夏を乗り越えて

はぁふ・くうぉうたぁ

あの日も、こんな感じの暑さだったよな。

『例年に無いほどの猛暑』

ここ数年は毎年TVで同じことを叫んでいるような気がする。


気を抜くと倒れそうな暑さの中、盆前に恒例の墓参りを済ませる。

さすがにこの暑さでは蝉も元気が無いようだ。



結局、100のレースでアイツの背中を追い抜く事は叶わなかった。

全小・全中、チームメイトとなってからのインターハイ、インカレ。

ことごとく、あと一歩が足りなかった。


個人種目では勝てなかったが、リレーでは何故かウマが合い、

選抜チームとして出場した大会も含め連勝に連勝を重ねた。


1走

スタートが得意、カーブに強い、プレッシャーに強い


2走

速い、スタミナある、少しくらい競り弱くても大丈夫

アンカーとのダブルエースなら文句なし


3走

カーブに強い、多種目との兼任があっても平気な程に器用度が高い


4走

競り合い・勝負に強い、プレッシャーに強い、チームのエース


セオリー通りのオーダーで良いのか、

裏をかいて大胆に組み替えるか、

ダブルエースを逆にしてみようか、

ああでもない、こうでもない・・・何度も話し合って、試して。



陸上雑誌に何度も取り上げられ、“世紀のライバル”と書かれた事もあった。

本人同士は気にせずとも、周囲が勝手に盛り上がって勝手に盛り下がった。


インカレを制覇して、さぁ実業団で別チームだ。

でも代表チームでは必ず組もうな。一緒に走ろうな。

そう約束していたのに、志半ばでアイツは去ってしまった。


バカヤロウ。病気になんか負けるんじゃねぇよ。


お前の手にバトンをねじ込みたくて、

お前のために不器用ながらも3走やれるように頑張ったんだぞ。


アンカーはお前しかいないんだぞ。

お前がいなくちゃダブルエースなんて言えないんだぞ。



何を目標に走るのか、わからなくなった時期もあった。

それでも我武者羅に走り続けて、代表チーム入りも果たした。

不動のエースとして、アンカーを務める事にもなった。



---でもな、お前がいなければ意味が無いんだ。

   俺がバトンを渡したいのはお前だけなんだ---



見ていろよ、相棒。

お前のライバルが世界に名を轟かせるのを。


幸いにも今回の世界陸上は東京開催だ。

青山霊園まで大歓声を響かせてやるぞ。



そしていつかまた出会えたら、

俺の思いを目一杯込めたバトンをその手に叩き込んでやる。


覚悟しておけよ。俺が叩き込むバトンは相当重いぜ?





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志半ばで空へと旅立った 名も無き全てのアスリートへ捧ぐ。

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