１２番線に行きたいのですが

１２番線に行きたいのですが

　埼玉にある大宮駅は日本きっての大ターミナル駅です。

　ＪＲ、昔は国鉄と呼びましたけど、それだけでも宇都宮線、高崎線、京浜東北線、埼京線、川越線、上野東京ライン、湘南新宿ラインとあります。東北貨物線を活用して乗り入れる武蔵野線も加えるとさらに増えますね。

　東北、山形、秋田、北海道、上越、北陸と新幹線も停まります。

　私鉄も東武アーバンパークライン、埼玉新都市交通、いわゆるニューシャトルがあります。

　あるとき、そうですね、名前は仮にＴくんとしましょう。話が話ですから、本名はまずいでしょうから。

　Ｔくんは大宮の実家から川越のキャンパスまで通う大学生。その日、川越で合コンをして、帰宅すべく川越線に乗り込みました。

　かわいい女の子から適当にあしらわれたのが悔しくて、Ｔくんはコンビニで買った缶入りハイボールを川越駅のホームでぐいっとやります。それがいけなかったのか、Ｔくん、大宮駅を乗り過ごします。大宮を過ぎると川越線は埼京線となり、新宿方面に向かいます。

　途中の駅で目覚めたＴくん、大慌てで乗り換え、最終電車で大宮に戻ります。

　駅に着いたときには時計は零時を回り、日付が変わっていました。

　埼京線の長い階段をのぼっていくTくんの前から、階段を降りてくる人物がいます。これが若くてきれいな女の子。思わずＴくんは微笑みます。

　すると、女はこう声をかけてきました。

「あの、１２番線に行きたいのですが」

　Ｔくんは鉄道オタクではないので、番号で言われてもわかりません。

「１２番ですか、なに線ですか？　京浜東北？　宇都宮線？」

　女は答えずに微笑んでいます。

「この下は埼京線と川越線のホームですけど」

　階段の下を指差したTくんの腕を女がつかみます。

「一緒に行こう」

　馴れ馴れしい口調に警戒したＴくんは手を振り払います。

　気を悪くしたのか、女は悲しそうな顔をして、階段を降りていきました。

　改札を出るところでＴくんは気付きます。

　あれ、上りの最終ってまだあるんだっけ……

　Ｔくんは下りの最終で大宮に戻ってきたわけですから、当然、もう下りの電車はありません。

　時刻表を確かめると、上り方面の最終電車は２３時４６分大宮発池袋行き。

　そう、女に声をかけられたときは上りの最終電車も行ってしまった後だったのです。

　次の日、大学でＴくんはサークル仲間に昨夜の女の話をしました。

　すると、鉄道に詳しい友達がこう言うのです。

「命拾いしたな。その女、やばいぜ」

　なぜそんなことを言うのか、Ｔくんは理由を尋ねます。

「お前は知らないだろうけどな、もうないんだよ、大宮駅に１２番線は」