を隠した青年であり、「お前も俺と同じ何だろ!」と腕についた五画の痣を見せてくる。探索者はその痣を見て、自分と同じ現代人であることが分かるだろう。


《巻き込まれた現代人-佐藤》

能力値

STR/60 CON/65 POW/70 DEX/70 APP/55 SIZ/65 INT/50 EDU/60 HP/13 MP/14 SAN/50 IDE/50

耐久力:13 SAN:50 DB:+1D4 ビルド:+1  MOV:8 知識:60

《技能》

近接戦闘:格闘70%(35/14)

回避35%(17/7)

応急手当40%(20/8)

聞き耳60%(30/12)

目星60%(30/12)

登攀40%(20/8)

投擲50%(25/10)

《持ち物》

スマートフォン

《概要》

 佐藤は一般の学生である。運動部に所属しており、多少であれば戦えるし探索者の役に立つ事が出来るかもしれない。

 佐藤がここに来たのは二ヶ月ほど前の話だ。探索者と同じように直前で事故に合ってこの世界にやってきたが、目覚めた時には城下町にいたという。それ以降、生きるためにいろいろな仕事をしたり情報を集めて来たが、つい最近痣が五画目まで刻まれてしまった。

 佐藤はこれまでに探索者と同じような現代人と何人かは合って来た。その中には状況が飲み込めず発狂したり、外の怪物にやられたりした者もいるという。

 最近まで現代人のコミュニティがあったが、一ヶ月前に怪異と接触し、そこで大勢が殺されたという。佐藤は途中からコミュニティの生き残りと接触したためその時の詳しい話は知らないが、怪異から安倍晴明を殺害するために協力してほしいとコミュニティは頼まれたという。しかし怪異の噂を聞いていたコミュニティは安倍晴明と接触し、逆に怪異をだまし討ちで討伐する計画を立てたが、返り討ちにあったという話を生き残った人物から聞いている。その人物も最近痣が六角になり亡くなってしまったという。

 また、痣が六角刻まれた人間は例外なく死亡していることを知っており、自分にはあまり時間がないため少しでも探索者の力になれればと接触したらしい。


 佐藤は探索者にコミュニティが調べていた幾つかの情報を渡してくる。コミュニティは存続時に城下町の様々な場所を調べまわっていた。その中でまだ調べられていない『歌舞伎座』『本能祀神社』『城下町・廃墟群』という場所を教えられる。


《安土城・門前》

 どこかに移動を決めた探索者の内の誰かは城下町の門前で騒ぎが起こっている事に気が付く。見ると兵士に向かい何かを訴えている町民の姿が目に入るだろう。

 誰かに話を聞くと通行規制が敷かれている事が分かる。城下町のどこかに怪異がいるらしく、逃がさないように兵士が見張っているのだそうだ。

 探索者は門を見ると大きく六芒星が刻まれている事が分かる。これは怪異を逃がさないようにするための結界の役割をはたしているらしい。たとえ力づくで押したり破壊しようとしても門は破れず、探索者は外に出るのは不可能であることが分かる。


《歌舞伎座》

 歌舞伎座は城下町で最も大きな演目が行われる場所だ。古くからある演目はもちろん、最近では交易で海外から輸入されたものも行っている。

 中に入るには入り口で料金を支払う必要がある。探索者が持っている所持金で十分に支払える料金だ。

 建物の中は演目を楽しみにしている町民で賑わってる。床に敷かれた座布団に座り探索者は演目が始まるまで待つことになる。

 しばらくして始まった演目に探索者は酷く違和感を感じる事だろう。舞台に現れた数人の演者は全身に黄色く変色したボロボロの布を身にまとい、顔には青白く肉のような質感の面を着けていた。その演者は踊るように演目をこなし、それに合わせ観客も歓声を上げるが、探索者だけは演者が人間でないことに気が付くだろう。

 演目の内容は『とある作家が城に封印された禁断の書物を読み狂気に陥るまで』を描いた物語だ。書物を読んだ作家は美しくも儚い狂気を味わい、最後には黄衣の王という存在に魅入られた印としてナコト五角形という幾何学模様を刻まれて死に至る。

 演目は何事もなく無事に終わるが、探索者は周りで歓声を上げる観客と舞台にいる悍ましい存在との温度差に吐き気を催す。この体験をした探索者は1/1D4の正気度ポイントを失う事になる。


《KP向け情報》

 舞台に現れたのは黄衣の王の廷臣、または青白の踊り手と呼ばれる存在だ。探索者がこの場所以外で出会うことは無いとは思うが、もしもKPがこの存在を詳しく知りたい場合は『マレウス・モンストロルム-Vol.1 クリーチャー編-』のp71を参考にすると良いだろう。

 黄衣の王の廷臣がこの世のものではない存在であると気が付いているのは探索者だけだ。たとえ探索者が舞台の関係者や町民に黄衣の王の廷臣の存在を言及したとしても、誰も違和感に気が付くことはなく全員がただの歌舞伎役者か演者と称する。

 演目の物語は海外から輸入された本が元になっているだけであるため、調べたとしても特に情報は出てこない。これは黄衣の王に対しても同じことだ。


《本能祀神社》

 本能寺が焼け落ちた後に安土城の敷地内に建造された神社。海外で崇拝されている神が祀られているが、それは関係者にしか知られていない。

 通常であれば安土城に面した正門を通る必要があるが、コミュニティが発見した放棄された地下水路を通って侵入出来る。

 水路を抜けると安土城内の林の中に出る。林の脇には神社の境内へと上がるための階段がある。人の気配は感じられず、安全に探索することが出来るだろう。

 階段を登っている途中で〈目星〉に成功した場合、空に微かではあるが星が輝いており星座の形になっていることが分かる。天文や星に関する技能、または〈知識〉の難易度イクストリーム成功で、輝いている星が《おうし座》の中で最も明るい恒星である《アルデバラン》という星であることに気が付く。

 階段を登りきると本能祀神社の境内に出る。境内の中心には大きな円が象られており、円を均等に囲むようにして六本の黒い柱が立っている。更に柱からは薄く線が伸びており、円の中には六芒星が刻まれていることが分かる。

 柱の材質は地球上にあるどんな物よりも硬い素材で出来ており、壊そうとすると一日や二日ではすまない程時間が掛かるだろう。近くで見ると細かく文字が刻まれていることが分かるだろう。

 文章の大半は未知の言語で書かれている。〈クトゥルフ神話〉技能に成功することでハスターと呼ばれる神に関する何らかの呪文であることが分かり、読むことが出来た探索者は1/1d3の正気度ロールの後にその場で〈クトゥルフ神話〉技能を1ポイント成長させる。羅列されている文字の一文には『黄衣を纏いしカルコサの王よ。道摩法師の名の元に、巫女の元へと招来せよ』と書かれていることが分かるだろう。〈歴史〉などの適切なロールの成功した場合、道摩法師は平安時代に実在した陰陽師であり、一般的には芦屋道満として知られている存在であることが分かる。事前または追加で〈歴史〉ロールに成功した探索者は、知識として蘆屋道満は安倍晴明のライバルであることを知っていても良いだろう。

 神社は人が住めるほど大きい建物ではなく祠のような外見をしている。外から中を見ることは出来ず、大きな南京錠が取り付けられている。

 祠には六芒星が書かれた札が張り付けられ、不思議な力で守られている。探索者が祠に対して破壊行動を行おうとしても壊すことは出来ないし、札もはがすことは出来ない。

 〈鍵開け〉ロールに成功した探索者は南京錠を外して祠の中を見ることが出来る。祠の中には小さな黒い仏像が祀られており、触れたり調べたとしても木で彫られた物という事しか分からない。しかし仏像全体に細かく何かの文字が刻まれている事が分かる。〈クトゥルフ神話〉技能に成功した探索者は、その文字がハスターを讃える文章であり、依り代となる物である事が理解出来る。これは黒い柱に刻まれている文章とほぼ同じであるため、理解できた探索者は1/1d3の正気度ロールの後にその場で〈クトゥルフ神話〉技能を1ポイント成長させる。


《城下町・廃墟群》

 城下町の外れにある廃墟群。妖怪や怪異による影響で壊滅してしまった地域だ。

 廃墟群はいくら探索したとしてもたいした情報は手に入らない。嘗て人が生活していた痕跡だけが残っているだけだ。

 廃墟群を調べていると、探索者は何者かに声をかけられる。振り返った先には眼鏡をかけた白衣姿の男性が立っている。男性は探索者が現代から来た者であることを言い当てると、ただついてきてほしいとだけいいとある場所に案内する。探索者が拒否をした場合は、白衣の男が指を鳴らし強制的に連れていかれる事だろう。

 連れていかれた場所は近未来的で無機質な部屋だ。部屋の中には探索者がどこかで見たことがあるような器具や明らかに時代にそぐわない何かの機械が置かれており、目的は分からないが実験室のような場所であることが分かるだろう。男は探索者をソファーに座らせると探索者に馴染みのある好きな食べ物や飲み物を出し説明を始める。


《白衣の男-人間と精神交換したイス人》

能力値

STR/50 CON/125 POW/75 DEX/50 APP/70 SIZ/65 INT/135 EDU/60 HP/19 MP/15 IDE/135

耐久力:19 DB:0 ビルド:0 MOV:7 知識:60

《技能》

近接戦闘:格闘40%(20/8)

射撃:電撃銃40%(20/8)

回避25%(12/5)

科学:化学80%(40/16)

科学:生物80%(40/16)

科学:物理80%(40/16)

心理学30%(15/6)

電気修理60%(30/12)

言語(人間が使う全ての言語)40%(20/8)

KPが決める任意の技能

《呪文》

1D3種類の呪文を知っている可能性が10%ある。

《装甲》

防護服/5

《持ち物》

電撃銃:能力は新クトゥルフ神話TRPG p266の電撃銃を参照。


《概要》

 白衣の男の正体は精神交換を行ったイス人である。長光が所有する金鎚との縁によってこの世界に呼ばれた。もしも探索者がイスの偉大なる金鎚を所有している場合、白衣の男は金鎚を使い探索者の武器を鍛え直してくれる事だろう。

 イス人は廃墟と化した民家に研究室を構えており、自身の知的好奇心を満たすためだけの研究を行っている。

 イス人はこの世界に興味を持っていないが、自力では出られないため脱出するための切っ掛けを探していた。その鍵が現代に生きる探索者であると知っているため、イス人は協力者を欲しがっている。探索者が協力的であるなら力を貸すだろう。

 イス人はハスターやナコト写本については知らないかもしれないが、この世界を構成する要素や解決策については大体察しがついている。

 探索者の現代の世界とこの世界の歴史を比べた場合、明らかにずれが生じている。それは安倍晴明と織田信長の存在だ。白衣の男はその二人の陰に魔導書の存在があることを探索者に伝えるだろう。

 白衣の男は安倍晴明と織田信長の現状の問題点についても予想がついており、探索者に『何らかの特別な生贄が必要で、その人物が見つかっていないのではないか』と伝える。それを踏まえた上での解決策は生贄をこちらが先に見つけ出し、引き渡す際に二人またはどちらかを闇討ちしてあわよくば魔導書を燃やすという解決策だ。当然この作戦は生贄や探索者の犠牲を何も考えられていない。


 白衣の男は探索者に情報を渡すが、この世界から出れさえしたらいいので作戦のやり方自体は探索者に一任される。

 白衣の男は多少なら協力をしてくれるかも知れないが、自分が無力である事を知っているため戦闘の参加事態は消極的だ。その代わりに探索者に電撃銃を渡すか、電撃銃を使い探索者の武器を強化する。イスの偉大なる金鎚を所有している場合は更に魔術強化を施す。

 ただし既に魔術が付与されている武器を強化することは出来ない。


【武器の強化後】

《日本刀》

1D8+2+DB


《太刀》

1D10+2+DB


《弓》

1D6+2+1/2DB


《大弓》

1D8+2+1/2DB


《槍》

1D8+2+DB


《薙刀》

1D8+2+DB


《魔術強化》

相手の装甲を無視する。


《安土城・城下町》

 宿屋に帰る途中、どこからか叫び声が響いて来る。探索者の耳には安倍晴明と見知らぬ女性の声も聞こえてくることだろう。

 現場に駆け付けた探索者は、地面に倒れている数人の男女と血に濡れた刀を持つ白い着物姿の女性。腕を切り付けられた安倍晴明の姿が見える。

 安倍晴明は探索者に気が付くと、鬼気迫る表情で目の前にいる女が安土を騒がせる怪異であり全ての元凶であることを叫ぶ。


《怪異-帰蝶》

能力値

STR/50 CON/80 POW/70 DEX/65 APP/85 SIZ/50 INT/70 EDU/65 HP/13 MP/14 SAN/20 IDE/70

耐久力:13 DB:0 ビルド:0  MOV:8 知識:65

《技能》

刀剣:妖刀-大般若長光70%(35/14) 1ラウンドの攻撃回数 1回 ダメージ2D10+5+DB

近接戦闘:格闘70%(35/14)

射撃:弓50%(25/10)1ラウンドの攻撃回数 1回 ダメージ1D6+1/2DB

回避60%(30/12)

応急手当30%(15/6)

手さばき50%(25/10)

隠密50%(25/10)

追跡40%(20/8)

登攀60%(30/12)

跳躍70%(35/14)

威圧15%(7/3)

乗馬50%(25/10)

KPが決める任意の技能

※以下の技能は探索者に対しては成功値をハード以上で算出する。

刀剣:妖刀-大般若長光70%(35/14)

近接戦闘:格闘70%(35/14)

射撃:弓50%(25/10)

《持ち物》

妖刀-大般若長光

《概要》

 安土で怪異と呼ばれている白い着物姿の女。その正体は織田信長の妻であり帰蝶と呼ばれていた女性だ。濃姫という名でも知られているが、ここでは帰蝶と名乗っている。

 帰蝶は探索者の味方であり蘆屋道満と明智光秀に敵対している存在であるが、長光については何も知らず、白衣の男の存在も知らない。

 帰蝶は安倍晴明と織田信長の正体。この世界で行われている恐ろしい儀式について知っており、何度も陰謀を止めようと二人の殺害を企てていた。時には探索者と同じ現代人と協力した事もあったが、蘆屋道満の巧みな話術と策略により何度も他人から裏切られ、ついに信じられる人物がしのぶだけになってしまった。しかし、何度も裏切りにあっていたが微かな希望を捨てることも出来ず、森で気絶していた探索者の命を助けるだけで、探索者に助けを求めることが出来なかった。

 もしも戦闘が行われる場合、帰蝶は何も言わずに戦うだろう。その際はどこか諦めたような哀し気な表情で戦闘に応じる。


 帰蝶は探索者に気が付くと、驚いた後に哀し気な表情を浮かべる。

 この場面で探索者は安倍晴明か帰蝶のどちらに手を貸すか決める事になる。もしも安倍晴明につく場合、帰蝶はこの場から逃げ出そうとする。DEXの判定に成功した場合、探索者は先回りして帰蝶をこの場から逃がさないように出来る。もちろん戦闘せずに帰蝶を逃がすことも可能だ。どのみち安倍晴明は追撃できないため、探索者を深く攻めるようなこともしないだろう。これは生贄は一人でも多いほうがいいという考えの元だ。

 争いが終わると、この場には死体だけが残される。死体の中には佐藤も混ざっており、佐藤以外の死体からは今朝見た物と同じように白く筋張っている菌糸の特徴が確認できる。切断面もなめらかであるため、今朝の死体と同一犯であることが分かるだろう。もしも痣の有無を調べるのなら、佐藤以外の死体にはついていない事が確認できる。痣の有無を調べた場合、佐藤以外の死体には痣が刻まれていない事に気が付く。佐藤の痣は六芒星の形になっていることも分かっていいだろう。

 〈近接戦闘:刀剣〉ロールに成功した探索者は、今朝見た死体と違って佐藤の切断面が荒い事が分かる。

 安倍晴明は危機を救ってくれた探索者に感謝の言葉を述べる。怪異に襲われていた町民を助けようとしたところ、力及ばず返り討ちにされたらしい。

 しばらくすると騒ぎを聞きつけた兵士がやってきて死体の回収を始めるため、探索者は宿に戻ることになる。


《KP向け情報》

 三日目の終わりに探索者の体に三画目の線が刻まれる。


【11. 四日目・安土城】

 探索者は外から聞こえてきた叫び声と、何かが倒壊する大きな音で目を覚ます。時刻はだいたい明け方頃だ。

 外に出ると、宿屋の前の大通り一面が赤い液体で塗り潰されていた。周辺の幾つかの家屋は倒壊し、辺りには血生臭い臭いが立ち込め道端には肉塊が転がっている。

 探索者が辺りを確認していると、突如メキメキという音が鳴り響き、周囲の建物をなぎ倒して触手の塊としか形容できない巨大な怪物が現れる。

 周囲にいる人々はフラフラとした足取りで怪物の元へ向かい、怪物の触手が絡め取ったかと思うと次々と握りつぶしていく。そのうちの一人の顔が探索者の目に入る。どこか恍惚とした表情を浮かべるその人物は、次の瞬間に触手に握りつぶされ血と肉の塊となり辺りに飛び散った。

 探索者は怪物から必死に逃げようとする少女の姿に気が付く。足を負傷したらしく、片足をかばいながら何とか怪物から遠ざかろうとしている。探索者はその少女が刀を届けた民家にいた人物であることが分かるだろう。

 怪物は探索者と少女を察知すると触手を伸ばし襲い掛かってくる。


《双子のひわいなるもの-ツァールとロイガー》

能力値

新クトゥルフ神話TRPGマレウス・モンストロルム Vol.2 神格編 P154参照

《技能》

触手:80%(40/16) 耐久力:10+1D5

《特殊戦闘》

 ツァールとロイガーとの戦闘は1D3+2ターンで行われる。行動は以下の通りだ。

 触手を動かし標的を捕まえる行動に1ターン。握りつぶすのに1ターン消費する。技能に失敗した場合は次のターンで同じ行動を繰り返す。

 触手に捕まった探索者は触手を破壊することで脱出することが出来るが、触手に捕まっている探索者は技能にハード以上の成功が求められる。

 触手を破壊することでツァールとロイガーの本体を攻撃することが出来る。

 ツァールとロイガーは1ラウンドに2回行動する事が出来るが、1回目の行動で探索者を捕まえた場合はその時点で行動が終了する。

《概要》

 ツァールとロイガーは一説にはハスターと密接な関係があると言われている。このツァールとロイガーはハスターとの縁で外部から迷い込んだか、この世界で生み出された存在だ。どちらにせよオリジナルとは違う存在である可能性の方が高い。

 本能の赴くままに破壊と殺戮を繰り返す存在であり、安倍晴明にとっては予想外の存在である。そのため、しのぶの事も殺そうと襲い掛かる事だろう。


 ツァールとロイガーと戦闘を行っていると馬に乗った織田信長が数人の兵士を引き連れて探索者に加勢する。

 信長の殺気を察知したツァールとロイガーは次々と触手を伸ばすが、信長の鮮やか剣技によって切り落とされ、遂には本体までもが切り裂かれる。無数の肉塊となったツァールとロイガーはその場に崩れ落ち、やがて溶けて水たまりのような粘液だけがその場に残った。

 探索者の目には信長が斬撃のような物を放って切り裂いたように見えたかも知れない。

 信長は探索者に向き直ると労いの言葉をかける。更には町民を守ってくれた褒美を与えるために城に来てほしいと言ってくる。

 探索者は、しのぶがいつの間にか気を失って倒れている事が分かる。信長はそれに対して「城で介抱しよう」と言ってくるが、探索者の誰かが元の家に連れて行くことも出来る。更にしのぶの近くにいる探索者は胸元に見える五角形の痣に気が付く事だろう。

 どのみち探索者の内の誰かは城に赴くことになるだろう。


《KP向け情報》

 この場面に安倍晴明がいるかどうかはKPの自由だ。もしもいた場合、安倍晴明は探索者の手助けをするだろう。

 握りつぶされた探索者は基本即死するが、KPは場合によってダメージを与える行動に入れ替えるなどしたらいいかも知れない。これは触手やツァールとロイガーの耐久値についても同じであり、あまり苦戦させる必要もないかも知れない。


《安土城》

 安土城は堀と高い壁に囲まれ厳重な警備が敷かれている。敷地内に入るためには正門を通らなければならず、外からでも城内にある高台に見張りの兵士がいることが分かるだろう。

 敷地内を歩いていると探索者は見たことのある分かれ道に出る。その先には本能祀神社があることが分かり、探索者が誰かしらに聞いたら信長が答えてくれる。

 安土城の中に入ると幾つかの廊下と階段を渡り城の中核にある大広間へと案内される。しのぶがいる場合はしのぶだけは別の部屋へと連れていかれる。

 大広間の中には巨大な仏壇があり、そこに探索者と同じくらいの大きさのぼろぼろの布と般若の面がかぶせられた仏像が祀られていた。


《黄金無名釈迦如来》

能力値

STR/120 CON/400 POW/150 DEX/100 SIZ/100 INT/200 HP/50 MP/30

耐久力:50 DB:1D6 ビルド:2  MOV:8

《技能》

新クトゥルフ神話TRPG P318参照

《概要》

 この仏像はもしも蘆屋道満が死亡した場合、明智光秀が計画を引き継ぐための保険だ。

 巫女がいなくとも儀式だけで黄衣の王を招来させることは出来るが、人が作った依り代に招来させると本来よりも弱体化した状態で顕現することになる。その際、KPはステータスを低く設定するか、能力を幾つか使えなくすると良いだろう。

 本来の目的とはほど遠い結果になる事を予想した蘆屋道満はそれを嫌い、万が一計画が狂った場合の最後の手段として残している。

 織田信長か安倍晴明にこの仏像の存在を聞いた場合、仏像は我々の守り神のような物であると答える。更には布教の一環として神を讃える呪文を教えられる。


『いあ! いあ! はすたあ! はすたあ! くふあやく ぶるぐ とむ ぶぐとらぐるん ぶるぐとむ あい! あい! はすたあ! 』


 探索者は信長からとりあえずの褒美として酒や料理を振舞われる。中身は蜂蜜酒であるが、適切な技能があれば匂いを嗅いだだけで分かる。

 

《黄金の蜂蜜酒》

時代別の価格/時価

《概要》

 黄金に輝く蜂蜜酒。飲んだ探索者は正気度を1D10増加させる。

 これを飲んだ探索者がハスターを讃える呪文を唱えると、ビヤーキーを一体呼び寄せることが出来る。

 条件を満たした探索者は招来方法が自然と理解出来るだろう。


 信長は探索者の実力を見込んで頼みごとを言ってくる。それはナコト五角形の痣を持つ人物についての話だ。

 ここ数年で妖怪や怪異による侵食が強まり、ついには城下町にまで現れるようになった。そのため安倍晴明が考案した結界を城下町全体に張り巡らすことにより怪異から町と民を守る策を実行しようとしたが、それには神であるハスターから魅入られた巫女が必要不可欠だった。しかし怪異の対処に追われ捜索が進んでいないのが現状である。そのため探索者の実力を見込んでナコト五角形の痣を持つ巫女を探してほしいという事だ。

 ここで探索者はしのぶがナコト五角形の痣を持つ巫女であることを教えてもいいし、断ってもいい。協力するふりをするのもいいだろう。もしも〈心理学〉ロールを行って成功した場合、嘘が見抜かれている事が分かるかもしれない。もしもその事を信長に指摘したとしても、本人は「何のことだ?」と覚えのないふりをする。


《KP向け情報》

 探索者がしのぶの存在を教え織田信長に協力する場合、探索者の行動は最終日の夜までに時間が飛ぶ。

 その夜に探索者が呼び出される場所は本能祀神社の境内だ。そこに待っていたのは安倍晴明と血に濡れた刀を持つ織田信長。白い着物を血に染めた帰蝶と儀式陣の中心に倒れているしのぶの姿だ。

 探索者は一目見ただけで両者とも死亡している事が分かる。探索者が信長と清明に何かを言う前に、清明はハスターを招来させるための呪文を読み上げる。


「いあ! いあ! はすたあ! はすたあ! くふあやく ぶるぐ とむ ぶぐとらぐるん ぶるぐとむ あい! あい! はすたあ!」


 夜空から一筋の光が降り注ぎしのぶの体に吸収されたかと思うと、一瞬、しのぶの小さな体がビクリと震え、次の瞬間には背中がはちきれんばかりに肥大化を始めた。

 着ている衣服がぼろぼろの黄色いローブへと変わり、白い透き通るような肌はゴムのような質感を持ち、手の先から腕が裂けたかと思うと、そこから指先までもが無数の触手へと変化を始める。

 その変化の過程で探索者は気が付くだろう。目の前にいるのはこの世には存在してはならないものであり、到底人知の届くものではないことを。この存在を見た探索者は1D10/1D100の正気度ポイントを失う事になる。

 この場合、KPはシナリオを終了させてもいいし、探索者の希望によってはハスターと戦闘を行わせても良いだろう。当然、この場にいる蘆屋道満と明智光秀もハスターを支援する事になるが、万が一にでも探索者がハスターを退け蘆屋道満と明智光秀を倒すことに成功した場合、世界は救われる。


《帰宅》

 探索者が城を後にしようとすると兵士が外まで見送るために探索者を案内する。しのぶも探索者と同様に返されるが、ここでしのぶが目を覚ますことはない。

 外に出るとすっかり日が落ちており、空には星が浮かんでいた。探索者は自分たちが泊まっていた宿屋が壊れている事を思い出すだろう。探索者の次の行動はしのぶが住んでいる家に行くことになる。


《KP向け情報》

 シナリオの本質に関わるため、KPはなるべく探索者をしのぶの家に向かわせると良いだろう。

 もしも別の場所を行きたいというPLがいた場合は、参加者の中で一人はしのぶの家に向かわせるなどの提案を行うと良いかもしれない。


《安土城・門前》

 外に出た探索者は〈聞き耳〉ロールを行う事になる。成功した場合、大きな虫の羽音が聞こえてくる。

 これに対してPLはそのまま立ち去ってもいい。

 声が聞こえる方に向かっていくと、そこには巨大な昆虫とも甲殻類とも言えぬが、そのどちらの特徴も併せ持つ怪物が倒れていた。この存在を見た探索者は0/1D6の正気度ポイントを失う事になる。

 怪物はトラバサミに挟まれ身動きが取れなくなっており、頭部のような渦巻き状の器官をゆらゆら揺らしながら両腕の大きなハサミで何とかトラバサミを外そうとしている。

 探索者に気が付いた怪物は『お~、丁度いい!助けてくれぇ〜!』という声を探索者の脳内に響かせてくる。


《ミ=ゴ》

能力値

新クトゥルフ神話TRPG P304参照


《概要》

 ミ=ゴはこの世界に呼び出された存在であり、外から呼び出された言わばオリジナルの存在だ。蘆屋道満が持つナコト写本には本来ハスターとは関係がないミ=ゴの招来方法も書かれており、儀式の準備を進めるために呼び出された。

 最初は渋々協力せざる負えなかったため儀式を手伝っていたが、世界を滅ぼされると種族の活動として困るため、何とか協力者を探そうと城を脱走したところ侵入者除けのトラバサミに捕まった。

 ミ=ゴは探索者が協力するのならば力を貸す。ミ=ゴの持つ技術力の多くをこの世界で活かせるかは不明であるが、探索者は未知の技術力にあやかれる事だろう。


《KP向け情報》

 ミ=ゴとの遭遇は所謂探索者の救済措置のような物であるため無視してもらっても構わない。

 四日目の終わりに探索者の体に四画目の線が刻まれる。


【12. 五日目・安土城】

 家に着くまでの間に探索者は夜空に浮かぶ月が不気味に赤く染まっていることに気が付く。更には、いくら夜中とはいえ不気味なほどに辺りが静まり返っていることが分かるだろう。

 途中、ふらふらと道を歩く人物とすれ違う。その人物の頭部は異様に発達した渦巻き状の器官がついており、明らかに人ではない事が分かるだろう。しかしその人物は探索者のことを確認しても気にも止めず、どこかへと歩いていく。


 家に着いたタイミングでしのぶが目を覚ます。しのぶはこれまでの出来事や命の危機により探索者を見るなり軽い錯乱を起こす。〈精神分析〉か〈心理学〉、または〈魅惑〉などの適切なロールに成功することで落ち着かせる事が出来る。失敗した場合は、その場で再び意識を失ってしまう。


《KP向け情報》

 しのぶが気絶している場合でもここからの行動を進めるのに問題はないが、もしも意識を取り戻している場合、探索者は技能に成功する必要無く話を進めることが出来る。更には探索者がこの世界に来る前までの情報も語られることだろう。


《しのぶの家》

 室内は非常に質素であり綺麗に整頓されている。

 小さな木机や木箪笥、部屋の隅には二人分の布団が畳まれ重なっていることが分かる。

 木机の上には和紙と墨、墨を擦るための道具が置かれている。和紙には文字が書かれており、何となくであるが手紙のような物だということが分かる。〈日本語〉の難易度ハード以上の成功で内容を読むことが出来る。


『あなたに別れの言葉も言えぬまま去ることを、本当に申し訳ないと思っています。次にあなたに会ってしまうともう二度と刀を握れない気がしたので、せめてもとこの手紙だけを残します。


あなたと共に過した時間は、短いながらも本当にいい思い出となりました。もう既に死んでいる人間が『いい思い出』と例えるのもおかしなことかも知れませんが、あなたと出会えて本当に良かった。


二度目の生を受けたからには、私には何か役目があるのでしょう。たとえこの身が引き裂かれそうな程耐え難い出来事が起きても。人に裏切られ続ける事であっても。私はあなたと、あなたが生きる未来のために戦います。


もしもこれを読んでいる人が他にもいるのなら、どうか知っておいてください。あの織田信長と名乗る者は二年前の本能寺の変で入れ替わった偽物。その本当の名は明智光秀。彼は織田信長と入れ替わることで立場を利用し世界を、この先の未来を滅ぼすための儀式を、あの安倍晴明と名乗る陰陽師と共に進めているのです。


だから私は戦います。たとえ誰からも信じられなくても、一人の少女の未来を守るために。この邪神に繋がる縁を断ち切るために。


さようなら、しのぶ。

私を信じてくれてありがとう。

私と信長様が出会った時を覚えていてくれてありがとう。


生まれた時代は違えども、あなたを大切に思っています』


 木箪笥には引き出しが二段あり、一段目には刀袋だけが仕舞われている。探索者はその刀袋が自分たちが持ってきた刀を仕舞っていた袋であることが分かるだろう。〈目星〉ロールに成功することで木箪笥の一段目の奥に箱があることに気が付く。どうやら一段目の引き出しは二段目と比べて奥行きが小さいらしく、隠し物をしまっておく箱が収納されているようだ。

 箱の中には探索者がよく知る現代の物が出てくる。一般的な女子高生が着る制服に財布や学生手帳。更にはスマートフォンや小説が出てくる事だろう。

 小説は帰蝶という女性に関する時代小説だ。内容は『戦乱の時代に織田信長に嫁いだ帰蝶が激動の中でたくましく生き抜き、本能寺の変で信長と死別するまで』を書いた恋愛小説である。ページをめくった探索者は『忘れてはならない大切な日』と書かれた紙を目にする。

 〈図書館〉または〈目星〉ロールに成功した場合、『天文18(1549)年』に印がつけられていることが分かる。小説の内容から、この年は織田信長と帰蝶が婚約した日であることが分かる。これは事前に手紙を読んで『帰蝶と信長が出会った日』を知っていると技能ロールを行わずとも見つけられるかもしれない。

 スマートフォンにはパスワードが設定されている。充電が残り少ないらしく、1D3回分しかパスワードを入力するチャンスは無いだろう。

 パスワードの解除には四桁の数字を入力する必要がある。パスワードの回答は帰蝶と信長が出会った1549年だ。

 パスワードを解除すると、直前まで使われていたらしい写真フォルダが表示される。そこにはしのぶの家族や友人らしき現代の人々の思い出が象られていた。一番新しい写真には、笑顔のしのぶとやさしく微笑む帰蝶が写っている。その写真を見た後、スマートフォンの充電がプツリと切れ電源が付かなくなる。


《襲撃》

 突如、家の戸が開いたかと思うと数人の兵士が室内になだれ込む。兵士はしのぶを見つけるとどこかへ連れて行こうとするが、「手荒な真似はするな」という声で一時的に騒ぎが収まる。その声の主は織田信長だ。

 信長は探索者に気が付くと「すまぬが、上からの命で巫女を連れて行く事にした」と言ってくる。「なるべく手荒な真似はしたくない」とも話すが、探索者はその口ぶりは本心ではないことを感じ取れるだろう。もちろんこれに対して探索者は抵抗することも出来るが、その場合は兵士が目の前に立ちはだかる。しのぶの意識がある場合も勿論抵抗して探索者に助けを求めるが、どのみち連れ去られてしまうことには変わりはない。しのぶの周りに激しい風が発生したかと思うと、一瞬にしてその場から姿が消えてしまう。更に信長は探索者に向かい「安全は明日まで保証する。もしも彼女を取り戻したいのであれば、明日の夜、本能祀で待っている」と言い、その場から姿を消す。

 信長が姿を消すと、残された兵士が溶けるようにして崩れ落ちる。その場には六芒星の印が描かれた札だけが残された。


《KP向け情報》

 ここからは最終日の決戦までの準備期間となる。PLが行動に迷うようであれば、KP側が誘導すると良いだろう。

 例えば仲間に神話生物がいるのならその技術にあやかれるかも知れない。必要であればKPがその神話生物が何が出来るのかを決めて提示すると良いだろう。

 五日目の終わりに探索者の体に五画目の線が刻まれる。


【13. 最終日・安土城】

 外に出た探索者は異様な光景に気が付く。空が赤く染まり、昨夜まで月があった場所にはひときわ大きい赤い星が輝いていた。

 辺りには人が一切おらず、その代わりに人の形をした抜け殻のような死体が地面のあちこちに転がっている。

 空には巨大な虫や鳥のような怪物が飛び回り、まるで探索者をあざ笑うかのような甲高い鳴き声が辺りに響く。その怪物は安土城の方へ飛び立って行くことが分かる。この光景を見た探索者は0/1D4の正気度ポイントを失う事になる。


《安土城・門前》

 安土城の中に入るためには正門と地下水路の二種類あるが、そのどちらから行ったとしても城内に兵士はいないためすんなりと中に入ることが出来る。


《安土城・城内・本能祀神社》

 探索者は気配を感じ取り、あるいは本能祀神社に惹かれるようにして石段の前まで辿り着く。何となくではあるが、神社にしのぶがいることが感じ取れるだろう。

 階段の両端に規則的に立ち並ぶ灯篭の炎が辺りを濡らす。周囲からは笛や太鼓の音色が鳴っているが、その中に混じり聞こえてくる笑い声に探索者は奇妙な違和感を感じる事だろう。

 階段を上がる探索者の体を一筋の風が吹き抜ける。赤く染まった木の葉が舞い落ち、空中で灰のように朽ち果てた。

 突風に吹き上げられた木の葉が視界を覆う。目の前が開けると、階段の踊り場に般若の面をつけた人物が立っていた。右手を腰に下げた刀の持ち手に置き、左手をだらりと脱力させた状態で夜空を見ている。その人物は探索者に気が付くと「来たか…」と呟く。探索者は織田信長の声であることが分かるだろう。

 探索者は織田信長から放たれる殺気に気が付く。それに対して探索者は臨戦態勢を取るかもしれない。


《KP向け情報》

 ここからの戦闘は所謂イベントシーンだ。探索者への戦闘ダメージは発生しない。

 戦闘は《探索者たちのDEX順→織田信長(明智光秀)》の順番で処理される。探索者の織田信長への攻撃は全て安倍晴明による結界で防がれる。

 織田信長は《刀剣:日本刀》または《刀剣:太刀》を持っている探索者へ日本刀+アーティファクトの効果で5D10の攻撃を行う。狙われている探索者は〈幸運〉を振る。この判定は帰蝶の生死に関わる。


《織田信長との戦闘》

 探索者に当たるはずだった攻撃は、織田信長と探索者の間に割って入った帰蝶によってさえぎられる。帰蝶は切り付けられると同時に織田信長へ刀を振り下ろす。帰蝶の体が地面に落ちると探索者の足元まで転がっていく。

 白い美しい着物は鮮血に染まり、探索者に何か言葉を発しようとするも口から血が溢れだし咳込んでしまう。

 帰蝶は探索者に刀を託し、そのまま眠るように気絶する。帰蝶の生死は事前に行われる探索者の〈幸運〉判定によって決まる。

 帰蝶に切り付けられた織田信長は顔と腹部の傷口を抑え立ったまま苦しみ始める。途端、背中が大きく肥大化したかと思うと着物を破きながら白い体毛が露わになる。こめかみと上顎からは2本の鋭い牙と角が生え、黒い髪は一瞬にして白く染まる。バキバキという音と共に体が変化していき、音が鳴り止んだのは元の人間の姿が見る影もなくなった時だった。


《白鬼-イタクァ》

能力値

STR/150 CON/350 POW/150 DEX/100 SIZ/150 HP/50

耐久力:50 DB:1D6 ビルド:2  MOV:8

《技能》

新クトゥルフ神話TRPG P312参照

《概要》

 明智光秀が持つイタクァの力が暴走して変化した姿。あくまでイタクァの力を扱っているという状態なのでオリジナルよりも弱体化したステータスとなっている。KPの裁量で自由にステータスや技能を変化させるといいだろう。

 白鬼-イタクァを見て失う正気度は1/1D6。


《白い般若面》

 この面を付けた探索者はダメージロールを行う際に1D10の正気度またはHPを1減らす。正気度またはHPを減らした探索者はダメージロールの値に追加で1D6+4のダメージボーナスを付与する。

 不定の狂気に陥った探索者は追加で1D10の正気度またはHPを1減らす事でダメージロールの値を1D6+4の代わりに3D10のダメージボーナスを付与する。

 これ以降は1D10の正気度またはHP1の代わりに2D10の正気度またはHP2を減らす事になる。

 このアーティファクトによる効果で一時的狂気と不定の狂気に陥ることはないが、戦闘終了かシナリオ終了時に不定の狂気に陥っている場合は任意の処理をする必要がある。

 白い般若面を使用した探索者はその場で〈クトゥルフ神話〉技能を1ポイント成長させる。


《本能祀の変》

 戦闘終了後に着物姿の女性が生きている場合は名前や話を聞くことが出来るだろう。その中で織田信長と安倍晴明の正体が分かるかも知れない。

 探索者は次に神社に向かう事になる。

 境内には六芒星の中心に横たわっているしのぶと、しのぶに向かい何かの呪文を唱える安倍晴明の姿がある。

 安倍晴明は背を向けながらも探索者の存在に気が付く。飄々とした雰囲気ではあるが、実際は安倍晴明に抵抗する余裕はあまりない。儀式や目的について語る事があるかも知れないが、最後にはナコト写本と共に死を選ぶ。

 安倍晴明の体が燃えると同時に境内の周りに火が上がる。炎は酸素を少しずつ奪っていき、やがて探索者は意識が朦朧としてその場に倒れる。視界に微かに写る安土城と燃える本能祀の様子を見ながら探索者は意識を失う。


【14. END】

 探索者が目を覚ますと何もない白い空間にいた。目の前には帰蝶がおり、探索者が事件を解決した事を告げるだろう。

 探索者のように現実の世界から引き込まれた人間は既に元の世界に戻っているが、あの世界で死んでしまった人間の魂は戻る事はない。多くの犠牲はあったものの、まぎれもなく探索者は世界を救った英雄となったのだ。この出来事は誰にも知られる事はないが、目の前にいる帰蝶だけは知っている。

 帰蝶は探索者に感謝の言葉を述べるだろう。探索者が望むものがあれば縁を繋いで手に入るかも知れない。

 会話の最後に帰蝶はお礼を言い、探索者の視界が再び白む。次に目を覚ました場所は病院の一室だった。

 その傍らには家族や友、恋人がいるかも知れない。

 探索者はあの世界での出来事が夢か現実だったのか考えるだろう。どちらにせよ探索者は、また退屈で平凡で、それでいて人の縁が溢れた儚い日常へと戻るのだ。


【シナリオクリア報酬】

《SAN値回復》

シナリオクリアボーナス 1D10

帰蝶生存 1D6

ツァールとロイガーの触手破壊 1本×1D3


《クトゥルフ神話ポイント》

シナリオ内でのミ=ゴ、ビヤーキー、ツァールとロイガー、イタカァ、黄金無明釈迦如来との接触 3ポイント。

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【新クトゥルフ神話TRPG・儚き縁を求めて】 @raguna397

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